<第38回職域・学生選手権大会A級(1982年8月)>


                  観戦記:高野 仁
第33回大会以来、5回連続でA級準優勝と優勝まであと一歩のところで手の届かない 慶應義塾大学チームは、会の学生責任者である牧野守邦(工学部3年)会長のもと、選 手の構成に新機軸を打ち出した。7月22日に夏休み開始から、夏合宿までの期間にA 級のチームに出場できそうなメンバーを総当たりにして、成績のよいものから5人を選 ぼうというのだ。そのチームで合宿終了後から大会までの練習日の最終戦には、B級の チームと団体戦の実戦をする。この経過の中で選ばれたのは、牧野を初めとし、小飼伸 一(法学部政治学科4年)、種村貴史(理工学部2年)、高野 仁(法学部政治学科4 年)、藤本さつき(文学部3年)の5名である。今考えるとこのメンバー、小飼はこの 年10月の名人戦東日本予選の準優勝者、牧野は1986年の準名人、種村はのちの永 世名人と豪勢なものだった。

第1回戦(対仙台市役所)

仙台市役所は、A級での個人優勝経験も豊富な阿部 誠を中心とした古豪である。学生 チームが多い中、職域のチームとしてA級に踏みとどまり気を吐いている。牧野、小飼 は勝利をおさめたものの、藤本は阿部 誠に破れ、高野は阿部純子に7枚差で負ける。 残る1試合は、種村対畠山戦。ところが、種村の様子がおかしい。酸欠状態となり、右 手が痺れ、握力が極端に落ちてしまっているのだ。結果、種村敗戦で、勝点を取れず、 はやくも悲願の優勝に赤信号がともってしまった。ただの敗戦以上に我々を暗い気分に させたのは種村の状態であった。彼は、昼食休憩後の2回戦開始までにカラータイマー 点滅状態から復活できるのであろうか。

第2回戦(対国際基督教大学)

ICUは第34回の優勝チーム。当時の主力選手がごそっと抜けたあとも、きわどくA 級にとどまっている。高野は、相手チームの主将鈴木紀子に6枚差で破れるものの、他 の4人が順当に勝ちをおさめ、勝点1をあげる。体力の快復の待たれた種村は、ICU でも、経験の浅い佐野を引き、無事に勝利するとともに復調する。ここで朗報が入っ た。 仙台市役所が富士高に破れたのだ。次に慶應が富士高に勝てば、勝点2のチームが2チ ームないし3チーム並ぶ。そうすると次は勝数の多いところが予選1位となる。勝数も 同じ場合は、主将成績で決まる。以下副将成績、三将成績…と順に比較していく。チャ ンス到来である。

第3回戦(対富士高)

静岡県立富士高等学校は、これまでA級優勝10回、第35回から第37回までは3連 覇を成し遂げている強豪である。しかし、若さは時として強さにも弱さにも変化する。 ここで勝点をあげなければ、決勝進出への道はないのである。小飼が早々に差を広げる。 牧野、種村も優勢である。慶應チームの中では見劣りのする高野、藤本もどちらかとい えば、押し気味に試合を進めている。「高野さん、その調子」と、牧野の声がかかる。 「ちょっと待て、今のは俺がお手付したんだ」と呟く。掛け声は正確な状況判断が必要 だ。善戦むなしく高野は6枚差で吉野由樹子の前に破れる。しかし、吉野が大差でリー ドを奪っていたら、どうであろうか。勝負にIFは禁物だが、他の選手の展開にまた違 ったものが生じていたかもしれない。結局、4勝1敗で慶應が二つ目の勝点をあげる。 第3回戦終了の結果、勝点2、勝数10で、慶應と仙台市役所が並び、主将成績で慶應 が予選第1位となり、決勝戦に進出した。

決勝戦(対九州大学)

九州大学は強豪と言われつつも、東京の試合会場までの距離から、なかなか出場できな いでいた幻のチームであった。しかし、前々回C級で出場して以来毎回昇級でついに A級でそのベールを脱いだ。A級選手5人をようする彼らは、予選では他を寄せつけ ず、 決勝に進出してきた。学生選手権の覇者田畑謙を初めとし、松本、野中、和田、藤田 の強力布陣である。まず、高野が藤田の前に18枚差で破れた。粘る藤本も田畑との実 力差はいかんともしがたく敗戦。しかし、慶應の3本柱はパワー全開、勝利は慶應のも のとなった。慶應は第29回以来5年ぶり7回目の優勝。まさに悲願の優勝であった。


<個人的感想>

全敗ながらも優勝。それも在学中の先輩達がチャレンジしても成しえずに卒業していっ た優勝を最終学年で経験。まさに団体戦ゆえの巡り合わせであったのだろう。
実は、私は学部卒業後、通信教育部に籍をおいて、第41回大会でもう一度優勝を経験 している。この時は六将で、第3回戦のみのワンポイント。富士高相手に相手の副将か ら勝利をあげた。この時の富士高の主将は、のちに慶應に進学することになる望月仁弘 だった。彼は私の相手に向かって「お前がまず勝たなきゃ駄目なんだぞ」と激励するの だが、逆にこれがプレッシャーになったのか、このあとお手付をして、試合は私の優勢 のまま4枚差で勝利をおさめた。
4試合負けての優勝も、ワンポイント勝利の優勝も、どちらも団体戦の妙を感じさせて くれる良い思い出となっている。できれば、もう一度、今度は職場のチームで職域大会 に出場してみたいものである。


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