空振り〜そのあとで〜

The forbidden fruit (5)

Aug/2009 Hitoshi.Takano


 出札を取りに払いにいって、「空振り」をしてしまう。出札を突きにいったら、指先が 浮いてしまう。こういう経験はみなさんきっとお持ちのことだろう。
 さらに、札を払ったが、出札の隣から払ってしまい、出札はそのまま残っていたという 「払い残し」の経験もあるのではないだろうか。
 もちろん、こういうことのないように日頃から、払いの練習やら「札直(ふだちょく)」 の練習をしていることだろう。
 「空振り」やら「払い残し」をしないようにするのが本来の姿であるが、してしまった ものはしかたない。そのあとのフォローの仕方を書くことにした。
 本来の姿は違うが、フォローの仕方を間違えると一枚損をすることもあるので、書いて おかなければならないのである。そういう意味での“The forbidden fruit”である。

(1)空振り・払い残しのフォロー

 長い間、この世界にいれば、多くの初心者・初級者との指導や対戦をすることになる。 私どもの会も今年は、例年にない多くの新人を迎えた。
 こうした新人たちが、この世界に慣れてきて、払い手を学び、試合形式で練習を始め ると「空振り」や「払い残し」に対してのいわゆるフォロー(再度、当該札を取りにいく 行為)について、印象的には10人中9人までが、同様の行動を取る。
 それは、最初の払いと同じ動作での再度の払いである。
 解説しよう。下の配置図を見て欲しい。
 敵陣の左下段に内側からABCDと4枚の札が並んでいたとしよう。出札はB。このとき 札押しで払うならば、Aの札からDの方向に払い飛ばす。
 この時に札直の払いを心がけたが、CからDの方向()に払い飛ばして、Bの札が残ったと しよう。相手が何も動かなかったと仮定すれば、払い残した本人がどうするかというと 初心者は、残ったABの札をAからBの方向()、 すなわち、当初払ったと同じ方向に払いなおすのである。
自左下段 自左中段 自左上段   敵右上段 敵右中段 敵右下段
               H↑
               G↑
           
           
             
             
             
             
             
             
             
             
           
           
               C↓
               D↓
自右下段 自右中段 自右上段   敵左上段 敵左中段 敵左下段
 これが、相手の右下段で、外側からHGFEと並んでいてFが出たが、GからHの方向()に 払ってしまった場合も同様で、払いなおしは、EからFの方向()に払いなおすことが多いのである。
 しかし、これは動きにロスが生じる。前者の例であれば、逆方向に戻ればいいのである。 C→Dの方向に払ってBが残ったなら、A←Bというように逆方向()に払いなおしたほうが、動きに無駄がないのである。後者の場合では、H←Gの 方向に払ってFを残したのだからF→Eという逆の方向() に払いなおしたほうが動きに無駄がないのである。
 この逆方向に払う払いなおしのポイントは、体の重心移動の戻しと腕の振り、手首の返しで ある。体の重心が移動しきっておらず、腕も伸びきっていなければ、ほぼ手首の返しの素早さ のみで逆方向に払いなおせることができる。体の重心は残っているが、腕が伸びきってしま っていれば、腕の振りをいかにすばやく逆方向に戻すかが大事である。体の重心も移動しき ってしまっていれば、意図的に腰を落として、重心を戻すとともに、腕の振り、手首の返し を総動員しなければならない。
 3字決まりの出札などのときにで2字で出すぎてしまって、「オット」と浮いてしまった ときなどは、手首をやわらかく使って逆方向にスナップをきかせて払えばよいのである。  上段中央付近の突きの場合も、手を戻して突きなおすのは動きとしてもったいない。 その浮いている場から、引くようにもっていくか、スナップをきかして払うかするのが よいだろう。上段中央に複数の札があり、隣の札を突いてしまったような場合も、同様 である。これを何度も同じように突くのは、「リングにかけろ」の志那虎のローリング サンダーのような技になってしまう。あの漫画のようなスピードが出せればよいが、 現実ではあのスピードは無理なはずである。
 結論は、最初と同じように払いなおしたり、突きなおしたりするのは、その大部分の ケースにおいて動きに無駄が出てもったいないということなのである。したがって、「空 振り」や「払い残し」のよいフォローの方法としては、すぐにブレーキをかけ、その場 から最短の距離で、重心移動、腕の振り、手首使いを動員して最大限のスピードで 戻ることなのである。
 もちろん、その際、上段が対象の場合など、出札のない陣の札を触らないように注意 しなければならない。
 札を払い残したり、空振りをしないというのが一番だが、もしも、起こってしまった ときの準備はしておいたほうがよいのである。
 この空振り対策の払いの練習をするよりは、空振りしない払い、払い残しのない払い の練習をするほうが大事なことは見失わないでほしい。

(2)空振りをしないために

 空振りをしないためには、基本的には、素振りを中心とした払いの練習である。これを 反復練習して、身体に浸み込ませるのである。
 しかし、この練習をやっていても、いざ実戦になるとついつい空振ってしまうという 場合はどうすればよいか。
 実は、こういうときに一番良くないのは、空振りを繰り返し、空振らないように払おう 払おうと強く意識すればするほど空振りをしてしまうという精神的な負のスパイラルに 陥ってしまうことである。
 空振らないように払おうと強く意識することが、逆に身体の状態を空振るようにもって いってしまっているのである。これに対する対策は、意識を変えるしかない。
 大体、空振りする場所は、全部というわけではなく、どこかに集中するものである。 そこの札を取りにいく時に、払うという意識を捨て去るのである。「押さえたって いいじゃないか。」と思えばよいのである。
 実際に押さえて取れることもあれば、押さえにいくことでスピードが鈍り、敵に取ら れてしまうこともあるだろう。それでも、しばらくはしかたないと思って気にしないこと にするのである。
 このように意識を変えることで、「払わなければならない→だから空振る」という 負のスパイラルから抜け出せるのである。
 こうして気持ちを切り替えて、試合に集中することで、いつのまにか払いにいくと 空振りしていたところが、自然に払えている自分に気づくことになるのである。
 気持ちの切り替えで、払いが戻るのも、それまでの日頃の素振りなどの払いの練習 の基礎があってのことであることは忘れないで欲しい。


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