即戦力の誘惑

The forbidden fruit (7)

JAN/2011 Hitoshi.Takano


 今までの"The forbidden fruit"と少々毛色が変わるかと思うが、今回は団体・組織としての 観点から書いてみようと思う。
 今までは大部分は個人としての戦い方の中から書いてきたが、そろそろネタも尽きてきたと いうようにも感じている。そこで、“禁断の果実”の切り口を団体・組織という点に変えてみ たのである。
 願わくは、今回が"The forbidden fruit"シリーズの最終回とならないことを…。

即戦力の誘惑

 高校や大学のクラブ活動というのには、基本的に年限がある。高校であれば、最短修業年限は 3年ではあるが、だいたい、大学受験などがあるので、実際の活動期間は2年から2年半という ケースも多いだろう。
 そんな高校にあって、中学生時代にある程度の実績を残してきた選手は「即戦力」として重要 である。初心者に一から教え始めて、まあそこそこの練習相手に成長するのには最低でも数か月 かかるとみてよいだろう。実質2年なり、2年半なりの高校のクラブ活動の年限を考えれば、こ の数か月をスキップできるということは、高校においては、喉から手が出るような即戦力である。 特に部員数が少ないところではなおさらである。
 そういう意味では、中高一貫校で、中学から高校まで6年間(実質5年〜5年半)の部活がで きるところは、こうした高校における即戦力養成システムでもある。
 大学になると、学部だけでも4年あり(医学部や薬学部は6年制であるが、病院実習や国家試 験を考えると実質活動期間はこの二学部の場合も4年制の学部と大きく変わるものではない)、 留年やら大学院への進学者などもいて、高校とは少々活動の期間に余裕があると言えることにな る。
 しかし、大学においても、高校からの「即戦力」の入学は、戦力面で大歓迎である。中学時代 にA級にあがっている選手は少なくとも、高校時代にA級にあがっている選手は、大学のクラブ活 動の戦力を大きくアップさせてくれる。
 大学においても、高校と同じでクラブ活動の構成員が少なければ少ないほど、この「即戦力」 の加入の影響は大きくなる。

 さて、そして、ここからが本題である。

 「即戦力」は、実は"The forbidden fruit"になりうる存在なのである。
 何故なのか?
   毎年、一人とか二人とか、少ない人数しか新入会員として入ってこないケースを考えてみよう。 「即戦力」の加入で、先輩たちが満足してしまい、会員の拡大を図らなくなってしまうケースが あるというのが一点である。
 また、「即戦力」とまったくの初心者が入ってきた時に、まったくの初心者のほうが、その経験 ・実績の差のゆえに続かなくなってしまうケースがあるというのが次の一点である。
 同時期に始めていた人間が、抜きつ抜かれつ、また、一方的に差をつけられたとしても、一緒に 続けているというのは、切磋琢磨の対象であったり、差をつけられれば一番身近な目標となるもの である。それがいなくなると、すでに差のついた「即戦力」同期や先輩たちに一人で追いついて いこうという姿勢を持ち続けるのは、なかなかに難しいものなのである。よほど目標・目的をしっ かり持たないと心が折れてしまう可能性があるからである。
 学校のクラブ活動で初心者を育てるには、複数の同期の仲間を一緒に育てるほうが育てやすい のである。

 こういうことがあるので、「即戦力」だけに期待する、即戦力だけに戦力UPの役割を担わせる というのは、禁断の果実なのである。

 もちろん、「即戦力」選手の加入は大切であり、組織にとって大きな財産である。その経験と 実績は、新たな刺激を今までの組織や構成員に与えてくれる。
 ただし、初心者をきちんと育てられない組織は衰退するのである。初心者を育てることは、上級 者にとって、実は競技かるたを言語的に表現する、もしくは肉体的に例示して見せるという行為に おいて、自分自身のかるたの成長に非常に有益なことなのである。
 この訓練を毎年毎年、新入会員が入るたびに繰り返す組織は強くなる。組織の財産として引き 継がれ蓄積されていくからだ。
 一年間、初心者が全くはいらなかったら、この蓄積が断たれてしまう。これは、今までの財産 を食いつぶす行為に他ならない。
 「即戦力」が入ろうが入るまいが、初心者の新入会員をある程度の規模で確保することが、実 は、組織の将来に対する重要なミッションなのである。

 「即戦力」は、喉から手が出るほどほしい。これは、各団体間違いない思いだろう。しかし、 禁断の果実であることも忘れてはならない。「“即戦力”が入ったからもう他の新入会員獲得は 手間もかかるしもういいや」などという誘惑の声に負けてはいけない。
 自前で初心者を育てられないチームに未来はないのである。

 かく言う私は、職域学生大会に職域のチームとして、5人ぎりぎりないしは5人に満たない 人数で団体戦出場をしている。
 「禁断の果実」とわかっていてもいい。「即戦力」が、喉から手が出るほどほしいというのが 本音である。
 我こそは「即戦力」という人材は、ぜひ、我々と一緒に職域に出場してほしい。それには、まず、 うちの組織に就職してもらわなければならないのだが…。(→興味のある方は、こちらのページを 参照してほしい。)


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