左京大夫道雅

今はただ思ひ絶えなむとばかりを
   人づてならで言ふよしもがな


決まり字:イマワ(三字決まリ)
 作者は、儀同三司藤原伊周の子(儀同三司母の孫)で ある。4歳までは祖父である「中の関白」道隆が存命であり、祖父からも将来を期待 されていたようだが、祖父の死とともに彼の人生は変わる。父伊周(享年38歳)の死後 は、孤立していったらしい。「小右記」には彼の奇矯な振る舞いが記されている。それ は自分の一族を追い落とした大叔父道長の御堂関白家への恨みからの行為であったようだ。

 恋してはならない相手に「あきらめましょう」と一言だけ、人づてでなく伝え たい(もう一度逢いたい)という思いを詠んだ歌である。恋してはならない相手 とは、伊勢の斎宮であった当子内親王であった。

 さて、話は変わる。競技かるたを始める際には、序歌を詠む。競技かるたの詠み は2枚目以降は前の歌の下の句を詠み、1秒の間のあと次の上の句を詠むことに なっている。しかし、1枚目の詠みの時は、詠むべき前の歌がないので、取り手が 詠みの雰囲気を知るとともに、次の上の句に続く下の句を詠むために、序歌を詠む のである。ちなみに序歌の下の句は2度詠む。序歌の下の句2度目の詠みあとに 1枚目の詠み札が朗詠されるのである。

 序歌は小倉百人一首以外の歌なら、何が詠まれても悪くはないのだが、全日本 かるた協会では、佐々木信綱氏の選定で指定序歌を定めている。

        難波津に咲くやこの花冬ごもり
              今を春べと咲くやこの花

 この歌は、古今和歌集の仮名序に登場し、枕草子21段にも誰でも知っている歌 のたとえとして引用されている。ただ、仮名序では「今を春べと」ではなく「今は 春べと」と記されている。
 これは、「今は」であると、序歌の下の句の2度目の詠みの際にここで取り上げ た「今はただ」の札と取り手が間違える可能性があるので、それを防ぐための措置 でもあるらしい。このようにしていても、実際、「いまは」の札と「いまこ」の札 が同一陣内にあって「いま」決まりになっていたり、「いに」の札を加えて「い」 決まりになっていたりすると、序歌下の句2度目の詠みで札を払ってしまう競技者 をたまに見かける。回りもびっくりするが、何と言っても一番動揺するのは、払って しまった本人である。気をつけたいものである。


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1995年11月(2008年5月改)  HITOSHI TAKANO