「名人戦改革私案」
MAR/1999 Hitoshi Takano
(1) はじめに
現行の競技かるたの名人戦は、昭和30年にはじまり、10人の名人が誕生している。本戦である番勝負は、初期は2日制で7番勝負であり、のちに1日制の5番勝負に変更された。また、現行の予選のあり方や、挑戦者決定戦のあり方にも様々な意見が述べられている。
名人戦を斯界の伝統と権威の象徴ととらえる考え方もあれば、競技上のタイトルの一つにすぎないという考え方もある。その考え方の意味合いで、この議論も様々な変化を生むことと思うが、あくまで私の個人的意見をここで述べてみようと思い立ち、ここに記す次第である。
(2)現行制度の問題点
i)予選
現在の予選は東西に別れてのトーナメント戦を10月の第3日曜あたりに行い、11月23日前後に東と西のそれぞれの予選優勝者同士の挑戦者決定戦(3番勝負)で決定する。したがって、10月の予選の日に5・6試合を勝ち上がれるスタミナを持った、その日に好調な選手が一発屋的に登場することも可能である。シンデレラボーイの誕生というドラマは生じやすい試合形式かもしれない。
しかしながら、私は名人戦という格式を考えた時に、シンデレラボーイの登場には、もう少し高いハードルとなるような試合形式を考えたほうがよいと考えている。
トーナメント戦においては、強い選手の固まるブロックができてしまったりもすれば、ぜひ見たいという有力選手同士の試合が実現しないこともありうる。また、トーナメント戦では、いくら強くても1回負けたら、その時点で終わりである。したがって、5・6連勝できるタイプの選手でないと挑戦者決定戦にさえ出場できない。さらに、現行制度では、予選における東日本所属選手と西日本所属選手との対戦は、予選優勝者同士の挑戦者決定戦に限られてしまう点にも物足りなさを感じる。
ii)本戦
1月の第2土曜あたりに近江神宮で開催される。ディフェンディング・チャンピォンである名人と挑戦者の5番勝負である。3勝を先勝したほうが名人位につく。名人戦というと将棋や囲碁の名人戦を思い浮かべる。1番が二日制の勝負で、全国各地を巡りながら7番勝負を行う方式だ。7番をフルに戦うと3ヶ月近くかかる勝負だ。それを考えると1日で決着がつく「かるた」の名人戦は物足りない気がする。その1日の好調・不調で勝負が左右されてしまうこともあるわけである。コンディションを試合当日にベストにもっていくのも勝負師の技術のひとつだといってしまえばそれまでだが、場合によっては興趣が削がれてしまう事態も生じてしまうのだ。それに5回戦を1日でこなした時、5回戦までいけば9時間に及ぶ勝負である。休憩時間も十分とは言い難い。はたして疲労が相当出ている4回戦・5回戦が条件は双方同じだからといって、ベストマッチたりえるのだろうか?
(3)改革私案
i)予選
私は、挑戦者の決定は、名人戦リーグにより決定することを提案したい。トーナメント戦と違い、リーグに所属できるような自他ともに認める強豪との総当たりを制したものを挑戦者とすべきだと思う。どの対戦をとっても好カードとなることは間違いないであろうし、名人戦リーグに所属していることが、一つのステータスとなるはずである。リーグ戦の人数は8人としたい。内訳は、前回のリーグ上位4名(うち順位一位は、現準名人=前回の名人戦敗者)と全日本かるた協会の定めるランキング制度(ポイント制でいくのかレーティング制度をとるかは今後の議論にゆだねる)の最上位者と次点者(タイトル保持者・リーグ在籍者を除いたランキングの上位2名)ならびに東西の予選優勝者とする。
したがって、東西予選の前のある時点でのランキングということを決めておくことが必要である。リーグ戦の参加者には、順位をつける。順位1位〜4位は前回の成績でつけ、5位から8位は出場資格を決めるランキング制度の順位によるものとする。順位をつける理由は、リーグ戦成績が同じだったときに行うプレーオフで生きてくる。プレーオフは順位下位からのパラマス方式とする。たとえば順位1位・4位・7位の3人が同成績だとすると、まず、順位下位の4位・7位が戦い、勝ったほうが順位1位と戦い、その勝者を挑戦者とするという方式である。
これならば、東西予選枠などもうけずにランキング上位8人でリーグ戦をやればよいではないかという声も聞こえてこよう。しかし、予選枠を設けることで、一発屋というかシンデレラボーイの出現の可能性を残し、名人戦にのみ絞って勝負するという選手というランキングが反映されない強豪にも道を開くことができるのである。さらに、半分を前回のリーグ残留者とすることで、名人戦リーグの残留争いというドラマをみせてもらいたいのである。(降級は、成績の下位から4名とし、下から4番目と5番目が同星の場合は、リーグ戦下位者が降級となる。)
日程案としては、東西予選は、9月の春分の日前後、リーグ戦前半4試合は10月の第3日曜に西日本の会場で、リーグ戦後半3試合(+プレーオフ)は11月23日前後に東日本の会場でおこなうこととする。
なお、現行制度からの移行初年度には、準名人と全日本選手権者、選抜優勝者、東西予選決勝進出者(4名)とランキング最上位者の8名のリーグとしたい。準名人・選手権・選抜が同一人で重なる場合は、不足する人数をランキング上位順に補う。リーグ順位は、1位は準名人として、2位以下はランキング順の順位とする。
ii)本戦
現行の1日で5番勝負(3番先勝制)をあらため、将棋・囲碁のように全国の会場を移動しながら行いたいものだ。将棋の竜王戦のように第1戦は海外で行えるとよいと思うのだが…。勝敗には、セット制を導入したい。1セットは、2試合先勝の3番勝負とする。したがって1日に最高3試合までしか取らない。選手の疲労度を考え、好勝負をふやしたいからである。1日の試合のインターバルは充分に取るようにする。第1試合は午前10時暗記開始、第2試合は午後1時暗記開始、第3試合は午後4時暗記開始とする。このセット制で、先に3セット取ったほうが名人位に就位するというわけだ。試合の時期だが、第1セットは12月23日としてはどうだろうか。
そして、第2セットを1月の第2土曜、第3セットを1月の第4土曜とし、第4セットと第5セットはそれぞれ2週間の間をあけて行ってはどうだろうか?
ただし、これは、将棋や囲碁のように大新聞という大きなスポンサーがつかなければ不可能だろう。多くの選手は、他に仕事を持ちながら、競技かるたをやっているわけだ。フルセットまでいっては、様々な負担が選手にかかることになる。
そこでスポンサーがつかない現在のような状態で、フィージビリティがある形式はどうかというと2セット先取の3セット制で行うという方法である。5セット制のところでも、12月23日を開始としているが、3セット制でもこの日を開始日としたい。やはり、世間では、かるたというと正月の風物詩である。当然、TV中継などでは1月の番組として考えるだろう。そのTV解説の時に、12月の試合データがあったほうが、試合の盛り上げ方に幅がでると思うからだ。3セットの場合は1月中に決着をつけたいということもある。2週間のインターバルを考えると12月からはじめておいたほうがよいと思うのだ。そして、スポンサーさえつけば海外でなどといったが、国内レベルで考えれば、第1セットは、毎年違う地方都市で、国おこしのために誘致してもらう形式は取れないものだろうか。たとえば、地方紙や地方テレビ局、自治体などにスポンサーになってもらうわけだ。競技かるたの地方への普及にも役立つことだろう。そして、第2セットは従来どおり近江神宮とし、第3セットは東京のかるた記念大塚会館とする。
3セット方式でも、フルセットとなれば約1ヶ月は名人戦にかかわることになる。選手のその間のコンディション作りは大変だが、現行のように1回調整に失敗してしまって、それっきりというよりも、再調整が可能な分、好勝負も増えるように思えるのだ。
(4)まとめ
時間的、予算的には無理のある私案であると我ながら思う。しかしながら、予選をふくめて、本戦までこのくらい時間をかけて名人位を決めることで、より権威が増すようにも感じられる。将棋の名人は、A級順位戦から始まり、名人戦がフルセットまでいくと1年にわたって、名人位を目指した勝負が続く。しかも名人戦の挑戦者を決めるA級にあがるまでは、プロになってから最短で4年はかかるのだ。
実現可能性はともかくとして、この私案くらいの手続きを目標にして改革を行ってもらいたいものである。
また、この改革案は、クイン戦には言及していない。クインは、名人戦予選リーグ出場資格が生じた時点で名人を目指すならば、タイトルを返上することとしたい。もし、クインの防衛線に出場する場合は、資格次点者が繰り上がるようなルールを決めておく。他の女流選手が名人戦予選リーグの有資格者になって、クイン位ではなく名人位を目指すならば、クイン戦の予選・本戦に関わる資格は返上するルールもつくっておきたいと思う。
この制度にすれば、名人位に女性が就位する日もそう遠くはないように思うのは私だけであろうか?
以 上
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