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"競技かるた"に関する私的「かるた」論
番外編
札直論
〜「取り方」の視点から〜
Hitoshi Takano Feb/2015
競技かるたの「取り」で「札押し」は、充分に市民権を得ているし、現在の競技かるたのスピード化への貢献は大きなものがあるように思う。しかし、競技者としてよりよい取りを目指そうと考えたときに、「札直」の取りへの考察は避けては通れないだろう。そこで、今回は「札直」を「取り方」という視点で考えてみたい。
「取り方」といえば、払い手、突き手、押え手、引き手、掴み手、囲い手…というような呼称がよく用いられる。戻り手や、返し手などは、先に紹介した取り方のバリエーションとも言えるだろう。
個別に見てみよう。まずは、囲い手。これは、言うまでもなく札直となる。注意点は「囲っただけで安心しない」ということである。「囲い」のあとの取り方は、囲い方にもよるが、押える、指先ではじく、引くなどが多くなるのではないだろうか。囲い手は、出札を聞き分け、出札であったら、すかさず出札に直に触れなければ意味がないのである。
掴み手については、使い手を見なくなった。出札を掴んで取る行為を素早く行なうというのは非常に難しいせいだろう。払い手のように手を出したと思ったら、周囲の札は動いているものの出札だけをスッと手に持っているという取りを見たことがあるが、この技はすごいと思ったものである。いずれにしても、出札に直接触らなければ成立しない取り方である。
引き手は、敵陣を攻めて戻る場合の縦の戻りなどによく見られる。自陣の上段の中央部の札であれば、出札を直接引いて取ることが可能だが、端の札だとうまくやらないと自陣上段からの三段をまとめて引いてしまったりして、取りのあとが美しくない。この場合、下段などに出札があると札直ではなく上段からの札押し(札引き?)での取りになる。手のひらで、三段とも触って引くというのは札に直接触れる可能性はあるが、これもまた到底綺麗とはいえない。しかし、以前、引き手のうまい選手がいた。彼は自陣の右下段の数枚の札の中から出札一枚だけを直接引いて取るのだ。別れ札の戻りでなくても、単独札でもこれができる。手首が柔らかいのか指先の使い方がうまいのか、一種の異能感を漂わせる取りであった。
押え手は、出札を直接押えないと押え手にならないので、確実に札直の取りである。しかし、押えた時に出札に手が触れていないと押え直しをするか、そこから札押しをするかとなる。押え直しは遅くなるし、ここからの札押しへの転換は、とっちらかし感があって、綺麗さにいちぢるしく欠けるのである。この押え手は、払い手や突き手などに押されて、この取りを主体にする人は見なくなってしまった。最近では、敵陣の札を押え手で取りにいくよりも、自陣の守りのシーンで相手の攻め手をガードしながらのうまい押え手を見ることが多いように思う。
突き手は、上段中央部などに札がある場合にその札の取りに活用することが多かった。自陣の上段であれば守りになるし、敵陣の上段であれば、攻めになる。出札を直接突くので札直になる。しかし、最近は、上段の中央に札を置く選手が減ってきたように思う。そのせいかどうかはわからないが、今の選手は敵陣の攻めにおいて、右側でも左側でも突き手を使うことが多いように思う。出札に向かってまっすぐに手をだし、最後に指先を伸ばして出札を突く。特に相手の右下段の札を突いて取るときは、突いた勢いで身体も斜めに跳んでいく感じである。
この突き手は、札の角の最短一点を狙って突く感じなので、少しずれると隣の札しかさわれず、相手に拾われやすくなってしまうという短所もある。また、手の高さを誤まると手が浮いてしまうこともある。ここからのフォローが押えになったりするとこれも相手に拾われる可能性が高くなる。身体が跳んでしまったあとに取り残しに気付いた時などは、見た目が悪いことはなはだしい。突き手による札直は、非常に繊細な面を持つと言ってよいだろう。
最後に払い手による札直について考えよう。
札直における突き手の地位は確かに昨今向上しているが、やはり払い手はポピュラーな取り方といえるだろう。ただし、払い手は札押しとの親和性の高い取り方であるという側面を持つ。出札のある段を一番内側から全て払い切れば、札直でなくとも取りにすることができる。しかし、取りの向上を目ざす場合は、それで満足はしないのが、選手の性(さが)である。払い手で出札からの札直を狙うようになる。払い手の場合、着地札が出札からずれたとしても、内側へのずれであれば、札押しでも払い残しのリスクは少ない。外側へずれて残してしまった場合は、押えにもどるとか払い直すとかの方法もありはするが、手首を返してフォローするのが綺麗である。
さて、ここで、上記においてすでに指摘している点もふまえて、札直に対しての「突き手」と「払い手」の比較をしてみたい。
最初に「払い残しのリスク」を考えてみよう。札直をはずした時、払い残しのリスクは「突き手」のほうが大きい。「払い手」の場合、内側へのずれであれば、札押しでその段すべて払い出せるので、ミスっても取れている確率は高い。一方、「突き手」であれば、下段の札を中段からの突きになってしまったというケースの場合の札押しの取りの可能性はあるが、左右のずれでは、取り残しの可能性が高い。
もちろん、札直をはずした時のフォローの取りはあるが、相手も拾いにくることを忘れてはならない。そう考えれば、札直をミスっても札押しの取りの可能性が高いほうがリスクが小さいと言えるだろう。
次に取りのあとの綺麗さはどうだろうか。「突き手」で、出札一枚だけ突いているのならば非常に美しいと思うが、札の角に向かって最短距離をまっすぐに取りにいくと、札の角から斜めに力が働く。下段の札で中段をひっかけなければよいが、中段の札に目標の札があると、下段も乱してしまう。「払い手」も二段払いや三段払いは、払ったあとが綺麗ではないが、一段だけ払うのであれば、一段の札が横に飛び出すので、わりと払いのあとが綺麗である。「突き手」で出札のみ一枚だけ飛ばす技術を見せてもらえるならば、それは大変綺麗な取りだと思うが、そうした手練れは少なく、多数をみて比較した場合、「払い手」の札直のほうが相対的に綺麗なのではないだろうか。
では、直線距離に対しての無駄の無さはどうか。これは、「突き手」に軍配をあげたい。札の角へ一直線へいくのは、「払い手」であっても可能なのだが、上記であげた「払い手」のメリットを享受しようという取りであれば、若干「突き手」に分があるように思う。
ところで、相手陣への攻めにおいて、右利きの選手の相手の右下段への攻めを考えた時、「突き手」と「払い手」とどっちが扱いやすいのだろうか。
これは、「払い手」ではないだろうか。拳闘(ボクシング)のパンチでいえば、「突き手」はストレートパンチ、「払い手」はフックであろう。日本人はストレートよりフックが強い(得意)と言われるというのも理由の一つだが、やはり相手陣右下段への「突き手」の取りの習熟には、相当の時間がかかると思われるし、ある程度のリーチや身長が必要に思うのだ。個人差は当然あると思うが、一般論といえそうなのは「払い手」のように思う。
今回「取り」を中心に「札直」を考えてみたが、いかに相手より早く取るかの方法論なので、札の決まりや自分の個性にあった方法があるはずなので、ぜひ、そこを見つけてほしい。本稿が、それを考えるためのヒントになれば幸いに思う。
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