"競技かるた"に関する私的「かるた」論

番外編

大学かるた会論(2)

〜組織強化のポイント5〜

Hitoshi Takano JAN/2015

 大学かるた会の組織の設立から活動の安定までを前回論じたが、今回は、安定的な活動を前提としてどう組織強化していくかについて5つのポイントからまとめてみたい。
 その前に、慶應かるた会の平成26年度の公認学生団体一覧の団体紹介の文章を記しておこう。

「かるた会」  (会員数:49)
 競技かるたを通じて、会員相互に親睦を深め、技芸の向上を目指します。普段の日吉での練習のほか、全国各地で開催される大会にも参加しています。また、OBや全国の大学のかるた会とも交流を行っています。

 何かの参考にしていただければ幸いである。

【ポイント1】組織ビジョンの共有

 上記に書いた「会の紹介文」は、実は、会のビジョンを端的にあらわしている文書でもある。すなわち、「会員相互に親睦を深めること」、「技芸の向上を目指すこと」の二つが会の目的であり、ビジョンでもある。この目的を達成するために何をするかといえば、「普段の日吉での練習」と「全国各地で開催される大会への参加」である。これに加え「OBとの交流」や「全国の大学のかるた会との交流」も行っていると書いてあるので、この交流は、目的達成のために役立ちそうなものだということも読み取れる。
 実は、ビジョンを掲げて組織を運営することの大切さについて、今までも論じてきたことである。 「手紙シリーズ」の中で記しているので、次のリンクをクリックして読んでみていただきたい。[新会長へビジョンの大切さ][再び新会長へビジョンの大切さ]の2編である。
 会のビジョンだと大まかすぎて、抽象的すぎるので、それを組織トップの学生責任者が自分の言葉として具体的にビジョンを述べて、会員相互で共有するように言ったものである。「ビジョンを示すこと」とそれを会員みんなで「共有すること」でワンセットである。こうして、組織はひとつの方向を向くことになる。
 各自がばらばらでは、組織は方向性を見失ってしまう。組織は方向性をもってこそ強化されるのである。

【ポイント2】団体戦の効用

 組織に方向性を持たせるのによいと思われるのが、団体戦を目標とする事である。「団体で勝利を得る」という概念はわかりやすい。職域・学生大会(8月と3月)や会対抗戦(2月)、大学選手権(8月)などが目標としやすい大会である。
 蛇足かもしれないが、会対抗戦は大学のかるた会を一般社団法人全日本かるた協会に登録していないと対象にはならない。大学のサークル活動としてのかるた会であっても、メンバーがそれぞれ別々の一般会などの所属であれば、その所属する一般会の団体戦メンバーとうことになってしまう。
 さて、では目標とする団体戦の大会への出場するにあたり、組織としてどのように取り組むのであろうか。最初の頃はメンバーを揃えて出場するだけで精一杯かもしれない。すなわち、この状態は、団体戦に出場できるメンバーの数をキープすること自体が目標ということになる。次に考えるのは、目標とする成績をとるためにはどうすればいいかということだろう。どんなチームにするのか、どんな練習をするのか、どんな掛け声をするか等々、考えてメンバーで共有することは一杯ある。こうしたことを考えて、より具体化することで目的意識がはっきりする。【ポイント1】で述べた組織ビジョンの共有をしやすいのが、団体戦なのである。団体戦は、まさに組織の方向性が明確化される競技形態なのである。
 団体戦という枠組みを利用して、目標の共有を行なう体験をすることは、組織運営におけるビジョンの共有の雛形となるし、経験値としてメンバーの中に蓄積されるのである。この経験値は、組織を運営する側からすると、今後の組織運営に対して大きな効用があることはご理解いただけるだろう。
 さて、団体戦については、[すべては団体戦のために][教育としてのかるた](かるたの本質論)などの今までの指摘も読んでいただければ参考になるかと思う。
 上記で紹介した団体戦に出場はできないというのであれば、ある特定のチーム(大学)と定期対抗戦や団体の練習試合を行うのも、ひとつの方法である。慶應の場合であれば、早慶戦という試合の持ち方もある。(現在は、なかなか実施されないが…)
 団体戦は、「団体戦が好き」という人もいるかわりに「団体戦は嫌い」という人もいる。組織の中に 混在するとき、運営が難しい。嫌いな人には、無理強いはしないことである。何が嫌いなのか、何が改善されれば団体戦に参加するのかなど、きちんと聞いて、納得したら出てもらえばいい。どうしても団体戦にでるのは嫌だというのであれば、いたし方ない。別の形で組織の方向性に協力してもらえる方策を話し合って実行してもらうしかない。いちいち、話し合うのは面倒かもしれない。しかし、 たとえそうであっても、組織運営上、団体戦を利用しない手はない。それほどに団体戦は大学かるた会においては、有効なものなのである。

【ポイント3】数は力なり

 「数は力なり」というと「量」と「質」でいえば、「量」を重視するのかと思われるかもしれないが、これは、相互補完関係にあると思う。ピラミッドの形で組織構造を考えることは多いと思うが、このとき組織の底辺がひろければ広いほどピラミッドの高さも高くなる。このモデルで考えれば、競技する人数が多ければ多いほど斯界の最高峰の実力者の力の質も高くなるということになる。
 例外を否定はしないが、一般論として、「量」が充実しないと「質」も充実はしない。
 名人がいても、競技する相手がいなければ、その強さはわからない。「量」が「数」であるとすれば、 「数」は「質」を支えているのである。そして、この理屈こそが、「数は力なり」の根拠である。
 以前に記した[新入会員数と職域成績の関係]を見ていただければ理解の助けになるかと思うが、新入会員数の多さは会としての団体戦の成績に少なからず影響を与えているのである。
 大学かるた会のメンバーの数が増加すると何がよいかというと、練習相手が多様化するということも あるし、団体戦のメンバーを選ぶにも余裕があるということである。補欠の選手を配置することも可能 だし、その時に調子のいい選手を登録することも可能である。【ポイント2】との関係で言っても、団体戦の効用を活かす意味でも、「数」は立派な「力」である。
 一方、数が負の力を示す時はないのだろうか?
 練習会場が手狭になり、集まったメンバー全員が練習できないというような問題は起こりうる。広い会場が有料となると、会費を払う人数は増えたとしても、会としての経済的な支出はふえるだろう。
 さらに、会員数が多くなると、リーダーの目がいきとどかなかったりする懸念もある。そうすると、リーダーの下にサブリーダーをおいて、その下に他のメンバーを置くという、それこそ、ピラミッド構造をとらなければならなくなる。そうすると、自分の直属でないサブリーダーやトップのリーダーとの関係が疎遠になるということも起こりうる。組織運営のためには、このあたりをどうまとめて、どう交流させるか、意図的に仕組みをつくらなければならないという問題もでてくる。
 それ以外にも問題点は指摘できるかもしれない。しかし、この数の負の側面は、克服できればプラスに働くことにもなる。
 このように「数」の持つ特徴が表裏一体と考えれば、組織の成長には「数」はなくてはならないだろう。だからこそ、組織の活性化にとって「数は力なり」なのである。

【ポイント4】選手育成の重視

 「人材をを育成できない組織は衰退する」という考え方から、このポイントをあげた。かるた会に置き換えれば「次世代の選手を育成できないかるた会は衰退する」である。
 参考にしてほしい過去に書いた文書は次の二つである。
  (1)  [即戦力の誘惑]
  (2)  [教えることの効用]
 最初の文書は、タイトルをみていただいてもわかるとおりである。趣旨もわかりやすい。「即戦力」の加入にばかり頼り、自前で初心者からそれなりの競技者に育てられなければ、その組織は衰退するおそれがあるので「即戦力の誘惑」なのである。かく言う私も、自分のチームに即戦力はほしいが、自分の指導で、ある初心者を一人前の選手に育てるという希望は持ち続けているのである。
 2番目の文書は、なぜ初心者を一人前に育てることが、組織を衰退させないことにつながるかについてを書いたものである。教える側のメリットの観点が強い文書にみえるが、教えれらて伸びることの大事さも必要なのである。教わったことを疑問にもって、違うことを試してみて成功や失敗を繰り返す中で、実力を伸ばしていくことが大事なのである。教わることで実際に伸びる新人、そして教えることで伸びる経験者、この二つがセットで、組織全体が伸びていくのである。
 教える側と教わる側の相乗効果というのもあるが、この時にもし【ポイント3】で指摘するように「数」がいると多様性もあって、ますます効果があがる。いろいろな人に教わることでタイプの違いを知り、考え方や物事の見方の違いを知ることで、教わる側はこの相違についていろいろ考えるし、どの教えが自分に合うかを取捨選択もしやすくなるからである。教える側も、いろいろタイプの違う初心者に教えることができるので、人によって教え方の工夫もするし、自分が考えもしないような初心者の発想に触れて、考え方の幅が広がる。これは、教わる側にも教える側にも「数」がいることがポイントなのである。
 「数」のことは、前項に譲るが、とにかく「選手の育成」を重視する雰囲気を組織で形成していってほしい。経験者がいるから、それでもういいじゃないかではなく、初心者を入れて戦力として育てる努力を怠ってはならないのである。選手を育成することが、組織を強くするポイントなのである。

【ポイント5】継続は力なり

 ここでいう「継続」は、大学かるた会という形での組織の存続である。組織が長年にわたって存続していくメリットはどこにあるかを考えてみよう。
 ひとつには、組織が継続していくことで、OB/OGが生まれる。OB/OGは、現役学生たちのよき支援者である。競技における経験や組織運営の経験によるアドバイスや、財政的支援にも期待がもてる。いずれも、現役の学生には不足しているものなので、大変ありがたい。
 もうひとつは組織における伝統の形成である。OB/OGから受け継いでいくものもあるが、受け継ぎつつ、工夫などが加えられるものもある。伝統の形成は、ブランド力の形成である。新興の組織には、求めてもないものなのである。これが、有形・無形の組織の力になる。
 もちろん、OB/OGの口出しがすぎれば、現役の思考力を弱め、OB/OGが来る日は練習に参加したくないなどの負の側面が生じることもあるが、そこは、バランスである。現役がOB/OGに言うべきは言い、OB/OGも聞くべきは聞き、「金は出しても、口は出さない」という姿勢を示さなければならないこともあるだろう。しかし、現役の人数が減った時などに、練習に来て、指導してくれるOB/OGの存在はありがたい。現役とOB・OG双方で、よく話をして、良好な関係を築くことが大事である。
 また、伝統にあぐらをかいて、昔は強かったという懐古主義や、これがこの会の伝統だということで、新しい理論や工夫を取り入れないということになると、これも伝統があるがゆえの逆効果ということになりかねない。
 伝統は伝統として、尊重し生かすものの、時代とともに変化していくべき点は変化させていかなければ、組織としての進化はない。
 継続することは、上記のように組織にパワーを生む。だからこそ、各世代を絶やすことなく新入生の勧誘を毎年きちんと行い、人数と戦力を整えていくことが重要なのである。
 「組織の継続」については、ぜひ「継続は力なり」の観点から、構成員でよく考え、話し合って、ポリシーをもって会員募集をおこなっていってほしいと望むのである。


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