"競技かるた"に関する私的「かるた」論

番外編

小さな「利」を積む

〜勝利をえるために〜

Hitoshi Takano Feb/2016


 一対一の対人競技であれば、誰しも「初顔合わせ」ということを経験する。今では、録画技術の向上や情報ネットワークの進歩によって、事前に対戦相手の情報を得やすい世の中になってはきているが、このような形で情報の入らない選手のほうが多いと考えていいだろう。したがって、情報のない選手との「初顔合わせ」の試合では、相手の特徴や得手・不得手などの情報を試合をとおして得ることになる。試合をしながら、「手探り」で相手のの情報収集をはかると言ってよいだろう。

 だいたい、私が何も情報のない相手と対戦する場合は、まずは「先行逃げ切り」を考える。もしも「先行逃げ切り」が難しいと思えば、抜きつ抜かれつの「シーソーゲーム」を考える。これさえも、難しいと判断すれば、「先行逃げ切り」の相手にとにかく差をこれ以上ひろげられないようについていき「追い込み逆転」を考えざるをえなくなる。
 情報不足の試合においては、相手の手の内がわからないうちに勝っていたとか、手の内のわからないまま負けてしまったなどということも起こりうるのである。試合経過に情報分析に必要な情報の量と分析の時間がが足りないのである。

 しかし、過去に対戦していて相手の情報をある程度持っていれば、いろいろ作戦を考えることができる。もちろん、対戦していなくても、試合を自分の目で見たとか、録画されたものを見たという場合も同様に作戦を立てることは可能だ。とは言うものの、やはり、自分が対戦した実感というか、いわゆる「肌感覚」は、他人との対戦を見て得られるだけの情報よりも濃厚な情報である。
 対戦経験があったとしても、人は成長し変化するものである。対戦相手がD級やC級の時の情報は、しばらくすると昇級もしていて、すぐに書き換えなければならなくなる。もちろん、際立った特徴は変わっていないことも多いが、過去の情報に頼っていては進化した今の対戦相手に有効な手立てを講じることができなくなってしまう。

 こうした事情をふまえつつ、競技かるたの試合においては、小さな利を少しずつ積み上げていって、勝つために「利」の蓄積をしなければ、勝利を得ることは難しい。
 それでは、「小さな利をこつこつと積み上げる」という考え方の具体例をあげて説明するとしよう。

 たとえば、暗記時間においては、友札の別れ具合が見える。こうしたときに、すでに別れている友札、まだ、別れていない同一陣にある友札が存在する。同一陣にある友札は、いずれ送り・送られて別けられることを前提に考える。(私の場合、友札は自陣内で別けて置くので、この前提をすでに自陣内で実践しているようなものである。)
 この前提での考え方は、その友札2枚は、確率50%で取れればよいというものである。すなわち、たとえばこういう組み合わせが最初に8組16枚あったとしたら、友札時点での取りにしても、片方が読まれて単独となってからの取りにしても、友札一組について50%の確率で取ることができればよいという考えである。理論上は、8組あったら、8枚取れれば「よし」ということになる。
 しかし、これでは「利」を積むことにはならない。8組中友札の1枚目を50%でキープできたのが確率論上4組とすれば、あとは決まり字が短くなった2枚目を1枚取れればそれが「利」となるのである。この最初の8組16枚で9対7と2ポイントの「利」となる。これを積み重ねることが勝利につながるということを言いたいのである。
 この友札は主に「うつしもゆ」と3字以上を対象に話しているが、3字以上であれば試合の展開中に新たな2字の友札関係が生まれる。たとえば、「ながら」「なげけ」「なげき」があり、最初に「ながか」が読まれたとし、次に「なげけ」が読まれたとすれば、「なげき」の札は、最初の「なげけ」との関係において50%キープ理論の対象であったが、「なげけ」のあとでは「なが(ら)」との関係において、50%キープ理論の対象と再度なるのである。このケースの場合は、この3枚中2枚をキープしたほうが「利」を積むことになるのは明白である。
 別れ札関係を50%でキープしたとして、このように考えると残りの単独の3字以上の札や単独の2字をどう取りわけるかが、小さな利を積むことにつながるのである。単独の敵陣大山札は相手に取られるのはやむをえないが、こちらの3字単独札は自陣でキープしたいとあたりをつけて、これも50%のキープよりもわずかでも、自分の取り分をふやしていくことで、小さな「利」を積むのである。
 しかし、やっかいなのは「1字決まり」の取り分けである。もとからの1字決まりである「むすめふさほせ」と、決まり字の変化で1字決まりになった札の取り分けである。
 実は、これがなかなか50%キープの対象にならないのである。音に対する反応力や、運動速度の差でけっこうな差の対象になってしまう。特に私の場合、この部分のマイナスが、積み上げた小さな「利」の蓄積を食い潰してしまうのだ。この小さな「利」の蓄積を一字決まりが多くなる前にどれだけ積めるかが勝利への鍵となる。そのためには、やはり「先行逃げ切り」をはかるのが一番よいのである。
 小さな「利」の積み重ねのもうひとつの要因は、「お手つき」である。相手にお手つきをしてもらい、自分はしない。この相手の「お手つき」分の「利」を積むことは、お手つき一つで「2枚差」なので、実にお得な「利」となる。まあ、自分がお手つきしてしまった場合でも、相手の回数未満の回数はにおさえないと、相手に「利」を与えることになってしまう。ここは、確実に自分の「利」にしたいところである。もちろん、相手が「お手つき」しないこともあるので、変に期待しないほうがよいのではあるが、、、。

 この50%キープを考える際に重要なのが、冒頭に述べた対戦相手の情報なのである。たとえば、私が1字が苦手という情報がはいっていれば、そこで「利」を積めるのであれば、友札の別れのところで、50%キープに失敗しても、リカバリーができると考えることができるので、失敗感を減らせることができる。また、大山札の巧拙などの情報も単独の大山札に対してどういうアプローチをすればいいかの参考になる。友札の別れについて、クロスラインを苦手とし縦ラインを得意としているなどの情報も有益な情報だ。小さな「利」を生むためには情報の入手と分析も大事な要素なのである。

 さて、「競技かるた」は、原則として札が1枚読まれ、それが出札であれば、取った人の札が1枚減るという競技である。読まれた札がカラ札であれば、原則として札は減らない。競技の進行を見ていると遅々として進まないという印象をもたれる方もいるだろう。
 あえて「原則」などと書いているが、それは、競技かるたには「お手つき」という要素があるからだ。「お手つき」は持ち札を増やすし、一回につき2枚差を生じさせるという地雷である。いわゆる「カラダブ」などというものは、2枚送られ一挙に4枚差という大型地雷である。しかし、「お手つき」を除けば、競技かるたには3ポイントシュートも、一挙4点の満塁ホームランも、まして5点のトライ、6点のタッチダウンもないのである。1枚・1枚を丹念に減らしていくしかない競技なのである。
 この競技の本質を考えれば、小さな「利」という概念を理解してもらえると思うし、勝利はその小さな「利」の蓄積の上にあるという本稿のポイントも理解してもらえると思う。
 決して欲張ることはない。50%キープラインをよしとして、それをわずかずつでも上回っていく気持ちの持ち方は、1試合の長丁場の中できっと活きてくるものと信じている。


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