"競技かるた"に関する私的「かるた」論

番外編

「 覚悟 」

〜一試合の重み〜

Hitoshi Takano Apr/2016


 「覚悟」というタイトルであるが、すでに「競技への覚悟」という タイトルで「身体のメンテナンス」について書いたことがある。
 今回は、昨今感じている「覚悟」について書きたいと思う。

 実は最近、訃報に接する機会が多い。自分自身の年齢がそれなりに高くなってきているのだから、それもうなずけるのだが、中にはまだまだ若いのに(と言っても私よりは年上だが)亡くなられる方もいるので、寂しい思いをする。
 また、しばらくお会いしていないなあと思っていると、「病気になって公の場には出てこられない」ということを風の便りに聞くこともある。

 こういうとき、私の身の周りには教員が多いせいか、「あの時が最後の講義になってしまったのだなぁ」という感慨にふけることとなる。特に病気などのために学期の途中で自分自身の講義を 打ち切らなければならなくなったケースでは、代講がたったとしても、自分自身で講義の区切りを つけられなかった無念さを思わずにはいられない。

 勝負の世界や芸の世界にもこうしたケースはある。有名なのは長嶋茂雄監督が、日本代表監督でありながら病気のためアテネ五輪に行けなかったケースではないだろうか。将棋の中原誠十六世名人も、対局後に体調の異変を訴え緊急搬送され、その後リハビリするも棋戦復帰はならず結局は引退となった。最後の対局を勝利で飾れたことがせめてもの救いであったにしても、これも無念であったことだろう。五代目の三遊亭円楽師匠の場合は、病気からのリハビリを重ねた上で高座に復帰するが、自分自身で不出来と判断して引退を決意した。出来に本人が満足すれば現役続行だっただけに無念ではあろうが、復帰できずに引退するよりはよかったのではないだろうか。いや、もしかしたら、自分で不出来と感じる高座が最後になってしまったことで、余計に無念を感じたかもしれない。

 競技かるたでいえば、漫画「ちはやふる」においても三人のメインキャラクターの一人である綿谷新の祖父である永世名人という設定の綿谷始がこのケースにあたる。病に倒れ、かるたが取れない身体になって、子や孫に介護されなければならない状態という設定となっていた。作品中で亡くなり、新がしばらくかるたから離れるきっかけとなるのである。
 始は、病を得てかるたを取れなくなると孫の新のかるたの成長を支援し期待するわけだが、自分自身が取れないことに忸怩たる思いを持っていたことだろう。最後の試合は突然に「最後」ということになってしまったのである。架空の物語の中の設定ではあるが、実際にありそうな話である。

 こうした事例とは別に、この試合が最後になるかもしれないという覚悟で試合に臨み続けているスポーツ選手がいる。
 格闘家の藤原喜明選手だ。約十年前に大病をわずらったが、復帰し不定期ではあるがリングにあがり続けている。BS放送のTV番組で取り上げられた時、「このリングが最後になるかもしれない」と思ってリングにあがっているという話をしていた。そのとき、私は、これが「覚悟」なんだと感じた。この覚悟が、藤原選手のリングに凄みを与えているのだ。そして、観客に感動を与えているのだ。
 プロレスは、観客に見てもらってナンボのスポーツである。観客を引き付けるパフォーマンスができなければ、観客は離れ、ひいてはおまんまの食い上げになってしまう。藤原選手の場合、きっとこの「覚悟」が最高のパフォーマンスを引き出すのだろう。

 さて、振り返って自分自身を見てみよう。幸いにも大病はしていないが、加齢によるガタはそれなりにでている。襲われたくはないが、いつ病魔がしのび寄り襲ってくるかもしれない。そう考えると、いつまでもかるたという競技を続けられるという保証はない。
 以前は、身体のメンテナンスに時間や費用をかけても競技を続ける覚悟について書いたわけだが、今回は「これが最後の試合(対戦)になるかもしれない」という「覚悟」で試合にのぞまなければならないということなのである。

 身体をメンテナンスし、健康に留意しつつも、いざということを考えて「これが最後のカルタになるかもしれない」という「覚悟」を持って最高のパフォーマンスを目指したいと心より思う。
 どうやら、カルタには、人それぞれに取れる数に上限があるようだ。試合数なのか取った札の数なのか、試合に要した時間なのかはわからないが、そういうものがあると切々と感じている今日この頃なのだ。
 だとすると、その上限がわからないということで、なおさら、「覚悟」の重要性を感じるのである。

 次の一試合に悔いを残さぬよう「覚悟」を持って臨みたい!

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