"競技かるた"に関する私的「かるた」論

番外編

トーナメントに関する一考察

〜かるた界の慣習について〜

Hitoshi Takano Feb/2017


 トーナメント形式は、様々な場面で使われる勝者決定システムであり、それは競技かるたの世界でも同様である。
 ただし、この方式はこの方式であるがゆえにいろいろな競技において様々な指摘を受けている。
 「一回戦から優勝候補同士があたってしまう」とか「ふたつの山にわけたとき、有力選手(チーム)に偏りが生じる」などもよく言われる指摘である。また、何も規程を設けない場合「選出母体(都道府県や学校など)の同じ選手(チーム)が一回戦からあたってしまう。」などということも起こりうる。競技種目によっては東京都などは代表が2校ということなどがあるため、一回戦で都の東東京代表と西東京代表が当たってしまい、「事実上の都大会の決勝だ」などといわれたケースも過去にはあった。
ここまで紹介したことも含めて「勝負のあや」だと言ってしまえば、それまでという感じである。勝負のあや、勝敗の妙などと受け入れるケースももちろん存する。
 しかし、それでは、興趣を削いでしまうという考え方も一方にはあるだろう。
 そこで、ルール制定や運用の工夫が行われるのである。
 こうしたことを防ぐために「同じ選出母体のチームや選手は一回戦ではあてない」とか、シード制をとったりとか様々な仕組みがつくられて運用されている。

 かるた界においても、こうした考え方があり、慣習となっている。相撲界では、本場所の本割においては同部屋の力士の対戦は組まれることがない。ただし、優勝決定戦であれば、本割ではないので同部屋対決もありうるシステムである。かるた界の場合でも、同会対決はできうるかぎり避けるのである。すなわち、同会の選手同士はトーナメントの残り方であたらざるをえない状況になるまではあてない(対戦させない)のである。
 具体的にみると、ベスト16に9人同じ所属会の選手が残れば1組は同会同士の対戦が生じるし、ベスト8に6人残れば、2組は同会同士の対戦となるということである。少しわかりにくいかもしれないので、Aかるた会所属選手がベスト16に8人残れば、8組の対戦はすべて対Aかるた会所属選手ということになる。これが9人残りならば、一組はAかるた会の選手同士の対戦となるということである。同様にベスト8にAかるた会の所属選手が4人が残れば、準々決勝の対戦はすべてAかるた会所属選手とAかるた会以外の選手との対戦になるということである。ベスト8にAかるた会所属選手が6人残れば、4組の対戦中2組はAかるた会の選手同士の戦いとなるということである。

 このようにベスト16やベスト8に一つの会の所属選手が過半数以上残るということは、その会の勢いを示しているものと考える。最近は出場者数の増加にともない、B級以下では複数のトーナメントに山をわけることが多いので、あまりこういう光景は見なくなってしまったが、以前、各級一つの山でトーナメントが行なわれていた時代こういう光景が現れていたら、その会のそのあとの活躍が十分に予見できた。特に大学や高校単位であれば、その後の団体戦での当該校のチームの活躍に結びついていた。
 A級でもそういう事象があれば、それは会の勢いということができるであろう。
 その会から名人戦の挑戦者を出すような勢いにつながるように感じる。福井渚会から川崎名人が誕生するにいたった勢いというのも、ここにいたる多くの大会のA級で上位で福井渚会の選手が同会対決が組まれるような光景がみられていたことの延長線上にあるようにも感じる。
 西日本の名人戦予選では、何人もの渚会の選手を撃破しないと代表の座をとれないということであったと思う。ここでは、数の勢いにまさる個人の勢いで西日本代表の座をつかみ取るというシーンもあったことは確かである。
 さて、上記の場合、渚会以外の選手の立場ではこの渚会の選手とばかりあたるということはどういう意味があるのであろうか?
 いわゆる優勝候補といわれる選手をSクラス、その次のSクラスをうまくいけば倒せるグループをAクラスと名付けよう。この下にもSクラスにはよほどのことがないと勝てないBクラスや、もうちょっと下のCクラスの選手も出場していることだろう。大体ベスト16くらいになると、SとAの選手に多少Bクラスの選手が混じる感じだろうか。([注]あくまでA級登録選手を話の便宜上SからCのランクにクラスわけしただけで、Cクラスといっても、A級登録した四段以上の選手のことであるので誤解なきよう注意してお読みください)
 渚会以外のSクラスの選手が複数いたとして、Sクラス選手同士の対戦は、ほぼ対渚会でしか行われない状況ができたとしても不思議はない。もし、渚会のAクラスの選手が他会のSクラスの選手に勝ってくれないと渚会の本命の選手は、自分自身で他会のSクラスの選手を撃破するしかなくなる。
 しかし、もしトーナメントの会が進んでも同会が半数以上残らない状態であれば、Sクラスの選手同士が対戦する可能性が残り、渚会の本命選手にとってはSクラスの選手との対戦を避けつつ決勝に向かうことができる可能性が高くなる。
 もちろん、他会のSクラスの選手と対戦した渚会の選手が、次に残る同会の選手のアシストを考え、粘りに粘って、勝てないまでも相手を疲労させるようなケースもあるだろう。それはそれで、本命選手のアシストになりえるとは思うが、あっさりと負けてしまうことになれば、逆のアシストになりかねない。逆アシストになってしまうと、同会の選手がトーナメントの山の上のほうで半数以上残るのも本命の選手にとってはアダとなってしまうといわざるをえない。トーナメントの山の上のほうでなくても、同会の選手が緒戦からたくさん出場することも、その会の選手と対戦する可能性が高くなるので、他会のSクラス選手同士がぶつかる可能性が低くなるのである。また、他会のSクラス選手が、自会のCクラスの選手と緒戦であたりタバ勝ちするようであれば、自会の本命選手が緒戦から厳しい相手にあたって苦戦したとすれば、本命選手としては、「?!」と感じざるをえないのではないだろうか。
 それも含めて、「トーナメントによる勝負のあや」といってしまえばそれまでであるが、「数」による優位性は一概に評価できないということであるだろう。

 会として、自会から挑戦者を出すということをミッションとして考えたとき、その会からのエントリーの人数を絞るというのもひとつの戦略なのである。
 とはいうものの、名人戦を目指し、挑戦者となるべく、東西の予選に出るのは、A級選手に認められた権利であるから、でたいという選手を会の方針だからといって、エントリーさせないというのもいかがなものかという考えもある。会の中で選抜のための対戦をするのも一つの方法だが、その予選の日の本番に限って絶好調で勝ち進まないとは誰も否定できないので会内での事前選抜を推奨するのは実は難しい案件である。
 最近では出場者数も増えているので、一次予選をして二次予選の人数を絞るという方策も「数」による「あや」を減らすことにつながるかもしれない。さらには、名人戦予選に限っては、「会」の概念をとっぱらって、個人にこだわり同会同士でも一回戦から対戦させるという方策をとってもよいように思う。

 トーナメント戦における勝負のあやについて、かるた界の慣習に基づいて、上記のような考察をしてみたが、過程はどうあれ、結局は強い選手が勝つということはいえるのだろう。
 もしくは、「勝った選手が強い」というべきなのかもしれない。


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