"競技かるた"に関する私的「かるた」論

番外編

「風姿花伝」を読む

〜花は残る〜

Hitoshi Takano MAR/2020

 昨年還暦を迎えて、年齢を重ねることについて、いろいろと考える機会があった。
 いにしえの人に学ぶことも必要と、能の世阿弥が記した「風姿花伝」(花伝書)を読んでみることにした。 今までも抜粋については様々な書物に引用されているので、耳に残っている言葉もあるが、岩波文庫を買ってきて通しで読むことにした。
 今回、2019年度を締めるにあたり、読んで感じたことを記すことにした。 “TOPIC”の分類ではなく“私的かるた論”に分類したのは、「花伝書」が、能芸論であることによる。「論」とあることを尊重した結果である。

時分の花
 この「時分の花」はわりと有名ではないかと思う。 能の世界では7歳くらいから稽古を始めるようで、世阿弥は、12・3歳のころの芸には、その年代特有の「花」があり、それを「時分の花」と名付けている。
 34・5歳を「盛りの極め」なりとし、50歳を超えれば「この比よりは、大方、せぬならでは、手立あるまじ。『麒麟も老いては駑馬に劣る』と申す事あり。 さりながら、誠に得たらん能者ならば、物数はみなみな失せて、善悪見所は少しとも、花は残るべし。」と記す。
 この前の44・5歳では、「能の手立、大方変るべし。たとひ、天下に許され、能に得法したりとも、それに附けても、よき脇の為手を持つべし。」と述べる。
 能の世界にも年齢に応じた演者のあり方があるように、競技かるたにおいても、そういうものがあるだろう。
 当然、時代も種目も違うので、年齢の区切り方に違いはあるが、競技かるたも、若い時の「時分の花」で強さを発揮するときもあれば、 「盛りの極め」の時期での強さの発揮もあるだろう。
 そして、世阿弥の時代の50歳は平均寿命を超えているわけだが、平均寿命に至らずとも現代の還暦のころの肉体的な老いの状況から考えれば、 「花は残る」の「花」を競技かるたの世界においても発揮すべきなのだろうと思う。
 では、現在の私の「花」は何だろうか。
 おそらく、それは、私の対戦相手が、私との対戦から感じる技術であったり、経験、佇まい、そして精神であったりするのではないだろうか。
 こうしたことを考えると、自ずから競技時の「立ち居振る舞い」にも充分気をまわさねばならないと感じている。

初心を忘るべからず
 この有名な言葉も、花伝書に書かれている。
 私も、常日頃よく使う言葉であり、競技を続けるうえで大事な言葉であると考えている。
 この言葉を含む文章の冒頭は、「されば、初心よりの以来(このかた)の、芸能の品々を忘れずして、その時々、用々に従ひて取り出(い)だすべし。」とある。 全てここに書くのも芸がないので、このあとの文章に興味のある方は実際に花伝書を読んでいただきたい。

因果の花
 まずは、引用する。
 「因果の花を知る事、極めなるべし。一切、みな因果なり。初心よりの芸能の数々は因なり。 能を極め、名を得る事は、果なり。しかれば、稽古するところの因おろそかなれば、果を果たすことも難し。これをよくよく知るべし。 また、時分にも恐るべし。去年(こぞ)盛りあらば、今年は花なかるべき事を知るべし。」
 以下も続くので、興味があれば、原文にあたってほしい。「勝負」ということにも言及しているので、競技かるたという勝負のある競技に関わる皆さんには、 参考になるだろう。ただ、それよりも、シンプルに「稽古がおろそかなら、結果はでない。」ということを言っていることは、胸に刻んでおきたい言葉である。

秘すれば花
 「さるほどに、我が家の秘事とて、人に知らせぬをもて、生涯の主になる花とす。秘すれば花、秘せねば花なるべからず。」というふうに書かれているので、 大事なのは「さるほどに」とあるこの前の文章の中身であろう。
 弓矢の道を例えとしているが、「思いのほかの手立で強敵にも勝てることがあるが、一度相手に手立を知られてしまったら、対策を練られて次はうまくいかないよ。」 という内容のことが書かれている。
 私は、「私的かるた論」等々、Websiteで考えや情報を公開しており、全然「秘」していないので、この「秘すれば花」に当てはめれば「花なるべからず」に該当してしまうかもしれない。 しかし、まだまだ書き足りないので、「花」の部分は残っているものと思うし、自分自身が気づいていない「秘」の部分もあるように思う。
 競技の深奥を探るとき、ぜひ、この「秘すれば花」の秘された花を明らかにしていきたいと願っている。

 「風姿花伝」。ぜひ、一度、手に取って読んでいただきたい書である。


Auther

高野 仁


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