中段論

Hitoshi Takano May/2009

はじめに〜問題提起〜

 最近の対戦相手の傾向として、下段の札が無くなると中段の札を下段に、上段の札を中段に段ごと 移動するということが多いように感じる。
 中段は、あくまで初形の定位置ではあるが、このような札の移動は、固有の札をその場所で取ると いうものではないということではないだろうか。
 この札は、自陣であれば置き場所は中段でなければならないとか、中段が定位置の札は、自陣に あるならば中段で取るというこだわりはないのかと寂しく思ってしまう。それというのも、私の場 合、自陣の中段については、右中段については、その札をその場所で取る意図が強いからである。 したがって、下段が無くなったからといって中段ごと下段に持っていくということはせず、どこか らかバランスを考えて1枚下段に移動させるくらいである。また、上段の札を右中段で取ろうと は考えない。
 一方、左中段は、特定の札を定位置にせず、初形でバランスの悪くなった友札等の片方を分けて 置く調整場所に使っており、さらに、それらの札を優先的に送り札候補としているので、右中段に 比べれば中段という場所のもつ意味合いが全然違う。

 自分自身の中でさえ、中段の持つ意味合いが左右で異なる上に、人によっても相当に扱い方の 違う中段ということを感じ、中段の競技における意味合いを少し考えてみれば面白いのではない かとテーマに取り上げた次第である。
 少々、荷が重いテーマと思いつつ、狙いのとおり面白い検討ができるかわからないが、チャレ ンジしてみたい。

初形定位置としての中段

 まずは、初形定位置としての中段を検討してみよう。
 初形において、中段はあまり長くしたくないと考える人が多いのではないだろうか。たとえば、 右中段8枚、左中段7枚などとなると中段の中央の隙間は1枚半分しかないことになり、敵陣に 手を出すのにも、自陣の上段に手を出すのにも邪魔くささを感じるのではないだろうか。また、 これだけ中段の中央付近に札があると、中段中央付近の札が出札の時に、ショートレンジの払い で、タメのつけ方にも手の出し方にも独特の手の使い方が必要になる。
 こういうわけで、中段が定位置の札の数は下段よりも少ないつくりにするだろうし、たまたま 初形の定位置札が中段に固まってしまうような時には、バランスをとって他の段や左右に散らす ようなことをするのではないだろうか。
 私の場合は、定位置は、下段と上段が多く、中段は少ない設定になっている。特に自陣の上段 が多いため、中段を長くして自陣上段への直接の突きや払いの邪魔にならないようにしたいので ある。
 長さはあまり長くしたくないとして、では、あとはどのような札を定位置として考えるだろう か。
 今までの対戦相手との経験で言えば、千差万別・十人十色ということになってしまうのである が、一字決まりの「むすめふさほせ」以外であればなんでもありといえるのではないかと思う。 「むすめふさほせ」にしても、そのうちの2枚を左右中段の一番外側に置いて囲って取るという 達人との対戦経験もあるので、可能性としては一字決まりから大山札まで、なんでもありなのかも しれない。
 なんでもありでは、検討にならないので、少し私なりの考えを示してみたい。
 中段の一つの特性は、下段に置きたいが下段に他の札が占めてしまっているので状況に応じて 中段に置くというものではないだろうか。
   代表的なものは、大山札である。右下段の一番外側で大山札を囲いたいが、そこに3種の大山 札を全て置くわけにはいかない。優先順位を決めて、はずれた大山札は中段の一番外側に置くと いうことになる。さらにもう1種の大山札は、下段の内側で囲うというような方法をとるような こととなる。下段の内側で囲うことを優先したいケースでは、重なれば中段内側を利用するとい うことになろう。大山札の種類ごとに囲う場所を決めているケースでは、5字決まりの「よのな か」を中段にまわすケースもあるかのように思える。
 大山札や5字決まり以外にも4字決まりの札の置き場所として中段を利用するケースも多いよ うに思える。4字決まりであるからには、敵陣との別れ札の関係となることも多いだろう。その 時、上段では敵陣の上段との間の狭さから戻りには技術が必要であるが、中段であれば敵陣上段 ひっかけお手つきの心配は非常に低い。また、5字以上の決まり字の札と囲い易い場所の競合は 起こりうるが、単独の4字決まりを囲い手で自陣で守ろうと思えば、自ずから置き場所は限られ てくる。その場合の左右中段の内側や外側などは、下段を5字決まり以上に譲らなければならな いとしたら、有効な置き場所となりうるのである。
 戻りやすさという点では、別れ札となりやすい3字決まりの置き場所としても考えやすい。し かも下段が多すぎる場合などに一時的にバランスを取る意味での置き場所として考えやすいのが 中段である。本来、下段に置くべき3字決まりの札が初形で多く来た場合などにそのうち何枚か を中段を利用して置くのである。
 同様のことは2字決まりにも言える。「うつしもゆ」などを本来下段の定位置としていても、 初形の札の配置のバランスで中段に回すケースも多いのではないだろうか。
 最初は臨時措置であったのが、臨時のケースが多すぎて、次第に中段が定位置になったような こともあるに違いない。
 最近は、上段にあまり置かない傾向もあるようなので、枚数の多い「あ」音(16枚)や 「な」音(8枚)、「お」音・「わ」音(7枚)、さらに「た」音・「こ」音(6枚)などの札を 左右に定位置として分ける場合にも、下段の利用には限界があるので中段は活躍する。
 こういう見方をしていると、中段は初形の定位置としても、下段の調整弁の意味合いが大きい ような結論になってしまう。
 その意味を否定はしないものの、この札は自分にとって中段の定位置とした意味がきちんとある というケースも多いのだと思う。しかし、下段の札が無くなったあとで、段ごと中段を下段に下げ、 上段を下段に下げるというような札の移動を目にすると、中段は調整弁という感を強くせずにいら れないのである。

移動先・移動元としての中段

 冒頭の問題提起でも書いたし、前節の最後にも書いたので、ここで書くのも今更ではあるが、 中段は札の移動先としても移動元としても使われる。
 1枚程度を決まり字の変化やバランスなどを考えて移動するのであれば、それほど私も気には ならないのだが、やはり、気になってしまうのは、段ごと中段を下段に、上段を中段に移動させ ることなのである。
 なぜ、気になるかというと私自身には絶対にできないことだからである。
 上段の定位置の札は上段で、中段の定位置の札は中段で、下段の定位置の札は下段で取る。これ を続けているから、敵陣を攻めていても自然に自陣に戻れるし、音に反応した自陣の場所に手が 伸びるということがある。この利を重視しているからに他ならない。もちろん、札のやりとりの 際、送り返された札をどこに置くのか相手に悟られやすいというデメリットもあるが、自陣の中で 段ごと動かして、暗記を入れなおすことを考えれば大したデメリットではないと思っている。
 段ごとの移動などは、要は相手から距離の近い自陣の上段をいち早く減らしてしまおうという ことなのだと思う。敵からの距離を開き、3段から2段にしてコンパクトに守りやすくするという 意図だろう。思い切り敵陣を攻めて戻るとき、上段を気にせず、中段から斜めもしくは縦にまっす ぐに、下段までを一気に払うということなのだろう。2段払いならば、段ごとの移動による暗記 の入れ直しにさほど労力を使わなくてもよいのかもしれない。
 相手陣の右下段への攻めを非常に重視する最近の若手のかるたスタイルを見ていると、その移動 の狙いはわかる気もするが、あまりにアバウトな戻り手には感心できない。やはり、一流と呼ばれ る選手は、戻り手も出札に戻るという正確さを備えている。
 ここは、中段なら中段に下段なら下段に戻るよう心がけるべきだろう。
 そして、上段から中段に移ってきた札も、最初から中段の札も、中盤戦の後半、終盤戦の入口の 頃には、さらに下段に吸収されていってしまうのである。
 このくらいの状態になると、移動元としての中段は、十分に役割を果たせたといえるのではない だろうか。

中段の攻防

 前節の最後、中盤戦の後半、終盤戦の入口では中段の札が下段に吸収されていくということを 書いたが、それは、言い換えれば、中段の活躍の場は終盤ではなく、序盤と中盤にあるというこ とである。
 まずは、序盤における中段を考えてみよう。
 初形配置については、調整弁的な意味合いを先に書いたが、調整弁的に置いた札は、自分本来の 置き場所に空きが出た時には、そちらに移動させられるということであろう。
 そして、調整弁的に置くということは、初形で同音の札が自陣に来ているから調整弁的に使われ ている可能性が高いということでもあり、序盤においての敵陣への送り札として、友札を分けると いうような送りも含めて、中段の札は送り札として使われる可能性も高いだろう。
 そして、友札が自陣に揃っているということは、敵からは攻撃のターゲットにされやすい札だと いうことである。また、敵陣と別れている3字決まりなどの置き場所という指摘もしたが、これも 攻撃のターゲットにされる札である。4字決まり以上の札も、敵陣と別れていれば攻撃の標的であ るし、単独であれば、守りの技術を問われる札となる。
 このように考えると、序盤から中盤の入口のあたりでは、中段は3字決まり以上のタイミングの 取り方や囲いの技術、戻りの技術といったテクニカルな攻防のポイントが形成されていることがわ かるのではないだろうか。
 そして、決まり字が変化し、2字決まりになったあとは、初形にあった時から残っている2字決 まりの札とあわせて、2字の比率が高くなると、3字決まり以上とは異なるスピード感の高い攻防 のポイントとなる。
 決まり字の変化後の中段には、1字決まりになる札も出てくる。1字・2字の攻防が多くなるの は普通に考えれば、中盤以降ということになる。では、中盤以降の中段を考えてみよう。
 敵陣・自陣双方の右下段の斜めのラインを中心とした攻め合いが、現代の若手のかるたの主流を なしている。このことから、まずは、右中段の攻防を考えてみよう。
 右下段に攻めのポイントをおいた場合、下段に出しかかった右中段への払い手の軌道修正を行う ことになる。この時の、軌道修正の技術とその相手の払い手の進入角度に対する自陣の守り、自陣 への戻りの技術との攻防のせめぎ合いは、中盤の戦局に少なからず影響を与えるであろう。
 もし、右下段を攻めてくる相手に右中段の札をきっちり守った時、相手からの標的になりやすい 札が右中段に並んでいると相手は右下段ポイントのはずの攻めをそこからの軌道修正では間に合わ ないと思い、右中段をポイントへの攻めを意識すると今度は右下段を守れる可能性が出てくる。こ うなれば、自陣の右中段は右下段への守りのための砦のような意味を持つのではないだろうか。
 次に左中段を考えてみよう。
 個人体験的にいえば、左中段の2字決まりは相手からいいように攻め取られる場所であった。攻 める際にも、音に素直に反応できれば真っ直ぐに手を伸ばして出札からきれいに払える場所でもあ った。
 相手にこの左中段を意識させることで、相手の右下段への攻めを鈍らすことができれば、右下段 斜めラインの攻防で相手より有利に立てる可能性が高くなるのである。
 左中段は、肉を切らせて骨を断つための肉としての機能を持ちうるということである。
 そして、中盤の攻防の中で起こる中段への札の移動と中段からの札の移動。これをきちんと頭に 入れておかないと、元の場所を払ってしまうということになりかねない。
 こう考えると、中段は中盤の攻防において、決して軽い場所ではない。右下段の斜めラインを 強調して語られることが多いが、もっと戦術・戦略的な中段の意味は考えられていいのではない だろうか。
 中段は、砦を築くときの柵にも壕にもなりうるし、相手をおびき寄せるトラップにもなりうるの だ。

まとめ〜中段の展望〜

 中段への段ごと移動、中段からの段ごと移動の個人的違和感から始まった本稿であるが、初形配 置の調整弁的役割、移動先・移動元としての中段の機能、序盤における中段の役割、中盤における 中段の役割をもう一度、自分なりに考えてみたことで、中段についての今回のまとめを述べておこ う。

 調整弁、移動先・移動元の機能を持つことで、特に中盤の攻防において、中段は戦略的・戦術的 な要衝であると認識すべきである。

 すなわち、下段を本陣としたときに、中段は防砦であり、別動部隊になのである。決して、本筋 の部分ではないが、本筋を生かすための役割を持っているのである。
 これをふまえれば、今後の中段の活用のための展望は見えてくるであろう。

 それは、上段や下段との連携の中で、もっと意図をもって、中段の札を考えていくことが、競技 かるたの戦略・戦術に新たな時代を切り開くということではないだろうか。


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