サウスポー論(1)

Hitoshi Takano JUL/2009

サウスポーは有利

 「サウスポーは有利だ。」とはよく言われる言葉である。
 左右どっちでも使えるならば、左を使えるようにしたほうがいい ということを聞きもしたし、自分でも言ったことがある。
 でも、本当なのだろうか。
 私個人の記録をみてみよう。
 全対戦の勝率は、5割8分3厘であるが、対左の勝率は5割1分3厘。約7分ほど 対左の勝率が低い。対A級戦でも、全対戦の勝率より対左の勝率は約3分3厘ほど低い。 この数字からだけみると、すくなくとも私という選手に対しては、左利きのほうが有利 になるという結論になる。
 この数字は、ひとまず忘れて考えてみよう。

競技で使用する手について

 競技かるたでは、右で取るか、左で取るかは、その試合においては、 どちらか一方で最初から最後までとおさなければならない。試合の途中 で変えたりしてはいけないのである。ただ、1回戦は右で、2回戦は左で というようなケースは問題ない。試合途中で、突き指などの怪我をして しまったのであれば、考えられるケースだが、たとえば、相手が右利き だから左で取るとか、相手が左利きだから右で取るとか、相手によって スイッチするようなケースは、残念ながら見たことがない。

事例1:にわかサウスポーの誕生

 骨折などの怪我をして、本来右利きの選手が、団体戦では、左で取って いるのを見たことがある。ちなみにこのケースは、一人だけではなく複数 のケースで見ている。
 実は、私自身も左取りの練習をしたことがあるので、実感しているのだ が、右利きの選手が左で取ると、手だけではなく、全身の使い方自体が違 うのだ。足の蹴り、腰のひねり方、肩や肘の使い方など、全てが違う。相 当な違和感である。定位置も左右逆にすればいいというものではない。私 の場合、左で取っても、定位置は左右対称ではなく右の時の場所に手が出 てしまっていた。
 これを団体戦に出るために、左取りに全て馴染ませるというのは、相当に 練習して、取り込まなければならないはずである。そして、私の知っている 選手たちは、試合で勝利をあげてチームに貢献しているのである。
 おそらく怪我の前の右取りに遜色ないくらいの強さまで持ってきているの ではないかと思う。であるならば、もし「左は有利」であるならば、怪我が なおっても、左で取れば右よりも左の有利さを享受できるのだから、折角 そこまで取れるようになったのだから、そのまま左に転向してしまえばいい ように思える。しかしながら、みな怪我がなおれば右に戻しているのである。
 やはり、本来の右利きとしての運動機能のほうが自然だからであろうか。

事例2:かるた用サウスポー

 本来は右利きであるが、右でかるたを取って突き指すると鉛筆が持てなく なり、勉強に差し支えるからと、高校時代のいわゆるお座敷かるた(といって も机の上でやっていたが)から左で札を取っていた選手がいた。彼は、大学で 競技かるたを始めたときも、迷わず左を選択した。その時も勉強云々の理由 もあったのかもしれないが、どうやら、右だと札への反応が遅くなってしまう という理由のほうが大きかったように思う。音に反応して札を取るという神経 回路が、すでに左のほうが右よりも強く形成されしまっていたのかもしれない。
 運動機能もすべて右利きだったが、競技かるたでは左の払いになった。
 左では、まっすぐ伸びる手の動きがよく、相手の右下段の一字札への反応、 上段の突きなどは早かった。また自陣の左下段を手首と指先のバネで真横に 払うのも早く、攻めあぐねる場所であった。特に敵陣右下段への攻め、切り 込み方はサウスポーの利点を見事に生かしているように感じた。
 しかし、自分からみて右の払い(敵から見ての左)が粗かった。何か不自然 さを感じるのだ。早かったとしてもぎこちなさを感じた。
 このあたりが、生来の運動機能全て右利きの人間が、サウスポーとして競技 するときの壁だったのではないか。
 この事例からすれば、怪我のために「にわかサウスポー」で活躍したとして も、なおれば右に戻すということもうなづける。
 目先の有利さではなく、もっと根っこの問題だからである。

事例3:左を捨て右へ転向

 左利きの人に多いのだが、子供の頃に親から箸と筆は右に矯正されたという ケースは多い。こういう人たちは、結構、左右どちらでも使えるようになって いたりする。
 基本左だが、どちらでも大丈夫というケースは、周囲の人も左が有利だから という理由で左をすすめる。基本的に左という人は、初心者のときに左をすす められれば違和感なく左で練習を開始する。
 私が知っている例では、こうして左で取り始めた人物がいる。しかし、初心 者の練習で、払いの時の足の蹴りが逆になったりすることがあり、不自然さを 感じることもあった。
 左手の伸びは、まるでバネがビヨーンと伸びるように相手陣の右下段に侵入 してきて札を取っていく。対戦相手としては非常にとりづらかった。
 しかし、彼は、左で実績を積み上げながら、左では自分の目指す「王道かる た」は取れないと、右に転向した。
 ここで彼のいう「王道かるた」について説明するのは、少しでもニュアンス が違えば「違います」と連絡が入るだろうから避けることにしよう。
 言えるのは、彼の目指す「王道かるた」は、右手で取ることで実現する彼の 理想だったということだ。
 彼は、自らの理想のためには、左利きの利を顧みることはしなかった。

 本当に、左利きは有利なのだろうか?

…… 続 く ……


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