“あ”札論
〜音別の話(1)〜
Hitoshi Takano Feb/2011
小倉百人一首百首の中で「あ」の音で始まる札は16枚ある。ちなみに「あふ
ことの」の札は、表記は「あ」で始まるが、読む時の音が「おーことの」となる
ので、「あ」音の札にはならない。ここでは「あ」音で始まる札をもっての「あ」札
とする。
「あ」の札の最大の特徴は、この百枚中16枚という量である。二番目に多い
「な」の音の札が8枚なので、いかに突出して多いかご理解いただけると思う。
単純に計算すれば、6枚から7枚に1枚(6.25枚に1枚)は「あ」の音の札が
読まれるということとなる。
50枚の初形では、平均8枚あることになる。確率的に言えば、自陣25枚の
うちに4枚、敵陣25枚のうちに4枚ということである。
さらに読み札が残り20枚あるとすれば、その中に3枚(3.2枚)は、「あ」札
があってもおかしくなはい。読み札が20枚あるとすれば、場には、理論的に
10枚札が残っている。その10枚の中には、1〜2枚(1.6枚)「あ」札が
あるということである。
枚数が多いということのイメージができたであろうか。
終盤まで残っていることが多いというのみではない、序盤から中盤にも当然「あ」
札は読まれる。それぞれの場面・場面で「あ」札は読まれる。
これを考えれば、「あ」音の札が得意だということであれば、それが大きな戦力
となることは間違いない。
運命戦に残ることも他の音の札より多い。「あ」は1−1に残りやすいという
ような印象は、こうした当り前の確率論からくる印象でもあるのだ。しかし、こと
さらに「あ」は残りやすいと言われることが多いような気がする。
残った時に、1字決まりかどうかきちんと確認できていないと余計に「残った」感
が強くなる。1−1の「あ」札でお手つきした経験を持つ人も結構多いのではないだ
ろうか。さらに、「あ」札と「あ」札の1−1で、運命戦を経験した人もいるので
ないだろうか。こういうことがあるから、余計に印象に残るのである。
「あ」の札の多さを感じていただけただろうか。
ということは、「あ」札の重要性も理解していただけたということであろう。
人の記憶の構造の中では、最初に記憶したグループと最後に記憶したグループの
ほうが、中間で記憶したグループよりも、より記憶に強く残っているそうである。
最初の15分の暗記時間の中で、全体の札を音別に覚える時、「あ」音を覚える順番
を最後に持ってくる人と、最初に覚える人が多いが、これは意味のあることなのである。
そうなのである。「あ」札は、その重要性のゆえに、しっかりと暗記する必要がある
のである。
[ひとりごと]
当該音の札について、勝手にコメントしてしまおうというのが、この「ひとりごと」である。得意・不得意や、好き・嫌いは、競技者にとってはあってはならないといわれる。すべてが得意札でなくてはならず、すべてが好きな札でなければならないからである。しかし、そういう建前は無視して、本音で私個人の札の嗜好を紹介していこうと思う。
「あ」札の中で好きな札は、「あきの」・「あきか」、「あらし」、「あさじ」・「あさぼらけあ」である。「あさぼらけあ」と「あさぼらけう」では、私の感覚では、「あさぼらけあ」が表で「あさぼらけう」が裏というイメージである。このように友札には、表と裏とか陰・陽のような感覚がある。だからといって、札の送りで表を送るか裏を送るかというのは音によって異なるものであるところが面白い。
他の「あ」始まりの友札でいうと、「あわれ」「あわじ」には表裏を感じていないが、「あきの」・「あきか」は「あきの」が表で「あきか」が裏である。「ありあ」と「ありま」では、表裏というより「ありあ」が陽で「ありま」が陰というイメージである。「あまの」・「あまつ」は、「あまの」が表だけれども暗、「あまつ」が裏だけれども明というイメージである。
こんな感覚、ご理解いただけるだろうか。
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