中納言敦忠

あひみてののちのこころにくらぶれば
   昔はものを思はざりけり


決まり字:アイ(二字決まリ)
 後朝の歌である。「あなたにあったのちのあなたを思う気持ちに比べれば、あなたに会う 前の物思いなどは物思いのうちにはいらない」というような意味になるだろうか。
 中納言朝忠の後朝の歌「あふことの」が、この歌の次にあり、同じ中納言で「あつただ」と 「あさただ」で、時々、どっちがどっちの歌だったかがわからなくなる。
 作者の藤原敦忠は、菅原道真の政敵、藤原時平の子であった。時平の子であるがゆえに 長生きできようはずもないとの予感があったようで、大鏡などにはそのことが記されている。 もちろん、菅原道真の怨念を受けてということだろうが、実際38歳でなくなっている。 ただ、この時代の平均寿命は現代よりはるかに短いので、38歳で亡くなるのも、若いと いえば若い方だろうが、それほど不思議な時代ではないと個人的には思うのだが…。
 物語的には、本人の諦観もあったというようなほうが面白みはでるものなのだろう。

 さて、敦忠は、琵琶の名手であった。琵琶の名手といえば、源博雅が有名だが(最近は 夢枕獏の小説「陰陽師」で、安倍晴明の相棒役で登場しており、そのお陰ともいえる)、 この敦忠が存命中は博雅の名など出てこなかったほどの琵琶の名手であったという話が 伝わっている。

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2008年3月  HITOSHI TAKANO