在原業平朝臣
千早振る神代もきかずたつた川
からくれなゐに水くくるとは
決まり字:チハ(二字決まリ)
落語の前座話「千早振る」で有名な歌である。ではその珍解釈を紹介しよう。
大相撲に「竜田川」という大関がいた。この大関が遊里の吉原に遊びに行って、女魁
の千早大夫に一目惚れしてしまう。大関竜田川得意の押しの一手で口説きまくるが、
千早大夫は「肥ったお関取は嫌いでありんす」などと言って、竜田川などには目も
くれず袖にしてしまう。それでもあきらめきれない竜田川、千早大夫の妹の神代にモー
ションをかける。ところが、妹のほうも姉と好き嫌いのタイプが同じなのか、まったく
竜田川の話など聞かずに相手にしない。
さて、時が過ぎ、相撲界を引退した竜田川は、実家の豆腐屋を継いだ。ある日その
豆腐屋に女の乞食が来て、「ひもじい思いをしています。卯の花(おから) をめぐん
でいただけないでしょうか」と物乞いをする。かわいそうに思った竜田川、店のおか
らを女乞食に差し出す。目と目があった豆腐屋と乞食。それは数年前の大関竜田川と
吉原の千早大夫との再会にほかならなかった。竜田川は、乞食が自分を振った女魁と
知ると、「お前にやるおからなどはない」と追い出してしまう。タカビーな半生が、
自分を乞食にまで身を落とさせたのだと悟った千早は、自己の身をはかなんで、井戸に
身を投げて死んでしまう。ちなみに千早の幼名は「とは」であった。
このほか、珍解釈では、13番陽成院の「筑波嶺の峯より落つる男女の川恋ぞつも
りて淵となりぬる」にもある。「羽の形をしたツクバネの実が、川に落ちる。これが
鯉の餌になるものだから、鯉が群がってきて、鯉の背の模様で川がブチになって
しまう」というものである。なかなか苦しい解釈である。
落語の題材では、「崇徳院」という77番の「瀬をはやみ」をテーマにしたものが
あるが、これは一目惚れした若旦那と娘の話で、歌の珍解釈で笑わせる話ではないので、
念のため…。
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1995年11月 HITOSHI TAKANO