大学に入って、カルタを始めてしばらくがたった頃、伊藤裕之先輩が自分の個人記録のノートを見せてくれた。それには、いつ、どこで誰と対戦し、何枚差で勝ったか負けたかが記録されていた。私は、このノートを見て、記録を取り始めた。幸い、練習を始めた初期の頃の記録は、会の記録帳に記載されており、あまり練習熱心でなかった私の記録は、そこから簡単に写すことができたのだ。
以来、あしかけ21年、ノートは3冊におよび、今ではカード型データベースソフトを使いパソコンでデータを取り出せるようになっている。記録をつけることもカルタを取ると同時に楽しみのひとつになっていると言ってよいだろう。
勝ち試合の平均枚差:9.74枚(対A級:5.15枚)
負け試合の平均枚差:8.70枚(対A級:9.74枚)
枚差は、上記のとおりで、大差で負けている時でも、せめて一桁の枚差になるように粘ろうという自分の中の気持ちが数字に表れているようにも思う。
しかし、曜日や月によって、バイオリズムがわかるかといった試みは、あまり意味がなかったように思う。これは、対戦相手の強さが一定でないので、ある意味で強い相手とあたる機会が多ければ、成績は悪くなってしまうからであった。そこで、対A級という強さの目安をもうければわかるのではないかとも思ったのだが、これも無意味であった。あまり、差がでなかったからである。
曜日別の対A級勝率でいうと、木・金が勝率3割を辛うじて越えて、日曜日が勝率2割5分を割り込むという結果であったが、バイオリズムとの因果関係は少ないと考えられる。日曜は試合が多いため、同じA級でも割と強い人とあたることが多いからという理由が明白であるからだ。
月別だと対A級勝率は、6月の4割と12月の3割5分が突出しているが、前後の5月・7月が平均以下の勝率であることで6月は3ヶ月平均で均されてしまうことを考えると偶然にすぎない数字であるように思われる。むしろ、バイオリズム的には、12月のほうが前後の11月・1月が平均勝率をキープしている(しかも1月は試合が多いので、対A級も強い人とあたることが多いのにもかかわらずである)し、誕生月ということで何か関係があるかもしれない。
まして、場所との相性とかは、対戦相手の強さの差以外のなにものでもなく、あまりデータいじりの楽しさは感じられない。
データから傾向がはっきりつかめるのは、1試合目>2試合目>3試合目といった、同じ日の中では試合数を重ねるごとに勝率が低くなることである。私はあまり持久力はないようである。
年別でみると、1984年が対A級勝率4割8分、1987年が4割2分と平均を大きく上回っており、自分自身が感じる充実度とも一致する。相撲界には「3年先のケイコをしろ」という言葉があるそうだが、この高勝率の年の1年半から2年前くらいが充実した練習をコンスタントに続けられた時期にあたるというのも面白い。
次に1−1の記録を見てみよう。185試合(出現率:7.5%)で、85勝100敗(勝率.459)である。もちろん、お手付きで勝敗が決まることもあれば、敵陣を抜いたことも、自陣を抜かれたこともある。しかし、札の出が自陣であったか、自陣が出る予定であった回数は、勝数と同じ85回というのは不思議である。もしも、確率論で考えるならば、1−1の回数がふえるにしたがって、札の自陣・敵陣の出は50%に近くなっていくはずである。この自陣率45.9%は、50%への収束への過程にすぎないのだろうか。それとも、私自身の終盤の試合運びのまずさによる結果なのであろうか。この数字からだけでは、今のところ何とも分析できない。終盤での1−1になった経過との相関関係を説明出来る記録がないからである。
たとえば、野球にスコアブックがあり、将棋や囲碁に棋譜が残るのと一緒である。国際標準と言われるチェスの試合などでは、結構大きな大会でも自分で棋譜を取るそうである。
カルタの試合では、本人が試合をしながら記録を取るわけにはいかない。記憶に頼らなければならないはずなのに記録が、記憶の補助具になってしまうからであり、これを認めると競技の興趣自体がそがれることになる。したがって、カルタの記録は、第三者が取る形としてそのシステムを確立すべきであろう。もちろん、文字媒体だけではない。VTRやコンピュータへの入力なども有力な記録方法である。しかしながら、VTRは、ほぼ試合時間分を鑑賞に要してしまうし、どっちが敵の右下段を何枚取ったかなどという集計作業には不向きである。集計作業を考えるならば、携帯用コンピュータによる記録用ソフトの開発が望まれるところである。
とりあえず、紙ベースの記録を考えるとしよう。現在では、様々な人が様々なフォームで記録を取っているようだ。名人・クイン戦には、全日本かるた協会で用意している用紙があるようだが、はたして、これもスタンダードと言ってよいのだろうか? もっと、工夫の余地はないのであろうか。できれば、将来のコンピュータ入力ソフトにつながる記録形式にはならないものだろうか?
ある人の記録は、取った人に○をつけ、取った場所を書くスタイルだった。(例:表1、△はお手つき、×はカラ札)
(表1)
番号 出札 | 選手A | 送り | 選手B |
1 あきの | ○敵右下 | ありあ→左下 | |
2 はるす× | わたのはらこ→右中 | △敵左中 | |
3 あし | ○自右上 |
また、取った場所や札を置いた場所を示すのに、次のようなもの(表2)もあった。(下図というのは、ここでの説明上、便宜的に別図にしたもの、通常の表では、表のセル1つに小さく示される図)
(表2)
番号 出札 | A場所 | 選手A | 送り | 選手B | B場所 |
1 あきの | 下図1 | ○ | ありあ | 下図2 | |
2 はるす× | わたのはらこ | △ | 下図3 | ||
3 あし | 下図4 | ○ |
下図1(左・右、A下〜B下は、ここでの説明上、便宜的に入れたもの。下図2以降からは省く。・は取った場所を示す)
A下 | A中 | A上 | B上 | B中 | B下 | ||
左 |
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右 | |||||
右 | 左 |
下図2(。は送り札を置いた場所)
下図3(△はお手つきした場所)
△ | |||||
下図4
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表1のように漢字で(敵右下)と表すより、表2のほうが場所を「・」などで図示するので感覚的に捉えやすい。しかしながら、図が小さいのが難点となる。この表2の下図として作成した図をA4判1枚に10載せて両面印刷すれば、初形図に1枚つかっても6枚でおさめることができる。ただ、この方法だとわかりやすい反面、一覧性は低下してしまう。
将棋だと、たとえば盤を見なくても、「先手7六歩、後手8四歩」と言えば、初手に先手が角道をあけ、次に後手が飛車先の歩を突いたと理解できる。盤の一マスごとに絶対的な場所を示す記号がついているからである。カルタは別にマスごとに札を置く必要はないので微妙ではあるが、記録を作成するのにこの方式を利用できないであろうか。
そう考えたのが次の方法(表3)である。
(表3)
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カルタの場合、横幅には札が16枚半ならぶので、段の中央に置いた場合は9で表した。この絶対値は下位者から見た位置関係であらわす。(将棋で言えば、先手もしくは下手が5九玉側を持つのと同じ感覚である。)
おそらく、競技カルタをあまり知らない人にはこういう場所記号がわかりやすいだろう。しかしながら、競技カルタの競技者としては、次(表4)に示すように、敵の右下段と自陣の右下段を同じ番号で対応させた方が認識しやすいかもしれない。
(表4)
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これならば、「01」という場所は競技者自身から見て「右の一番外側」、「11」というのは競技者自身から見て「左の一番外側」という認識ができ、記録を見た時、わかりやすいであろう。
表4方式で、記録をあらわすと次(表5)のようになる。
(表5:選手Aが下位者とする)
番号 出札 | 選手A | 送り | 選手B |
1 あきの | ○A01 | ありあ→A14 | |
2 はるす× | わたのはらこ→B01 | △Y13 | |
3 あし | ○X02 |
ただ、上段でよくみられるように札と札の間を離して置くような場合、単に右から何枚目かという記録ではないので、絶対的な場所記号をどうにあてはめるかというのは、記録者の判断にまかされることになるだろう。