藤原義孝

君が為惜しからざりし命さへ
   ながくもがなと思ひけるかな


決まり字:キミガタメオ(六字決まリ)
 「き」の音で始まる歌は、百人一首の中に3枚ある。
 6字決まりの「きみがためは」とここで紹介している「きみがためお」と2字決まりの 「きり」である。
 さて、作者は、「あはれとも」の作者である謙徳公(藤原伊尹)の息子である。
 歌意は、惜しくはないと思っていた命ではあるが、あなたとあってながらえたいと思う ようになったということである。
 歌のレトリックであったろうが、作者の義孝が21歳で若くしてなくなっていることを 思うと、妙にこの歌が真実味を帯びているように感じるから不思議なものだ。
 幼い時分から歌才を発揮し、将来を嘱望されていただけに、惜しまれたことだろう。
 父親は、摂政太政大臣で藤原氏の氏の長者であったが、藤原氏の権勢は、伊尹の系統 ではなく兼家の系統に移っていくことになったのも、義孝の早世が原因の一つであった かもしれない。
 しかしながら、義孝の才能は、子の行成に受け継がれたのであろう、行成は、のちに 書の面で藤原佐理と小野道風とともに「三蹟」と称されるようになるのである。

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2008年3月  HITOSHI TAKANO