<百人秀歌>
藤原義孝
君がため惜しからざりし命さへ
長くもがなと思ひぬるかな
「思ひけるかな」(一首)←→「思ひぬるかな」(秀歌)という違いで
一文字の違いである。
「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形であり、「ける」は回想の助動詞「けり」の連体形
である。
思う行為が完了してしまうよりも、思うという行為を回想して想うというほうが、歌に深みが
あるように思える。
総じて、秀歌と一首の相違点、即ち変更点は、一首のほうがよりよく改変されているように
感じられる。このような点からも、百人秀歌は、小倉百人一首の試作品などという評価があら
われるにいたったのかとも思われる。
しかし、はたしてそうなのだろうか。実は、試作品などというものではなく、別々の製作意図
をもって、それぞれに違うことを表現した私撰集なのではないだろうか。
定家の撰歌意図に興味は尽きない。
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2008年6月6日 HITOSHI TAKANO