同期生への手紙(I)
Hitoshi Takano AUG/2011
Hさんへ
手紙シリーズは、「先輩への手紙」が1通あるきりで、その他すべてが「後輩への手紙」で
ある。この「先輩への手紙」も「後輩への手紙」の第1回に「後輩への手紙」を書くきっかけのための手紙で、その後の「手紙シリーズ」とは趣きを異にしている。
さて、今回、「同期生への手紙」ということで新ジャンルとなるのだが、大学の卒業が同期ではあるが、競技かるたに関しては、始めたのは私のほうが早いので、「後輩への手紙」に分類してもよかったかもしれない。
しかし、いろいろな区分での同期があるので、「同期生への手紙」という分類も、ひょっとするとこれから増えるかもしれないと思い、このタイトルとした。
本人の目にとまってくれればよいのだが…
しばし、おつきあいいただきたい。
前略 H先生、このたびは教職員チームへの参加を検討していただきありがとう
ございます。
大学の卒業同期ですが、競技かるたに関しての経験は私のほうが長いこともあり、未来
のチームメートへ気付いた点を伝えておきたいと思い、筆をとりました。
参考にして、自身の振り返りや工夫に役立てていただければ幸いに思います。
<フォーム>
気になるのは、少し低すぎるのではないかということです。私よりも身長があるのに
私より低く構えています。
H先生の試合を拝見すると、低く構えていることの利は生かされず、むしろ、悪い面が
出ているように思います。
これは、あくまで私の推測に過ぎませんが、低く構えることで、視野を広く取ることが
できずにいます。その結果、視認に頼らない暗記に依拠する札の数が増え、実際、試合の
中での札の移動についていけなかったり、前の試合の暗記消しが充分でなかったりで、
お手つきや、もとの場所へ手を出してしまうことが増えているように感じます。
もっと、暗記の補助、暗記の支援という意味での視認を使いましょう。
そのためには、構えをもっと高くし、顔の位置を上げましょう。構えを高くするために
はどうすればいいでしょうか。まずは、両膝の開きを今よりも狭くしましょう。そして、
左手の位置をもっと下段の左端に寄せましょう。左肘を曲げずに、背筋を伸ばし、顔を
敵陣の敵の手元の前あたりを斜め直線にみるような視線がとれる位置です。こうすれば、
自陣上段から敵陣全体にかけて札が見やすくなります。
読みと読みのインターバルの間に、腰を落とせば、自陣の札も見やすくなります。この
ようにして、頭の中だけではなく、札を視認しながら、暗記を入れます。特に移動した札
などは、よく見て覚えましょう。特に敵陣を意図的に見ながら暗記をいれましょう。
<お手つき防止策−その1−>
H先生の試合は、はっきり言うとお手つきが多過ぎます。もったいないし、相手を
アシストしてしまっています。
原因は何か。「暗記」です。おそらく、頭の中で暗記を入れていて、視認と結びつい
ていないのが、原因です。暗記に頼りすぎるから、前の試合の札の場所を払ったり、
移動前の場所を払ったりするのです。ポイントは、フォームのところでも説明したとおり、
札を見ながらの確認と暗記です。
札を取られても、高々1枚差がつくだけです。お手つきすると一挙に2枚差です。
「お手つきするくらいならば、取られたほうがマシだ」ということを肝に銘じてください。
そして、攻めて戻ろうとか考えなくていいです。払いは自分が取りにいった一方通行で
かまいません。それで取りに行った札が出ず、別のところが出たならば、相手に取らせ
てあげてください。見ていて思うのは、敵陣・自陣に限らず取りに行ったものの
違うほうの札が出て、あわててそっちを取りに行ってお手つきしたという感じが
結構ありました。
余計なことを考えず、取りに行って出札が違ったら、よほど相手が抜けている場合
は、しっかり視認して取ればいいですが、そうでなく相手が取りに動いていたら、
取りにいかずに、相手に取らせてかまいません。それのほうが、お手つきをするより
はるかにマシです。戻りや取りの方向転換を考えないということは、最初の一撃に
神経を集中するということです。その最初の一突きのスピードと精度(聞き分け)を
高めてください。
<お手つき防止策−その2−>
もうひとつ目立つお手つきが、札の数がある程度減ってからのお手つきです。
こちらのお手つきの原因は、決まり字の変化を追いきれていないことにあると思います。
対応策は、「わかっている決まり字までは手を出さない」ということにつきます。
囲えばいいじゃないかと言われるかもしれませんが、そこまでH先生のテクニックは
上達していません。囲っても間違える時は間違えます。囲って相手の手が来て焦って
さわってしまう懸念だってあります。それよりも、自分のわかる決まり字を聞いて取り
にいけばいいのです。相手に先に囲われたら、あきらめればいいです。お手つきをする
よりはマシです。
しかし、ここは、あきらめたものの強みというべき「相手に取られてもいいや」という
余裕をみせましょう。それは、取りに行くふりをして手を出すのです。相手があせって
くれればそれでいいのです。相手がお手つきをしてくれるかもしれません。
囲っている手の腕に軽く触れる(とも手を取られないようにあくまで軽く)という
方法もありますが、これで相手を焦らせるのは、まだ、難しいテクニックかも知れません。
以下は、好き好きですから、自分で工夫すればいいのですが、一応、枚数が減って
終盤の入口にさしかかった時の、決まり字を追いきれなかった札の対処方法の一つを
紹介しておきましょう。
視認しやすいように、自分が決まり字を追いきれなかった札を自陣の上段の中央に適当
な間隔で置いてしまいましょう。
そして、札が読まれたら、上段の札を見て、自分の覚えている決まり字でとればいいの
です。
<日頃の練習>
初心者の生徒たちは、E級・D級ですから、当面H先生のライバルですし、よき練習
相手です。上記の点に気をつけて、先生自身が勝利の経験を積むことが大事です。
初心者・初級者の生徒さんたちの良き壁になってあげてください。
まずは、学校での練習で実践してみてください。
ただし、教員の仕事も忙しく、生徒の練習の相手はしていられないことも多いかと思い
ます。そこで、次は自宅や通勤時のための練習を紹介します。
通勤時の練習は、読みのテープを聴くこと。これで充分です。決まり字で、つり革を
強く握るなどの練習をしている方もいるとは聞きますが、読みテープを聴いて耳に慣ら
しておくだけでも充分です。4−3−1−5方式の間を身体に沁み込ませてください。
自宅での練習は、とりあえず二つ紹介しておきましょう。
家庭において、家族が競技かるたに理解のない場合、きびしいかもしれませんが、
第一には、札の払いの練習です。一番簡便な方法として、札は使わなくていいので、
敵陣の左・右の下段の大外の場所と自陣の左・右下段の大外の場所に目印をつけて
そこを何本と決めて、払いの練習をするというものです。
第二には、最近では「札流し」とか「札落とし」という名称も使われているよう
ですが、札を百枚(ランダムに50枚でもよい)、順にめくっていき、決まり字を
瞬時に言っていくというものです。タイムトライアルで、毎日一回やって、何秒
かかったかを記録して折れ線グラフにしてみるのもモチベーション維持のためには
いいかもしれません。
<最後に>
最後に、あくまでこれは、現在のH先生の状況に応じた対症療法です。通勤時の
練習や自宅練習は基礎作りなので問題ないのですが、お手つき防止策には、初心者の
中高生には伝えないほうがいい内容もあります。知命の年齢を超え、ゼロからの
基礎作りをするにはきびしいという観点からの提案ですから、あくまで、ご自身の
現状に対する対策としてご認識ください。
まずは、初段を目指してください。そのときには、次のステップを考えていきたい
と思います。
では、チームメイトとして団体戦を共に戦える日を楽しみにしております。
草々
次の手紙へ手紙シリーズのINDEXへ
★ 感想を書き込む
☆ トピックへ
★ 慶應かるた会のトップページへ
☆ HITOSHI TAKANOのTOP
PAGEへ