"競技かるた"に関する私的「かるた」論
番外編
「タメ」の技術
Hitoshi Takano May/2017
「苦手意識の罠」シリーズの第3回で「タメ」のことを書いたので、今回は「タメ」をテーマとして取り上げたい。
武道の世界では「溜め」という漢字を使うようだが、私のイメージは何故だが漢字ではなく片仮名が表記として
しっくりくるので、カタカナ表記を許されたい。以下、カギ括弧もはずして、単に片仮名でタメと表記する。
一字決まりを子音レベルで語れる選手であれば、一字決まりからタメの話ができるのであろうが、あいにく私は
一字決まりを子音レベルで語れるほどの耳のよさも、感じ(ひびき)のはやさも持ち合わせていない。また、読者の
みなさんにとっても一字決まりを例にあげるよりは、二字決まり以上で説明したほうが理解しやすいと思うので
二字決まり以上を事例として取り上げることとする。
まずは、ざっくりと「タメとは何か?」と聞かれれば、これまた、ざっくりと「よりよい取りのタイミングを実現するための手法の一つ」と答えたい。
たとえば、二字決まり「うら」が単独で敵陣にあるとする。「う」の音を聞くやいなや敵陣にむかって手を伸ばして
攻めにいく。そして、二字目を聞いて、取るか逃げるかを判断する。この時、何も考えず一音目に感じるままに手を
出すのであれば、そこにはタメは存在しない。二音目を聞くときに最大スピードで取れるようにタイミングをはかって
手をだすのがタメである。二音目の聞き分けの瞬間、取りにでるのか逃げるのかを可能にするには、技術が必要で
ある。それが、いわゆる「あそび」の部分をつくることである。すなわち、指先・手首・肘・肩・腰・膝など身体の
可動域に余裕をもたせることである。こうした部分に余裕がなく、たとえば、伸び切ってしまっていると逃れること
ができなくなる。逆にすべてが連動しつつ可動域に余裕があることで札際をはやくすることができる。
構えるときに指先を伸ばしている新人に対して、卵を握る感じでかるく指先をまるめて構えるように指導すること
がある。これは、指先をまるめることでの距離の利を稼ぐとともに、払いの際の「あそび」の部分をつくるという
効果を求めての指導である。
タメを効果的に使うためには、こうした取りの技術が必要になる。
さきほどは、二字決まりの札が単独で敵陣にある例をあげたが、もし、「うら」が敵陣にあり「うか」が自陣に
あったとしよう。この時のタメは、相対的に考えなければならない。相手が攻めてくる前提であれば、相手の
攻めをしのいで自陣に戻ることができて、なおかつ、相手が攻めてから違うと戻っても間に合わないように
敵陣を攻めることができるタイミングをはかるということである。タイミングとともに手を出す地点や姿勢も
重要である。
このとき、間違えると自陣・敵陣の両方とも相手のほうがはやく取ることができるという事態に陥ってしまう。
それでは、意味がない。もし、両方を自分が相手よりはやく取れる可能性が低いのであれば、どちらか片方を
確実にとる可能性にかけたほうがよい。とすれば、それは攻め重視の現代かるたにおいては、攻めのための
タイミングを選択するということになる。しかし、攻めのためのタイミングが遅れてしまったとなったら、急遽、
守りのためのタメや姿勢をつくるしかない。この臨機応変な対応を可能にするのも、そこにタメの技術があるから
である。
「感じ(ひびき)」があまりはやくない人には、三字決まりで考えたほうがわかりやすいかもしれない。
たとえば、敵陣に「ながら」、自陣に「ながか」があったとしよう。「感じ」が遅い選手だと、身体の動き出しは、
「な」はすでに聞こえ二字目の「G」音と認識する頃合ではないだろうか。動きながら「が」か「げ」かを判断し、
まずは敵陣の「ながら」にフォーカスする。動きの中で「ら」ならば攻め、「か」ならば自陣に戻る。だいたいは
こうなるだろう。しかし、他に「なげ」の札などがあって迷ったり、出遅れたりするときがある。それが、自然の
タメになっていたりすることもある。私の体験的にいうと、身体は攻めに行く体制になって重心移動は前方に
始まっているのだが、手だけがあまり動き出せていないときがある。これが、意識しないタメになっている。
手以外は、攻めの準備ができているので、いざ攻めるとなると遅ればせながら先に動いた身体について手が
動く。また、音が自陣と判断すれば、身体は敵陣に向かいだしているが手は自陣にあり、札までの距離の利を
活かして自陣の守りに反応する。自然に生じるタメは、意識していないことが功を奏するのだろうか、
成功率が高い。こんな経験をすると不思議なもので、意図的にタメができることも増えてくる。そうすると
自分自身にタメの技術が身についてくるのである。
三字決まりの札に一音目で飛び出して、手が浮いたり、押えにいってしまって取りが遅くなる経験はないだろうか。
もしも、意図的にタイミングをはかり、タメをつくって取りにいくことができれば、札を払う瞬間に払いの最高スピード
を出すことも可能だろう。
「後の先」という言葉があるが、タメの技術を磨くことは「後の先」の実践に役立つ。
タメの事例を見た目で整理するとおおむね次のような観察結果となるだろうか。
・決まり字ギリギリまで構えた位置から手が動かない。
・手よりも先に身体が敵陣を攻めに行くような動きをしている。
・初動が相手より遅い。(相手の初動を見ているような、、、)
・出遅れているようにみえても、札への到達や札際がはやい。
これは、現象面に過ぎないかもしれないが、タメの本質を考えつつ、ぜひタメの技術を磨いてほしい。
一字決まり以外は、意図的に一音目で手を飛び出さないようにする、身体の各可動域(指先、手首、肘、肩、上半身、腰、下半身等)に「あそび」(動きの余裕)の部分をつくる、
札をとる準備の動きは身体・手の順番のイメージを持つ。このようなことを心がけて練習してみると、タメの技術の向上につながるだろう。
タメの技術を身につけるには、多くの試行錯誤と実践が必要だろうが、意識しないで自然にできたというときの感触を大事にしつつ、練習の中で技術を培っていただきたい。
タメの技術は、きっとどこかでみなさんの役に立つことだろう。
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