新・後輩への手紙(IV)

Hitoshi Takano NOV/2010

競技かるたの要諦“十箇条”(解説2)


前略  おまたせしました。それでは、前回に引き続き、「競技かるたの要諦」“十箇条”の解説を続行しましょう。
 今回は、「第四条から第七条まで」といたします。
 まずは、十箇条のおさらいから…

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★ ENGLISH ★

「競技かるたの要諦」

第一条 競技かるたは、対技者との手談と心得るべし。
第二条 読手の呼吸と自己の呼吸の間を体得すべし。
第三条 競技かるたの目的は、対技者より先に自陣札を絶無にすることにあると認識すべし。札を取ることは目的にあらず、手段なり。
第四条 攻撃の重視は札を送る利を求むることと心得るべし。
第五条 定位置は方便と心得るべし。
第六条 競技かるたは、「先の先」のみにあらず「後の先」を忘るべからず。
第七条 目手一体と心得るべし。
第八条 確率論は厳然として存在するものなり。閃きに頼るべからず。
第九条 人は間違えるものなり。決してあきらめるべからず。
第十条 用捨在心を肝に銘ずべし。

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第四条 攻撃の重視は札を送る利を求むることと心得るべし。   **English**

 「競技かるた」を始めると指導者からは、敵陣を攻めるよう言われることと思う。 では、なにゆえに敵陣を攻めるのか。敵陣の札を取っても、自陣の札を取っても、自陣 から減る札は1枚である。しかし、自陣の札を取っても自陣から札が1枚減るだけだが、 敵陣を取れば、自陣から任意の札を1枚相手陣に送ることで自陣を減らすことができる。
 この自陣から任意の札を敵陣に送ることが、試合の中で大きな意味をもつので、 攻めるように言われるのである。送り札には当然送り手の作戦が込められている。 友札をわけて、狙われにくくし、お手つきしやすくする。相手が送られると嫌だなと 思っているであろう札を送る。自分が再び攻めて取れるように攻めやすい札を送る。 自陣にあると嫌だなと思う札を送る。etc…。
 どの札が読まれるかについては、競技者は自分の意思を反映させることができない。 場にどの札が50枚来て、そのうちどの札が25枚ずつ敵陣と自陣にわかれるかに ついても競技者は自分の意思を反映させることができない。
 もしも、お手つきもしないで自陣の札だけを守りあって、双方ともに敵陣の札を いっさい取らなかったとすると、競技の勝敗は、札の読まれる順番という偶然性だけ で決まってしまうことになる。これでは競技としての興趣は著しく欠けてしまう。
 競技者の意思が反映されて、偶然性に対して自己の意思で影響を行使しなければ、 競技としての面白みは確保できない。では、競技者の意思が反映できるのは、どんな 場合だろうか。
 まずは、どの札を自陣のどこに置くかということである。これは自分の意思を 反映させることができるが、上記の守り合いで敵陣をいっさいとらないという仮定 では、あまり意味がない。相手が攻めてくるという前提であれば、その意思の反映は 競技の中に意味をもつ。
 次に、敵がお手つきした時に自陣から敵陣に送る札を選択するときに送り手の意思 の反映ができる。
 さらに、自分が敵陣の札を取って、自陣の札を送る時にも同様に意思の反映が可能 である。
 自身の意思を反映し、競技の流れを自分に有利に運ぶために敵陣に札を送るには、 相手のお手つきを待つという消極的手法ではなく、積極的手法としては敵陣を攻めて 取りに行くしかないのである。
 このように「攻撃重視」の考えは、札を送ることの「利」を求めてのことなので ある。ただし、試合展開の中で不幸にも大差をつけられてしまった場合、攻撃と 守備のバランスをリードしている時や差がないときと同じようにとっていては、 いささかバランスを欠いているという認識を持てることと思う。
 試合展開の状況をふまえつつの「札を送ることの利」であることは忘れないで いただきたい。

第五条 定位置は方便と心得るべし。   **English**

 定位置は、自陣の守備をしやすく相手に取りにくい陣形を組む上で有効なもので ある。自陣の札は、定位置を身体が覚えていて、その札が自陣にあるということを 認識するだけで、自然に出札に反応するようになっていることだろう。
 しかし、定位置に拘泥すると左右のバランスや上中下段のバランスが著しく悪く なるケースもある。また、中盤から終盤にかけて、決まり字も変化してくると定位置 である場所が、必ずしも自分に守りやすく相手に取りにくいとは限らなくなって くる。
 そういうときには、定位置にこだわらず臨機応変に自陣の札の配置を変えれば よい。
 相手の配置を見て、自陣の配置を確認し、どうすれば、その時点での自分に守り やすく相手に取りにくいかを判断するのである。
 所詮、定位置はある種の方便であり、状況によって変わるものとの認識をもって おくと、競技の流れの中で臨機応変なバランスの取れた自陣の配置を実現すること ができるのである。
   [ 参考 ]     定位置観の転換     定位置の話

第六条 競技かるたは、「先の先」のみにあらず「後の先」を 忘るべからず。   **English**

 「先んずれば人を制す」という言葉があるように、競技かるたでも「先」を取ること は、大変重要なポイントである。何より、相手より「先に」自陣の札を絶無にしなければ ならないのだから…。
 しかしながら、ここでいう「"○"の先」は、札の取りに関してである。
 「相手より先に出札に触れる」「相手より先に札押しで陣の外に札を出し切る。」 これが「取り」である。
 相手より先に動いて、先に札を取ることが「先の先」である。逆に、相手より後に 動き始めて、先に札を取ることが「後の先」である。
 「後の先」は、特に自陣の守りの時によく出現すると思う。それは、構えの手の 置き場所から出札までの距離が、敵陣からの距離よりも自陣からの距離が短いがゆえに 距離の差を利用することで可能となる。
 もちろん、敵陣への攻撃においても、払いのスピードで相手の動き出しは早くとも 高さのある押え手や遅い払い手を追い越して、「後の先」を実現するケースもあるが、 これには、相当の払いのスピードの差が必要である。
 大山札の囲いを破る時なども相手に先に囲われてしまっているのだから「後の先」 となるが、この場合には、突きこみなどの囲い破りの技術も要求される。
 いずれにしても、札際の速さを武器としてもっていれば、「後の先」の取りには 大きな武器となる。
 もちろん、相当の払いのスピードがなくとも、敵陣への攻撃における「後の先」は 可能である。たとえば、友札で、相手が敵陣(すなわちこちらの自陣)にある札に 早く攻めてきた場合である。相手が「先に」動き出しているが、その後から こちらから敵陣の友札に手を出して、聞き分けて相手陣の出札を取れれば、これが 「後の先」になる。感じをためて聞き分けてからすばやく相手陣に取りに行くことも 可能だが、彼我の友札間の距離を意識していないと先に戻られて取られてしまうこと もある。こんな言葉はないだろうが、しいていえば「先の後の先」ということだろう。
 最初は、どうしても相手よりも先に札を取りに出て、そのまま出札を取るという 「先の先」を目指すが、取り続けていくと意外に「後の先」で札を取っていることに 気づく。その気づきを偶然ではなく、技術として身につけると相手の「先」に惑わさ れることなく自信をもって「後の先」で札を取れるようになる。
 「後の先」の技術は、取りの幅を広げ、大きな武器となる。
 ただし、初心者・初級者は、まずは「先の先」の基礎スピードを磨く練習を怠って はならない。この基礎があってこその「後の先」なのである。

第七条 目手一体と心得るべし。   **English**

 初心者、初級者がよく「取った・取らない」でもめるのは、この目手一体ができて いないからである。
 目手一体(もくしゅいったい)とは、自分が払っている瞬間をしっかり見ている ことである。払いの瞬間に目がついていっていないから、もめてしまうのである。
 自分の払いに目をやり、ついでに相手が別のところに手を動かしていたら、すばやく そこに視線をとばす。そうすれば、相手のお手つきを発見できることもある。
 ありがちなのは、視線は明後日のほうに向けて、その辺にあったという感覚だけで 払ってしまうケースや、視線は先に出札にいっているのだが、手がでていないという ケースである。
 前者は、自分の払っているところを見るように心がけることが第一である。敵陣 は見れるが、自陣は見れないということが多いので、敵陣からすばやく自陣に視線を 戻すように練習のときから実践しよう。後者の場合は、札に感じているからこそ視線 が先にいくので、その視線のスピードに身体の動きを合わせるようにすることである。 そうしないと、はやくとばした視線の先で、相手が取る瞬間を見続ける羽目に陥って しまうことになる。こんな悔しい思いはない。
 「目手一体」。聞きなれない言葉かもしれないが、ぜひ心がけてほしい。


 前回が、少々大きめに競技かるたを見た三箇条だったとすると、今回はやや各論に 近い四箇条だったかと思いますが、いかがでしたでしょうか。
 次回は、いよいよ最後の三箇条となります。大きく気持ちの持ち様、考え様といった くくりとなるでしょうか。
 では、次回をお楽しみに。
草々


競技かるたの要諦“十箇条”

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