"競技かるた"に関する私的「かるた」論

番外編

"D級"考

〜実力の幅を受容せよ〜

Hitoshi Takano JUL/2019

 後輩がD級の層の厚さに手こずっている。
 優勝するクラスの選手に大タバ負けして、力の差を痛切に感じて落ち込むこともあれば、自身と同じくらいの強さの選手との熱戦を制してベスト8入賞を果たし、 日ごろの練習の成果を感じて次への活力が湧いてくることもある。
 もちろん、各級に選手層の幅はあるが、A級とD級は特に幅がひろいと思う。
 A級は、名人・クイン、全日本選手権者、選抜大会優勝者などのトップクラスの選手の筆頭グループとの差が特に大きく、B級を勝ち抜いて昇級してきた猛者でも、 タバ負けを食らうこともある。ベテラン勢にも様々な層があり、実力幅は非常にひろい。 並みのA級選手にとって、超一流の選手と一回戦・二回戦からあたるいわゆる「交通事故」と呼ばれる対戦の確率が高いのがA級の特徴といえるだろう。
 とはいえ、A級の選手としては一定以上のラインを維持しているので、トーナメントの運営でてこずるようなことはまずないだろう。
 ところが、D級の幅は、時にはすぐにでもA級まで駆け上がりそうな逸材から、ルールの理解についても不安があるような初心者の選手までと、 運営サイドが困るようなケースもあるというくらいの幅である。
 今は、E級を設置している大会もあるが、E級がないとD級をデビュー戦とするケースがあることにもよるだろう。

 さて、これだけの幅を抱えたD級である。悩んだり、喜んだり、考え込んだり、様々な感情に翻弄されている後輩には、「一喜一憂するな」と言いたい。 実力差の幅が広いことを普通に受け入れることが、精神の安定によいのだ。
 とにもかくにも、感情に左右されることなく、自分の技術を磨き、コンスタントに練習し、大会に続けてチャレンジすることを推奨する。
 競技かるたの実力は、右肩上がりに徐々に上がるものではなく、階段を上るようにある日突然上のステップに上っていることに気づくような上がり方をすると言われる。 それを信じて、地道に続けることが大事なのである。

 幸い、後輩は、相手の力を判断することはできている。優勝確実の逸材と当たったら、自分の力がどれだけ通用するのかしっかりとチャレンジし、 試合後には相手から学べるところをよく振り返ってほしい。そして、自分と同等、そして自分より少し強いくらいくらいなと思ったら、最後まで気を抜くことなく、 多少のビハインドは気にせず、決してあきらめないことである。特にD級では、相手のお手つきや、遅く取れた一枚で、試合の流れが変わりやすい。逆転のチャンスを逃してはならない。 逆にリードしているときは、自身のお手つきに気をつけることだ。お手つきするぐらいなら、相手に一枚取られた方がましなのだ。
 もし、自分より力が下だと感じたら、決して気を抜いてはいけない。接戦になったら、どう転ぶかわからない。先行逃げ切りで、終盤に入るまでリードを広げ続けることだ。 そのリードの貯金が大事なのだ。D級といえども守りにはいられれば、なかなか抜けない。リードの貯金が減るのはやむをえないが、とにかく早めにリーチをかけることが大切である。 油断せず、しっかりと勝ち切ることだ。

 最後にもう一度言うが、D級の選手層の幅は実に広い。対戦相手の運・不運は必ずある。一喜一憂せず、一試合一試合を着実に取り進むことだ。
 自身に実力がつけば、自ずから昇級に結び付くと信じて!

 2020年4月から、段位基準と級のクラス分けが変更となる。2年間の移行措置期間があり、完全移行は2022年4月とのことだが、 D級は初段相当の級となり、E級が現在のD級のような無段の初級者のスタートのクラスとなる。今までのE級はF級となることだろう。 本稿のタイトルは2019年7月現在のものなので、読む際にはそういう認識で読んでいただきたい。 → [ 参 照 ]
 後輩には、段位基準の変更までには、ぜひ初段を取ってほしいと願っている。

Auther

高野 仁


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