数字が語ること(4)

名人戦の記録から(i)

Hitoshi Takano MAY/2010

 今回は、名人戦の記録を見てみよう。第29期以降の名人戦は、全日本かるた協会の機関誌 「かるた展望」に自陣を取った枚数、敵陣を取った枚数、お手付きの数などが記されている。 そんな中から名人戦の記録を見てみようと思う。
 とりあえず、対象とさせてもらったのは、種村永世名人と望月元名人。なぜ、この二人か というと、一応、慶應かるた会での私の後輩にあたるので、多少のコメントも許してもらえ るだろうと考えたからである。
 基本的には、「かるた展望」に書かれている数字を集計し直したものなので、数字自体に は問題はないだろう。
氏名
区分
自陣平均
敵陣平均
お手付平均
備考
種村貴史
全試合
9.98
13.34
1.17
41試合
望月仁弘
全試合
10.39
11.48
1.91
23試合
種村貴史
勝ち試合
9.41
14.34
29勝
望月仁弘
勝ち試合
10.36
14.36
1.36
11勝
種村貴史
負け試合
11.33
10.92
1.58
12敗(平均3.92枚)
望月仁弘
負け試合
10.42
8.83
2.42
12敗(平均7.17枚)
 この平均値は何を語るのだろうか。
 二人に共通するのは、勝ち試合は、自陣で取った枚数より敵陣で取った枚数が多いという ことと負け試合は勝ち試合よりもお手付きが多いということだろう。そして、負け試合では、 自陣で取った枚数より適陣で取った枚数のほうが少ないということである。全試合でみても、 この二人は、取った枚数が“敵陣>自陣”である。
 勝ち試合で取った枚数は、種村が平均23.75枚、望月が平均24.72枚。種村の 勝ち試合では、相手のほうがお手付きが1回は多いということである。
 「攻め」の重視、お手付きはしないようにという、指導者や先輩達から教わっていること の正しさは、この二人の名人の数字が物語っていると言ってよいだろう。
 29期以降の記録だけをみれば、松川永世名人も川瀬元名人も勝ち試合のほうが負け試合 よりもお手付きの数が少ないのだが、平田元名人はそうではない。
 名人戦登場4回、9勝9敗で、勝ち試合の平均お手付きは1.78回で、負け試合の 平均お手付き1.33回と、勝ち試合のほうが平均お手付きが多いのだ。勝ち試合の 札を取った枚数の平均は、25.11枚で、負け試合が18枚。39期から41期の3期 (14試合8勝6敗)でみれば、平田元名人は、勝ち試合の平均も負け試合の平均も、 取った枚数は“自陣<敵陣”(自陣の平均11.07枚、勝ち試合では12.13枚、負け試合 では9.67枚。敵陣の平均12枚、勝ち試合13.25枚、負け試合10.33枚)なのである。 数字からは負け試合においても攻めの姿勢が感じられる。勝ち試合でのお手付きの平均が 若干多いのも、攻めて札を取るという姿勢との関連があるのではないだろうか。
 数字は物語ってくれるとともに、その数字の背景もいろいろと考えさせてくれる。
 次回も、種村永世名人と望月元名人の対戦記録を中心に数字に語ってもらおうと思う。

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