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懐かしい顔

〜思い出とともに〜

Hitoshi Takano Mar/2024

 2024年の名人位決定戦のYuTubeの第一戦の解説は岸田元名人で、ゲストが種村永世名人だった。
 種村永世名人とは、最近では職域学生大会などで会う機会もあるが、和服をきている姿をみるのは久しぶりであり、 そういう意味で懐かしい顔(姿)をみたという感じがした。
 慶應かるた会では、私の2年後輩にあたり、職域学生大会では、慶應義塾AチームでA級優勝したときのチームメイトである。
 名人戦の応援にも何度も行った。
 昨年逝去した妻との婚約時代、奈良に住む妻を種村vs石沢の名人戦に誘って近江神宮に応援に行ったことも思い出である。 応援にいったものの昭和天皇の崩御の日であり、名人戦は4月に延期となってしまったのではあるが。

 そんな亡き妻との思い出を思い起こさせる種村永世名人であるが、今回のゲストとしてのコメントからも懐かしいエピソードを紹介してくれていた。

 ひとつは、記録ノートの件である。司会者が「種村永世名人は対戦の記録をずっとつけていらっしゃると伺いましたが」と話をふると、 「慶應の先輩たちがつけていたので(自分もつけるようになった)」という回答をしていた。  その記録をつけ続けている先輩の一人が私である。ノートは継続しているが、そのデータは今ではエクセルでも管理している。  今の慶應の現役選手は、自分の記録をきちんと残しているのであろうか?
 まあ、記録をつけるということは、悪い伝統ではない。むしろ、いろいろな意味で良い伝統であろう。

 そして、時代の移り変わりを感じたのは、堀本挑戦者が友札を中段・下段の右端に縦に並べたときのコメントである。
 「私だったら、こう取ります。」と話したのは、中段の当該札の左下端と下段の当該札の左の上端の両方に触れるポイントを払うという取り方だった。 ところが実際には、川瀬名人は中段から突き手で真っすぐに取った。下段の札は札押しとなる。
 おそらく、種村永世名人の時代であったら、近接して置くならば二枚並べるのが主流であったろう。そして、基本は払い手。おそらく種村永世名人なら、 二枚並んだ札の札が接しているピンポイントめがけて払ったであろう。
 堀本挑戦者が中下段の縦並べをした意図はともかく、現代の傾向としては、敵の右下段も突き手で取る傾向が強いように見受けられる。 A級で活躍する選手の取りに多いようだ。こんなところに、時代の変化を感じたのである。
 ちはやふる小倉山杯の東京でのパブリックビューイングのゲスト解説のときは、 「自分が現役時代とはかるたのセオリーが変わっているので(選手の思惑?考え?が)全然わからないですねぇ」 と言っていたという。種村永世名人でさえ、そうなのだから、私が現代かるたと昭和のラスト10年のかるたとの相違をいろいろと感じるのもしかたないことだろう。

 また、司会者が名人戦のときの種村永世名人の脱水症状対策として腕を噛む話をふったところ「別のところに痛みを感じさせることで、紛らわした。」と 回答していた。この試合を勝利したのだから、凄いの一言だが、過去には練習や試合でもちょくちょく同じ症状がでていた。 この症状で負けることもしばしばで、私はこの症状に仲間内の呼び方として「カラータイマー」と名付けていた。 そう、ウルトラマンの胸で点滅するあの「カラータイマー」である。 この命名も懐かしい思い出のひとつである。

 最後に、もうひとつ、司会者が「種村さんは、上段の浮き札の取りが見事だったとお聞きしていますが」との問いかけに 「以前は、上段(中央)に札を置く人が(多く)いましたが、いまは、左右にわけて上段中央に置く人はいないので」と答えていたことが印象に残った。  現在のスタイルだと敵陣を攻めて自陣上段の浮き札に戻ってとるのはお手つきを気にすることなく楽にできるが、相手も上段浮き札があると その相手陣の上段中央の札をひっかけることなく戻るのには技術がいる。
 この上段の戻りのテクニックがすばらしいのである。種村永世名人の学生時代、慶應には上段中央(浮き札)のヘビーユーザーが結構多く在籍していた。 私もその一人だったので、種村永世名人の上段中央のとりのうまさは体験している。
 種村永世名人のこの上段浮き札の高度な技術(それこそ「名人芸」)は、それを発揮できる対戦相手があってこそなのだということをあらためて実感した次第である。

 昭和と平成初期をを思い出しつつ、個人的な思い出も含めて勝手に記してみた。

[追記] 「かるた展望」第78号に、松川永世名人と種村永世名人の対談が掲載された。読み応えのある記事である。ぜひ、お目通しいただきたい。

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