ハンデ戦いろいろ

Hitoshi Takano Jul/2000

はじめに

 競技かるたの初心者に札の暗記を教え、払いを教えるとゲーム形式の練習 を始めることになる。ただし、普通に取ったのでは、上手(うわて: ハンデ戦においては、強い人のことを「うわて」という)の全くのワンサ イドゲームになってしまい、下手(したて:ハンデ戦における弱い方の人) はつまらない思いをしてしまう。
 囲碁の世界には、置碁というハンデ戦がある。相手との実力差により、二 子局とか、三子局、四子局とかあらかじめ黒(下手)が石を置いておく。 実力差が広がれば広がるほど、あらかじめ置いておく石の数が増えていく。 こうして、実力差をあらかじめ埋めておくのである。
 将棋のハンデ戦は、駒落ち戦である。実力差によって、「香落ち」とか 「角落ち」「飛落ち」「飛香落ち」とか、「二枚(飛角)落ち」「四枚 (飛角香)落ち」「六枚(飛角桂香)落ち」「八枚(飛角銀桂香)落ち」 とかがある。(駒落ち将棋の場合は、上手が先手である。)
 将棋の場合、駒落ちの上に、上手は一手30秒未満で指さねばならず、 下手には、持ち時間を30分与えるとかの方法で、ハンデを工夫したりも する。上手が一度に複数の対戦者を相手にする多面指しなども、一種の ハンデ戦と言えるだろう。
 囲碁にしても将棋にしても、置碁とか駒落ち将棋というハンデ戦の体系 は伝統的に整備され、段位一つの差なら、これだけのハンデというのが経 験則的に決められている。しかも、置碁定石や駒落ち定跡といったものも あり、こういうハンデ戦をこなすことで、下手は手筋を覚えていくという 教育的体系でもある。しかし、我が競技かるたの世界では、実力差による 明確なハンデ体系は確立していない。競技かるたの世界では、同じくらい の実力でも、勝敗の枚差などがその時の状況で、結構バラバラであり、客 観的なハンデとは言い難いからである。
 競技かるた界では、こんな状況であるが、実際に行われているハンデ戦 を紹介して、初心者指導などになど役立ててもらえればと思い、この拙文 を記す次第である。

上手暗記時間なし

 通常、かるたの暗記時間は15分であるが、上手にこの暗記時間を与え ないハンデである。といっても、札を並べておかないと下手も敵陣を覚え られなくなる。そういうわけで、上手がまず自陣のみ25枚並べる。そし て15分間席をたち、下手はその間に自陣を並べ、敵陣も含めて札を覚え るのである。上手は、下手の陣を暗記時間に覚えられないというハンデを 持つ。しかしながら、このハンデの欠点は、上手が自陣を並べ終わったと きには、ほとんど自陣は覚えきってしまっているということである。上級 者になれば、並べただけで覚えるなどということは簡単である。したがっ て、上手は試合開始後の数枚の詠みのインターバルで敵陣の暗記をいれ終 わるまでは、守り気味になり、下手にとっての攻めの練習にならないおそ れがあるという欠点も出てくる。
 下手がある程度札の暗記ができて札を取れるようになってからのハンデ 戦と言えるだろう。

初形枚数差ハンデ

 かるたは、通常双方持札25枚で始める。この開始時の持札に差をつけ てしまおうというのが、このハンデ戦である。上手30枚、下手25枚で 開始するわけだ。ただし、この下手25枚で上手をふやしていく方法だと 総数50枚開始ではなくなってしまう。何が言いたいかというとカラ札が 減ってしまうということを言いたいのである。そこで、上手を30枚にす るならば、下手は20枚で始めるというようなハンデの持ち方のほうがよ い思う。この方式だと2枚差ずつハンデが増えていく。一番小さいハンデ は26枚対24枚で始めるということになる。これは、最初のカラ札でお 手つきをした時の差と同じである。このハンデは、27枚対23枚、28 枚対22枚、29枚対21枚…というように広がっていくが、せいぜい、 いいとこ30枚対20枚くらいではないかと思う。それ以上拡げるくらい の差ということは、結局上手が取りまくって下手は手がでない状態になって しまうくらいの差ということで、別のハンデ戦にしたほうがいいと思うから ある。
 上手が力の差のある相手に、枚差と勝負にこだわった練習をする場合は、 最大10枚差くらいの範囲でこのハンデ戦をやるとよいだろう。下手は敵 陣が最初から多いので、序盤から敵陣を積極的に攻める練習になるとは思 うが、別に平手での練習でも同じような気持ちでの練習はできないことは ない。したがって、このハンデ戦は、どちらかというと上手の「勝負がる た」練習用のハンデ戦といえるかもしれない。

お手つき見逃しハンデ

 これは、あきらかに初心者やお手つきの多い初級者向きのハンデ戦であ る。下手がお手つきしても、上手は見逃して相手陣に札を送らないという ルールで取る。
 お手つきを怖がって手の出ない初心者には、「お手つきしても、送られ ないのだから、遠慮なく札を払いなさい」と指導する場合に適している。 また。お手つきの多い初級者とお手つきをしない上級者が取ると、思いの ほか枚差が開いてしまい、勝負の興趣をそいでしまうことがあるので、こ のハンデ戦を取り入れるとよい勝負(というよりも下手有利の勝負)にな り、上手にとって緊張感のあるゲームとなるだろう。
 ただし、下手がハンデを悪用し、わざと決まり字前に払うような行為をし 始めたらただちに、このハンデは解除しよう。そういうハンデ戦の精神を 理解しない不心得者は、ハンデの恩恵を受ける資格がない。

上手送り札減少ハンデ

 通常は、敵陣の札を取れば、1枚札を送る。これを上手の場合は、敵陣を 2枚取らないと1枚送れないというように定めるハンデ戦である。例にあげ たケースは1−2ハンデと呼んでいる。
 もちろん、これにもバリエーションがある。敵陣に札を1枚送る権利を1 ポイントとして、2ポイントたまったら上手は敵陣に札を送るというケース がある。何かというと下手のお手つきにつき送る分も、同様に考えてあげよ うというケースである。もちろん、1−2ルールは、敵陣を取ったことに関 してだけで、下手のお手つきは厳しく1枚送るという決め方でもよい。
 1−3ハンデというケースもあるが、下手が構えているだけ状態にならない よう注意しながら取ることが肝要である。このハンデの狙いは、下手に自陣 を気にせず、敵陣を取るということを体験させることである。時に応じて、 「敵陣をしっかり攻めて」と声をかけるてあげるとよいと思う。
 なお、相手が持札1枚になったら当然解除なのだが、これも相手に応じて 持ち札3枚で解除とか5枚で解除と取り始める前に決めておくとよいと思う。

下手送り札増加ハンデ

 下手が上手陣を取ったら、2枚送れるハンデを2−1ハンデという。上手 がお手つきした場合に下手が2枚送るというやり方もあるが、このルールで 上手がダブルのお手つきなどをした場合には、送り札が多過ぎて、下手の暗 記が混乱するだけなので、お手つきは普通にしておくとよいと思う。
 この方式の長所は、敵陣を取るメリットが1−2ハンデに比べてはっきり わかるということである。しかしながら、一度に2枚送るので、下手が札の 暗記についていけない状態になってしまうことがあり、送った札の確認を 怠らないよう注意してあげることが肝要である。
 理屈上、3−1ハンデも考えられるが、送り札の混乱がはげしいため、よ ほど上手が守りに自信のある場合でないとお勧めできない。でも、それでは、 下手に「攻めろ」と指導していることと矛盾してしまう側面もある。
 単に上手がお手つきしたら、下手は2枚送ってよいというシンプルなハンデ はお勧めである。下手は、上手の苦悩を目の当たりにし、お手つきの怖さを 知ることになるし、お手つきの多い上手にとっては、お手つきをしないよう 普段以上に慎重になるからである。上手が慎重になる分、下手に札を取るチャン スが増えるという狙いもある。

組み合わせ型

 下手の成長の様子を見ながら、今まで紹介したハンデのつけ方を組み合わ せていくという方法である。1−2ハンデとお手つき見逃しを組み合わせる とか2−1ハンデと上手お手つき倍送りを組み合わせるとか、1−2ハンデ と2−1ハンデを組み合わせた2−2ハンデとするとか、様々なパターンが 考えられる。
 要は、下手の長所・短所を考えて、自分の特徴や実力を加味して、ハンデ を決めるということが大切である。
 組み合わせ型を考えるようなハンデ戦は、上手の練習のためというよりも 下手の練習用のハンデ戦であるのだから…。

下手詠順暗記ハンデ

 これは札の出る順番をあらかじめ下手に教えておくというハンデ戦である。 下手も、ある程度取れる人間でないといけない。順番を知っていたとしても 決まり字前に払ったのでは、上手の練習にならないからだ。これは、名人など の超上級者が練習する際に、平手で練習するに足る相手がなく、だから といって上記のような変則的なハンデ戦は自身の練習に馴染まないという ような場合、取り入れられる手法である。
 上手のための究極のハンデ戦といえるだろう。

最後に

 囲碁や将棋のハンデ戦には手直りという考え方がある。たとえば、ある ランクのハンデ戦で、下手なり上手がある条件をあげれば、ハンデを変え るのである。
 二枚落ち将棋で、下手が三つ勝ち越せば、次からは飛香落ち将棋に変える し、二枚落ちで上手がいいとこどりで三つ勝ち越せば(三連勝を条件にする 場合もある)、次からは四枚落ちにするというのは、三番手直りという。 一番手直りというのもある。囲碁を例にあげると、三子局で黒が勝てば、 次は二子局になるし、その次の二子局で白が勝てば、三子局になるというもの である。一番手直りは多少厳しく、三番手直りくらいが指導上は適当なところ だろう。
 競技かるたのハンデ戦でも、実力差によりハンデ体系が確立すれば、囲碁 や将棋と同じように手直りという考えを取り込めるかもしれない。
 ちなみに私の考える対初心者ハンデ体系を以下に述べたい。
  1. 1−2&下手お手つき見逃しハンデ戦
  2. 1−2ハンデ戦
  3. 2−1ハンデ戦
  4. 上手暗記時間なし&上手お手つき倍送りハンデ戦
 初心者の場合、初めはお手つきさえなかなかできないものだ。したがって、 下手のお手つきを見逃すというメリットを与えることで、恐れずに札を取り にいくことを学んでもらう。しかも、下手は自陣を二枚取られないと相手か ら札を送られないのだから、安心して敵陣を攻めることができる。
 次の段階では、下手にお手つきの怖さというかデメリットを知ってもらう 意味で見逃しを解く。その次は、敵陣を取ることのメリットを強烈に覚えて もらうために下手が敵陣を取った時の二枚送りである。これのハンデ戦は、 札の動きが激しいので、動いた札の暗記を入れるということの訓練につなが る。
 このあとは、やっと平手っぽくなる。上手の暗記時間はなし。下手 には、暗記時間15分の大事さとスタートダッシュの大切さを学んでほしい。 相手が、札を覚えきっていない間にどれだけ差を拡げられるかがポイントで ある。しかも、上手はお手つきすると二枚送られなければならないから、よ けいに慎重である。上手の手が縮こまっているところを下手がいかにのびの びと札を取るかが課題である。そして、相手にお手つきをさせることを考え るという訓練のコースでもある。
 以上は、下手が一番でも勝ったらそれで次のステップへ進めばいいだろう。 上手が勝ったからといって逆戻りする事はないだろう。競技かるたの場合は、 一日でもはやく、平手の練習にして、その回数を重ねていったほうがよいの だから…。
 このハンデランクを設定する目的は、一日も早く次のステップへ行きたい という努力目標になればいいというところにある。平手で練習できるように なったと判断したら、このハンデステップはすっ飛ばしてもかまわないと思 っている。
次のTopicへ        前のTopicへ

トピックへ
ページターミナルへ
慶應かるた会のトップページへ
HITOSHI TAKANOのTOPPAGEへ

Mail宛先