Trauma

Hitoshi Takano Apr/2001

新入生のシーズン

 4月である。桜が満開の中の入学式は日本の風物詩である。桜の花びらが舞う入学式を迎えると学事暦は 4月開始に限ると思う。入試が寒い季節に行われることや、海外の大学との学事暦との差異から、9月入学 を唱える方々もいるが、学校関係者として肌にしみついた4月入学の季節感を譲る気にはなれないのである。
 したがって、4月は新入生のシーズンなのである。入学式とそれに続く行事の中、新入生を先輩と称する輩 がとりあえずは温かく迎えてくれる。様々なクラブ活動・サークル活動への勧誘合戦も盛んである。「競技 かるた」などというマイナー競技には、なかなか人が入ってくれないが、それでも毎年数名は興味を示して くれる。この興味を示してくれた数人をどれだけ定着させられるかが、会を存続させていく上での大きな ポイントである。そういう意味では、我が「慶應かるた会」は、最近では毎年存亡の危機を迎えていると いっても過言ではないかもしれない。
 今年も、オリエンテーション期間には、高校時代の経験者を含め、十人近くの新入生が「競技かるた」の 活動に興味を示してくれたようだ。
 自分の新入生時代のことを少し振り返ってみたい。

若かりし頃の回想

 私は結構ネガティブな性格なのだろう。新入生のころの大学のサークルのイメージは、「こわい先輩」たち というものであった。なぜに「やさしい先輩」がたくさんいるところというイメージがなかったのであろうか。 今思うと、先輩たちに申し訳ない。やはり「競技かるた」というイメージが、勝ち負けを伴うものだけに 真剣勝負という厳しい雰囲気を醸し出していたということもあるだろうし、百人一首を暗記している程度の 素人が、先輩たちの手ほどきを受けて育っていくという「競技技術」と「競技精神」の伝授の集団としての 空気をそこはかとなく感じていたこともあるだろう。
 きっと、伝統継承のための修行は、厳しいものなのだという意識が自分の中にあったのだろう。(ちょっと 大袈裟であるが……)。とにかく、先輩は怖かったのだ。相撲界では、無理へんに拳骨と書いて「兄弟子」 と読むなどというが、そこまでではなくても、大学という未知の世界で、競技かるたサークルという未知の 団体の中に身を置いた時に、大学における先輩という代物も未知の存在だったのである。人間、未知との遭遇には、多くの 障壁を乗り越えるためのエネルギーを要するものなのだ。その障壁の一つが「先輩は怖い」という自分で 勝手にいだいたイメージなのである。
 実際、競技かるたに関して、先輩の指導は厳しかったように思う。特にI先輩の指導はこわかった。こちら は、ただでさえ「先輩は怖い」と思っているのである。やさしく指導してくれる先輩の言葉でさえ、びびって 聞いているのである。それを本当にけっこう厳しめに注意された日には実際の3倍くらい厳しく感じてしまう。 (本人は、絶対に否定する。あんなに優しく言ってやったのに何を言っているんだと…。でも、これが送り手 と受け手の感じ方の差であるというのも事実である。)
 先輩たちは、また、こう言うのだ。「まだ、僕らの指導は優しい。僕らの指導をしてくれた先輩たちは もっと厳しかった。トモ札の別れで自陣の札でお手つきしようのものなら、バカ呼ばわりで怒られたもの だ。」
 こうして現役の先輩以上にまだ見ぬOBへの恐怖心は募っていくのだった。

指導上の注意

 "trauma"は、精神的衝撃[外傷]というように訳されるが、「トラウマ」という片仮名用語として日本語 に定着したように思われる。
 新人時代、このように先輩たちやOBに指導を受けた私のかるたには完全にトラウマが生じてしまったと いってよい。怒られることを恐れる心は、先輩に怒られないための「かるた」とそうでない自分の個性の ままに取る「かるた」と二面性を生ぜしめた。
 札への響きが遅い私は、攻めに出る前に決まりが聞こえてしまっていた。聞こえて自陣の札であれば、 敵陣を攻めにいくのもナンセンスであるから自陣に手を出す。そうすると先輩には攻めてないと責めら れるのだ。最初は、そうやって聞こえても攻めにいくことによって、敵陣を攻められるようになるかな と思っていたが、どうもそうではなかった。もしも、最初から自分の個性のままに取る「かるた」を伸ば していたら、また、今とは違うかるたスタイルになっていたかと思う。しかし、現実には、先輩の攻めろ の声に心的ストレスを受けながら取っていたかるたと次第に融合しながら、この自分の中の二面性の混合 スタイルが、自分のかるたになっていった。
 今、仮りにI先輩と取るとすると、今でも対先輩用の「よそいきかるた」になるような気がするのだ。 しかも、これは無意識に出てしまいそうなのだ。これこそトラウマなのではないか?

 本稿の最後に、現役の諸君に一言いっておく。
 新入生にトラウマを与えるような指導はしないようにくれぐれも気をつけてほしい。
 そして、なによりも「競技かるた」の楽しさを知ってもらい、かるた会に定着させてほしい。

 がんばれ、現役!
 ガンバレ、新入生!!


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