削られる肉体
Hitoshi Takano AUG/2003
スポーツ選手の場合、その競技の持つ特徴のゆえに肉体が変形する事例をみかける。
単に筋肉がつくとかいうことをいっているのではない。たとえば、相撲取りやプロレスラー、アマチュアレスリングの人や柔道の選手にもいるが、「耳がわく」こと等をいっている。相撲でいうとほかにも、はず押しを極めていくと手の指が小指の外側のほうに曲がっていく。押し相撲の力士が、手にテーピングするのは、指が開いて突き指しやすくなるのを防ぐためだけではなく、この職業病とも言うべき指の湾曲を防ぐための措置でもあるのだ。それ以外にも「仕切だこ」ができたり、ぶちかましのために額ににこぶのようなものができたり、右肩でぶつかっていくので、肩にこぶのような硬い部分が生じたり、肉体は相撲という競技、しかも自分の相撲のスタイルに応じて極めれば極めるほど変わるのだ。
当然、相撲ではふとることも一つの肉体改造である。糖尿病や内臓疾患、心臓への負担などとも戦わなければならなくなるが、相撲という競技のためにリスクを背負ってでもふとるのである。
格闘技系は、肉体を削るという言葉が、合うように思う。相撲以外でも、ボクサーの顔の切傷あとや網膜剥離などもそうであるし、減量という作業も肉体を削る作業であろう。プロレスラーの様々な肉体の傷も、プロとしての勲章だろう。
格闘技でなくとも、肉体は削られる。引退したピッチャーの曲がった肘、ソフトテニスプレーヤーの伸びた利き腕などもそうだ。そして、格闘技でもそうでなくとも、スポーツ選手につきものの怪我。靭帯損傷や腱を切ったり伸ばしたり、肉離れ、膝や腰などへの過度の負担等、高度にスポーツを極めていこうとすればするほど肉体を削ることになる。
身体を鍛えて健康にするためのスポーツが、プロフェッショナルになったり、上を目指しつづけていったりすると、場合によっては、肉体にひずみを産むことがあるというのは、皮肉なものだ。
競技カルタの世界にも、これらの事例と近い事例もあるのではないだろうか。
腰に負担をかけて腰痛に悩んだり、突き指などで苦労するのは、「フォームが悪いからだ。取り方が悪いからだ。」といってしまえば、それまでかもしれない。
でも、違うのだ。
競技カルタの選手も、精神的プロフェッショナルであったり、上を目指しているスポーツ選手と変わらずに肉体を削ってでも、競技と向かいあっているのである。
競技カルタの選手で、膝から下足の先までの間に、不自然なタコや角質化した部分のある方は多いのではないだろうか。また、突き指を何度もしてしまい、指の形が変わったり、長さが変わったり、曲がらなくなっている人もいるのではないだろうか。腰痛や膝の関節痛に悩む人も多いだろう。
本稿はこうしたことを奨励しているのではない。もちろん、基礎をきちんと学び、怪我なく競技するのが基本的な姿勢である。しかし、永年続けていけば、年齢の変化と共に訪れる肉体の衰えに、不具合のところをカバーするようになる。こうしてバランスを崩して、肉体の他の部分に負担がかかり、肉体を削るはめになってしまうのである。
競技者の自己責任といってしまえばそれまでだが、競技を続けて上を目指そうと考えるならば、肉体を削るリスクは覚悟していなければならないのだ。
団体戦の夏である。若い選手は、将来ある身体である。一時の無理がこうしたリスクを産むかもしれない。指導者の方にも、競技者の方にも、心にとめておいて欲しい事項ではないだろうか?
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