予選

Hitoshi Takano OCT/2004

慣れ


 10月ともなると新入生も、大学生活を半年経験し、いい意味でも、悪い意味でも慣れが出てくる。
 いい意味で言えば、要領よく生活できるようになっているということであるし、悪い意味では、手抜きを覚えるということになるだろうか。惰性で生活してしまうという危険性を指摘すべきかもしれない。
 授業に対しても、出席率の低下やただ出席しているだけという傾向に陥りやすいのもこの時期であろう。
 これは、サークル活動にも言えることである。カルタ会でもご多聞にもれず、練習に来てるだけとか、練習にも来なくなるというケースがある。
 本人が意識するしないにかかわらず、こうした慣れによる潮流から逃れるためか、授業や春からやってきたサークル活動以外のことに多くの時間を割くようになる一年生も出てくる。
 たとえば、アルバイトに熱心になることであったり、新しいサークル活動への転換であったりするのだ。

疎外感


 新しいサークル活動への転換には、二通りあるだろう。
 一つは、入学したてで、よくわからないで入ってしまったサークルが、ジャンル的に合わなかったというケースである。こういうケースの場合、秋になり、他のジャンルのサークルを探すことになる。こうした学生をターゲットに秋に勧誘活動をするのを「落ち穂拾い」と称する。
 また、今いる組織体質的に合わなかったという連中は、自分で新しいサークルを立ち上げることになる。仲間集めと言う意味で、一年生をターゲットにやはりこの時期に勧誘活動が始まる。
 10月は、秋のサークル勧誘のシーズンでもある。
 この勧誘シーズンは、4月から入部し、夏合宿を経験した1年生にとっては複雑である。今までは、自分は最下級生だったので、一年生としての雑用はあるものの上級生からは、いろいろな意味でかまってもらっていた。しかし、この時期の勧誘で同じ学年でありながら、新入部員が入ってくるということで、上級生の興味の対象はそっちに移ってしまうのである。
 同じ学年でありながら、この時期の新入部員は、まだまだ、いわゆる「お客さん」である。場合によっては、自分がこのお客さんにサービスをすることになる。一日であっても後からはいってくれば年上であっても弟弟子という相撲界のような制度ではない。
 なんとなく、弟や妹ができたばかりの子供のような感じなのである。
 「大学生になってまで、そんな幼児のようなことを…」と思われるかもしれないが、表面に出る出ないはあるが、本人も意識する意識しないに関わらず、なんらかのこうした感情を持つのである。こういうことに年齢は関係ない。
 サブタイトルの疎外感の一つはこれである。
 そして、もう一つ疎外感を持つことがこの10月にあるのである。
 実は10月の下旬には、名人戦・クイーン戦の東日本予選・西日本予選が行われるのだ。この予選に出場する卒業生が、現役の練習に参加して、調整に励むのである。もちろん、現役学生でも、四段以上の出場資格を持っていれば、予選にエントリーできる。OB・現役入り乱れてのシビアな練習になるのである。
 この状況で4月から一年生はどうなるかというと、先に述べた秋からの新入部員の基礎練習の相手とか、同じ一年生同志の練習をせざるをえない。上級生は、予選出場者との練習にとられてしまうのだ。
 卒業生も普段は、「練習相手の希望はありますか?」と聞くと「誰でもいいよ」と気楽に言ってくれるが、この時期になると「名人戦の予選に出るから、誰それと取らせてくれ」とか「一年生との対戦はやめてくれ」と言ってくるのだ。
 一年生としては、疎外感をいだかざるをえない。もちろん、高校の時からの競技経験者で、それなりの実力のある一年生ならば、先輩からの声もかかる。声のかからない一年生も、自分の実力がないことは百も承知であるから、自分に声のかからない状況は頭では理解できるが、表面に出る出ないにかかわらず感情はまた別のものである。
 こうして、一年生の中には微妙に「疎外感」が蓄積されるのだ。

憧れ


 さて、そんな一年生も、実際に予選を見学にいくと気分が変わる。
 試合における予選参加者の厳しさや、技術に触れ、微妙な「疎外感」などといった感情は、カルタの強さや高度な技術への憧れに変化する。

 「自分もいつか、あの舞台で戦いたい。」

と思うようになる。こうした意味でも、今は、まだまだ未熟でもいいから、名人戦(クイーン戦)の予選には、ぜひ一年生も応援(見学)に行ってほしいと思う。
 ただし、10月に入りたての新入部員は、連れていかないほうがいいだろう。音を立てずに見るという競技カルタ見学の基本ができていないので、音を立てたり、質問を声に出したりと、出場選手の顰蹙をかう可能性が大きいだろうから…。

 競技の厳しさと、名人を目指す選手の強さと技術に触れて、これらに憧れる気持ちをぜひ持ってほしい。

 予選を見に来ている初級者の中に、未来の名人がいるかもしれない。


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