藤原実方朝臣
かくとだにえやは伊吹のさしも草
さしもしらじなもゆる思ひを
決まり字:カク(二字決まリ)
下の句の「さしもしらじなもゆる思ひを」を導くための上の句だが、
「思ひ」の「ひ」を「火」にかけて、「燃ゆる」という「火」の縁語を
用いている。伊吹には「息吹」の意もあるが、「火吹き」でもあり、
さしも草は、お灸につかう「もぐさ」でもある。火に関する言葉のちり
ばめられた歌である。
藤原実方は、書の三蹟と言われた藤原行成に自分の歌の批評をされ、
それが気に入らなかったために、行成の冠を落とすという行為に出た。
これを一条天皇にとがめられ、「歌枕を見てこい」と陸奥守に左遷さ
れてしまう。
左遷とはいえ、体の好い流刑のようなものだ。失意の内に陸奥に死に
その魂は、雀となって宮中にもどり、宮中の台盤をついばんだという伝説
がある。
菅原道真や崇徳院のように怨霊にならなかっただけ、まだ、よいかも
しれない。左遷された自分の責も感じていたので、恨みきれなかったの
かもしれない。道真は「雷」、崇徳院は「天狗」だから、実方の「雀」など
かわいいものだ。
さて、百人一首の歌などわずかしか覚えていない子どものころ、この
歌は、サ行の音の繰り返しが面白く耳に残る歌であった。文字から覚える
歌ではなく、耳で聞いて覚えるタイプの歌であった。
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2008年3月 HITOSHI TAKANO