再・後輩への手紙(9)

Hitoshi Takano JUL/2014

昇級のために大事なこと


前略  
 4月に競技かるたを始めたメンバーも、けっこう大会に出場をするようになりましたね。
 夏休みは合宿や団体戦があり、そして、もちろん個人戦もあるわけで、正月とは違った 意味での「かるたシーズン」であると思っています。
 新入生が活躍をみせる中、上級生たちも、追い抜かれまいと現在いる級から上の級への 昇級を目指してがんばっていることと思います。そんな中には、力があるのに上の級にあ がれずに、現在の級に長いこととどまっているメンバーを見かけることがあります。
 そこで、今回は「昇級のために大事なこと」というのを少し考えてみたいと思い、筆を とりました。

 なんといっても、いわゆる「実力」が大事です。実力がなければあがれません。しかし、 「あいつは実力があるのにあがれないんだよな〜」という嘆息を受ける選手が、今回の テーマです。これはどういうことでしょうか?
 後者で言うところの「実力」は、実力というよりも、むしろ「地力」と言ったほうが いいのかもしれません。
 「あいつは、実力ないのに運だけで昇級した。」という言われ方をする選手がいること を考えてみて下さい。まずは、実力を定義しないと話が始まらないということがおわかり いただけるかと思います。
 よく言われる言葉に「運も実力のうち」とか「ツキも実力のうち」という言葉がありま す。「実力はあるんだが、メンタルが弱いんだよな〜」というため息をきくことがありま す。そう考えると、「実力」を定義すれば、それは「総合力」ということになると思いま す。
 そして「地力」とは、「競技においてフィジカルな面での札を取る能力」と定義をすれ ばよいでしょう。
 「実力」は、「地力」に「精神力」と「運(ツキ)」、「勢い」などといった要素を加 えた「総合力」と言ってよいのではないでしょうか。

 さて、力はあるのに昇級できずに踏みとどまっていると評価されている場合、だいたい は「地力」がある選手なのです。地力は、練習を重ねることによって形成されます。練習 を一定の期間に一定数こなしていけば、地力はつきます。
 しかし、地力を身につけても、総合力としての何かが足りない。だから、あがれないの です。地力以外に身につけるべきものは何でしょうか。一つには「精神力」です。練習 では強いが、大会本番に弱いと評価される選手は、「精神力」の弱さを指摘されることが 多いのです。「緊張に弱い」とか「あがり症」、「人の目が気になる」、「プレッシャー が苦手」などなど、心当たりがある人もいるのではないでしょうか。
 以前、“TOPIC”のコーナーで 「制御の技術」 という文章を書いたことがあります。この「精神力」ということについては、この文章を 読んでいただければよいかと思います。

 次は「運」とか「ツキ」といったものです。こればかりは、科学的な説明は不可能です。 これを身につける練習はありません。これまた以前“TOPIC”で書きましたが、 「ツキの総量」 という文章があるので読んでみていただきたいと思います。
 関連する文章に「ゲンをかつぐ」ということで 「かつぐ」 というものもあるので読んでいただけたら多少は参考になるかもしれません。
 要は、「運」や「ツキ」が自分にあると勝手に思うことで、「精神」の安定に一役買って くれるのであれば、それはそれで「精神力」アップということにつながっていくと考える のがよいのではないでしょうか。

 さて、最後は「勢い」について考えてみたいと思います。
 これも、根拠のある説明ができる代物ではありません。「あいつは勢いだけでA級に駆け 上がっていった」とか、「C級からB級にあがった直後に決勝進出したが、この勢いを活かし きれなかったから、何年もあがれずにいるんだ」という言葉をきいたことはないでしょう か?
 いったい「勢い」とはなんなのでしょうか?さっぱり、わかりません。でも、とても 大事なもののように感じるのです。
 あえて、仮説を立ててみましょう。「勝利によってもたらされる高揚感が、肉体的・精 神的に選手に作用し、競技にとってプラスとなる要素を引き出す上昇スパイラル」とでも しておきましょう。
 こう考えると「勝利」をそして「勝利の連鎖」をプラス思考にする「精神力」といえな いこともありません。なんにしても「勢い」がないと昇級には結びつかないように感じる のです。
 みなさんも、自分自身で「勢い」というものの正体を考えてみて下さい。

 「勢い」に乗れないというケースは、昇級戦まではいくが、そこで勝ちきれないという ことの繰り返しというパターンと認識しているのですが、最たるケースは、B級で入賞しは じめて遂に準優勝したものの、そのあとが決勝手前での入賞にとどまり、次第に入賞も できなくなってしまってくすぶっていくケースではないかと思います。
 「勢い」を味方にした場合は、実は最初の決勝進出のワンチャンスをものにして優勝 してしまうのですが、なかなかこのように「とんとん拍子」にいくものではありません。 そこで、「勢い」をもう一度蘇らす方法を考えてみたいと思います。
 一つ目の方法は、できるだけ日をおかないで試合に出場し続けるということです。上向きの「勢い」が一回止まったくらいでも、まだ、助走分のスピードが残っているというくらいの考えで、「勢い」に再度乗って、勢いを味方につけようという方法です。
 「勢い」が生じるのは、その前に充実した練習をしていたとか何らかの要因があると思います。たとえば、夏休みに合宿や団体戦準備で充実した練習ができて、その蓄えが秋に「勢い」という形で開花したというケースなどがあると思います。春休み明けの4月・5月もありそうな話ですが、4月は新人対応に追われると自分の練習が積めない嫌いがあります。学生・生徒の多くが同じ条件でしょうが、秋はチャンスです。この夏から秋にかけての「勢い」の源となったリソースを活かさない手はありません。ちょっとの足踏みくらいは気にせず、大会出場を続けることです。
 二つ目の方法は、一つ目の方法がうまくいかなかったり、練習頻度が減ったりして「勢い」が止まってしまった場合への対応です。

 二つ目の方法のその1は、自分でいついつまでに昇級すると目標の期限を定める方法です。たとえば、「高校(大学)卒業まで」とか、「現在の学年のうちに」とか、「1年以内に」とかです。ターゲットにする大会を決めて、そこにピークがいくように調整するという感じで、その大会までの大会は、「勢い」をつけるためのステップにするわけです。「これで最後だ、あとがない」と背水の陣で臨むという気持ちの持ち方もありますが、失敗して本当に最後になってしまっては、有望な選手を斯界から失うことになりかねないので、あくまで「気持ちの持ちよう」ということにしておいてください。目標としていた大会でだめなら、目標期限を再設定すればよいのです。
 「目標期限を設定したくらいで昇級できるならば苦労はない」というなかれ、漫然と大会に出続けるよりはメリハリがあっていいと思います。目標を定めることで、それこそ「気持ち」という「精神性」の力を発揮しやすくするということです。ただ、「気持ち」とか「精神力」は、わかりやすく数値化ができるわけではないので、なにか影響はあるはずだと経験値として理解はしていても、それを強調しすぎると非科学的とか精神主義だと批判を浴びてしまいます。
 というわけで、いろいろな分析はとりあえず切り離して、方法論としての「目標期限設定」ということで試してみてください。

 そして二つ目の方法のその2です。これは、自分が今までやってきた「かるたスタイル」の変更です。「かるた哲学」の変更と言ってもいいかもしれません。
 これには、「フォームを変える」ことも「払い方等を変える」ことも含まれますし、「攻め9割を攻め8割に」変えることなども含まれます。「ひびき中心の取りから、払いのスピード重視の取りへ」といった変更、その逆といった変更などもありえます。とにかく、「勢い」が止まってしまったら、同じスタイルで「勢い」が復活するまで「待つ」という選択もありますが、何かを変えることで、再度「勢い」につなげていこうという考え方です。これには、多少時間と労力がかかります。「変える」ことで、「変えた」ものを自分のものとして身に付け、定着させなければならないからです。
 これをやると、いったんは弱くなると思います。練習などでいままでタバ勝ちの相手に接戦に持ち込まれるということもあるでしょう。それも産みの苦しみと思い、成果がでるまでは試行錯誤や工夫を続けながら、「変える」ことにチャレンジし、「変えた」ことを自分のものにしなければなりません。忍耐も必要に思います。「覚悟」をもってのぞむことです。

 例によって、勝手なことを書きました。ご容赦ください。「大事なこと」を皆さんが発見するために、わずかなりともヒントになれば幸いです。
 昇級したらお知らせください。一言「おめでとう」を伝えたいと思いますので…。
 では、また、練習場でお会いしましょう。
草々



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