<百人秀歌>


一条院皇后宮

夜もすがらちぎりしことを忘れずば
   恋ひむ涙の色ぞゆかしき


百人秀歌の決まり字:ヨモスガラチ(六字決まリ)
 清少納言の枕草子にも良く登場する定子である。 中宮であったが、道長が自分の娘の彰子を中宮にするために皇后に格上げされるという 運命の皮肉が、一条院皇后宮という呼称には込められているのである。御堂関白道長の 権勢には逆らうべくもなかったのである。
 この歌は死に臨んでの遺詠である。25歳の若さであった。
 中の関白、父道隆の死に接し、兄弟である伊周、隆家の左遷を目にして、母 貴子とも死別、一族の栄光と失墜を目の当たりにした生涯であった。
 一条天皇との間は極めて良好で、一男二女をもうけたが、子の敦康親王は、一条天皇 の第一皇子であるにも関わらず即位することはなかった。後ろ盾のない皇子は、天皇の 地位にはつけなかったのである。
 二人目の内親王の出産のあとに亡くなった。
 悲劇の皇后といえよう。
 枕草子により、中宮定子の才気と一条帝との仲の良さが後世に伝わっているだけに、その 悲劇性がより真実味を増して我々に伝わってくるのだ。
 そう考えると、枕草子は単に平安の随筆文学という以上の意味があるのではないだろうか。

 歌意は、「夜を徹して私とお契りになったことを忘れないでくださるなら、私が死んだあとも私のことを恋偲んでお泣きになる涙の色をみたいものです。」というようになるだろうか。遺詠というところを汲んで読みたい歌である。

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2008年5月6日  HITOSHI TAKANO