TOPIC   "番外編"

馬術とフェンシング、そして「かるた」

Hitoshi Takano DEC/2015

 先日、フェンシング部の部長をしている大学教員とのなにげない会話の中で、面白い話を聞いた。

 「馬術をやっていた選手は、フェンシングを始めてもすぐに上達するそうなんです。」
 「へぇ。そうなんですか? なぜなんですか?」
 「馬術は馬の上で、馬の動きに対応してバランスをとらなければならないでしょう。そうしないと落馬 してしまいます。このバランスをとる感覚やそれによって鍛えられる身体が、フェンシングを始めたときに 活きてくるということみたいです。」
 「へぇ。そうですか。馬術とフェンシングねぇ〜。」

 この時は、そんなもんかと思った程度だった。しかし、しばらくして、ハタと思い当たることがあった。
 私の知り合いのかるた選手に高校時代に馬術をやっていた選手とフェンシングをやっていた選手がいた のだ。

 フェンシングをやっていた選手は、いわゆる「感じ」のいい選手だったが、高校時代はお手つきが多かった。 しかし、大学に入って練習量がふえると、お手つきは減って、A級にあがっていった。私は、単に練習量が ふえたから、経験値があがったためにお手つきが減ったくらいに思っていた。
 経験値があがるとはいうものの、あまりにざっくりとした表現である。彼にとっての経験値はなんだった かを分析することこそが必要なことだろう。そう考えると、感じのよさを活かしつつ、お手つきをしない ということのために必要な経験値とはなんだったのだろう。ひとつは「ため」であるだろうし、もう一つは 「逃げ」であるだろう。この技術が身についた背景には、フェンシングによって鍛えられた身体のバランス のとり方や、そこで鍛えられた体幹の強さがあったのではないだろうか。

 もうひとりは、馬術をやっていた選手である。「かるた」のスタイルは、私にいわせれば異能感を漂わせる かるただった。つけたあだ名は「千手観音」。手の出方から受けた印象で名づけた。そして、彼は一時期、 不思議なフォームでかるたを取っていた。構えたとき左の膝が浮いた状態で構えるのだ。別に膝を故障して いるわけではなかったようだ。そんな構えで早く取れるのが不思議だった。しかし、その手の出方も、その 不思議なフォームも、馬術で鍛えられたバランス感覚と体幹の強さが、それを可能にしていたと考えると 「なるほど」と思えるのである。

 NHKの特番でS永世名人の強さの秘密を分析する企画があったかと思うが、たしかそのときは「体幹」の 強さもその要素にあったように覚えている。
 音への反応、札の配置によって、敵陣へ自陣へ、右へ左へ、左へ右へ、自陣へ敵陣へと身体の重心を 変えながら札を取りにいく。その動作には、バランス感覚と体幹の強さが求められる。もちろん、 競技かるたプロパーの選手が、競技かるたの練習をすることで身につけるケースも多いだろう。 しかし、馬術やフェンシングにより、その能力が鍛えられて、競技かるたに活かされるケースが あることも確かなことだろう。もちろん、こうした能力を鍛えるスポーツは、馬術やフェンシング以外 にも多々あることだろう。メジャーと呼ばれる競技種目もあるはずだ。けれども、今回、馬術とフェンシング、 そして「かるた」ということで話題にしたのは、日本国内では決してメジャーではない競技種目の 意外な接点という意味合いでである。

 競技かるたの選手は、競技かるたのトレーニング方法として馬術やフェンシングに取り組んでみるのも よいのかもしれない。

次のTopicへ        前のTopicへ

トピックへ
トピック-“番外編”-へ
ページターミナルへ
慶應かるた会のトップページへ
HITOSHI TAKANOのTOP PAGEへ

Mail宛先