続・後輩への手紙(IV)
Hitoshi Takano Apr/2009
前略 競技を始めて2年めに入ったみなさん、新入生勧誘の季節です。
後輩を加入させないと、会の存続が危ぶまれることになりますので、ぜひ、多くの
有望な新人を勧誘して、加入させてください。
会の問題だけではありません。皆さん自身の競技者としての成長にもかかわること
だといっても言い過ぎではないと思います。
今までは、ほとんどが自分より1年以上経験を積んだ先輩たちとの練習だったと思い
ます。そして、その合間を縫って、同期の仲間との練習だったことでしょう。同じ時期
に始めた同期との練習は、まさに切磋琢磨であったかと思いますし、先輩にはなかなか
勝てなかったことと思いますので、勝利を体験する貴重な練習だったはずです。
ここで、1年の後輩が入ってきます。競技経験者は別としても、初心者に対しては、
自分が1年前に教わったことを教えていかなければなりません。この教えるという行為・
経験が、自らを省み、再確認する意味で非常に役立ちます。後輩に言葉で伝える理想と
それを実現できていない自分とのギャップを感じることで、自分のどこを課題として
なおさなければならないか強く意識できるはずですし、後輩に指導する上で、言ったこと
をきちんと示さなければならないということで、弱点克服の強いモチベーションが生まれる
はずです。
そして、なによりも勝利を得ることのできる相手が増えるということです。すでに先輩
たちからも勝利を得ているでしょうが、先輩たちから勝利を得るのはなかなか大変です。
しかし、初心者の後輩からは、1年の経験の差が如実にあらわれて勝利をえることができる
でしょう。
この「勝つ」という経験をたくさん積むことが大事です。「勝つことは自分を磨く最大
の手段である。」という言葉のとおりです。
そして、先輩としての自分たちの中で、誰が一番最初に後輩に初白星を与えるかという
ことも関心事になることでしょう。いつになるかはわかりませんが、後輩との一戦で、
自分のお手つきなどで転んで、接戦になってしまうこともあることでしょう。後輩に
初めて負けるのではないかということが、自分自身にプレッシャーになってのしかかって
きます。この経験も大事です。このプレッシャーに打ち勝って勝利をえることもあれば、
プレッシャーに負けて、試合にも負けてしまうこともあるでしょう。しかし、プレッシャー
の中でかるたを取るという経験は、団体戦や個人の入賞戦の時にかかるプレッシャーの
ときの練習にもなるはずです。
1年前をもう一度、思い起こしてみましょう。札を覚え、払いを練習し、試合形式で
練習し、そして練習の中で試合をし始めたその流れと、その時の気持ちはどうでしたか。
この経験を後輩への指導の中で活かしてください。そして、思い出してみてください。
先輩との対戦で「攻めろ」「攻めろ」と責められても、枚差は開いていくばかりだった
ときのことを。いつの間にか、責めるべき敵陣の札は少なくなり、相手に攻められる対象
の自陣の札が、相手陣より相当多くなってしまっていく過程を。
良く考えてみてください、この展開だと攻めて取るという体を多くはできなかったはず
です。それが、今度入会してくる後輩相手には、敵陣を攻めて敵陣札を取ることができ、
自陣の枚数は少なく敵陣の枚数は多いという攻めがるたに絶好のシチュエーションで
練習できるということになります。
この経験を積んで、そして皆さんの「攻めがるた」が形成されていくのです。
ですから、自分のかるたの成長のためにも、会の存続のためにも、新入生をターゲット
に新入生を入会させてください。
さて、勝手なことを書きましたが、上記のとおり、先輩との対戦で、攻めるべき敵陣は
減り、攻められる対象の自陣の札は減らないというパターンの中で、皆さんはどのような
対策を採りましたか。
自陣が多いのだから確率論的に多く読まれるであろう自陣を一生懸命守って枚数を減らす
ということをしましたか?
それとも、「攻めがるた」を貫き、枚数は少なくなってしまっても敵陣を攻め続け行き
ましたか?
だいたい、前半からタバペースでのビハインドを背負ってしまった時の取り方を先輩は
教えてくれたでしょうか。おそらく、敵陣を攻めなければダメだということを強調しつづ
けてはいなかったでしょうか。実は、これは大事なことなのです。実は、こういうビハインド
の時に初心者が、守って取ることを体験してしまうと、普段から守りの傾向がついてしまう
のです。また、先輩たちも後輩たちが守りの傾向に陥らないように、厳しく攻めを続ける
のです。「守っていても相手の厳しい攻めで取られてしまう。しかし、敵陣を攻めれば、敵陣
は取ることができる。」このことを肌で感じさせようと、先輩たちは後輩の陣を攻め続ける
のです。
皆さんもこの精神を受け継がなければなりませんが、現実に試合などで、序盤から大差を
つけられてしまってしまった場合、経験不足のゆえにまだまだどうしたらよいかわからない
ということもあるのではないでしょうか。
なすすべなく時が経過したり、無理に行動を起こしてお手つきをしてしまったりという
悪循環に陥っていないでしょうか。
皆さんは、1年の経験を積み、攻めるということの大切さを身体で覚えたはずです。そし
て、その攻めを後輩たちに伝授し、実践していくはずです。
そのことを前提にして、序盤から大差をつけられてしまった場合の考え方や方策を私の
経験の中から紹介したいと思います。
しかし、これを読むことは、自分の「攻めかるた」を損ねてしまうことになるかもしれ
ないと思う人は読まないでください。なぜならば、守りの要素を含んだ話しなので、守り
という蜜の味を覚えて、「攻め」を本質を見失うことになりかねないからです。
「攻め」を守れる自身のある人のみ読んでいただいて結構です。さらに、かるた歴
1年未満の方にも読まないでいただきたいと思います。私としては1年目は「攻め」の
基本を身につける大事な時期だと考えているからです。では、
序盤から大差となった時に
いかがでしたでしょうか。
あくまで、考え方です。すでに差が大きいので、実際にはなかなか逆転に結びつけることは
難しいのです。しかし、「あきらめていけない。最大限勝利に向かって努力する。」という
競技者としての本能を充分に発揮させるために、何をどうすればいいのだろうということの
一つの選択肢の提示なのです。
結局は、自分にあったスタイルを見つけなければならないことは言うまでもありませんが、
何か自分なりのスタイルを考える上での参考になれば、ここに記した意味があったのだと
思います。
では、また、練習でお目にかかりましょう。
草々
次の手紙へ 前の手紙へ手紙シリーズのINDEXへ
☆ トピックへ
★ 慶應かるた会のトップページへ
☆ HITOSHI TAKANOのTOP
PAGEへ