続・後輩への手紙(VI)

Hitoshi Takano JUL/2009


前略  7月になりました。梅雨は続いておりますが、みなさんの“かるた”が 湿っていなければよいのですが…
 2年生の皆さんは、4月から入った1年生との勝負はまだしのいでいるでしょうか。 経験者の1年生はともかく、未経験者の1年生もそろそろ成長してきており、これは 花マル提供かという場面にもでくわしているのではないでしょうか。
 負けられないというプレッシャーとともに、1年生からの質問にいろいろ答えなけ ればならないというプレッシャーもあるのではないでしょうか。
 1試合終わって振り返り、「あそこでの送りはどうしたらよかったでしょうか」と か「構えがしっくりこないのですが…」とか、「上段の払いで自陣をひっかけてしま うのですが…」とか、様々な質問が飛んでくることでしょう。
 それに対する自分なりの考えを提示するというのも、自分のかるたを振り返るいい 機会になると思います。こうしたことを繰り返すことが、自分自身の成長にもつなが ることかと思います。

 さて、結構困るのが、身長の高い・低いで、構えをどうするかとか、払いをどうし たらよいかなどという質問ではないでしょうか。自分の経験は、自分の身長という 事実に基づいてしか考えられません。あとは、他の体験者の話を聞いた「また聞き」 の知識でしか語ることができないのです。自分と同じ程度の身長の人からの相談で あれば、自分の経験からは語れますが、自分が質問者と同じ経験をしたとは限りま せん。身長は同じでも、リーチが違ったり、体重が違ったりという要因でも、様々 な差異が生じるからです。
 すこし考えてみましょう。
 競技かるたが、現在の競技のスタイルとして制定されたのが明治37年 (1905年)ですから、現在の87センチ(札16枚半)で自陣・敵陣各3段の 競技線が定まったのも、この時といってよいでしょう。19世紀末の日本人男性 の平均身長は約161.5センチといいますから、1905年のこの時も、だい たいこのくらいの身長を基準に競技線が定められたのだと考えてよいのではない でしょうか。
 平均161.5センチの身長と考えると、今の日本人の平均身長が男性が 約170センチで、ざっと8.5センチの差となります。明治のこのころは、 競技かるたとして、競技会に参加していたのは男性のみだったようですから、 競技者としての比較でいえば、現在の女性の平均身長が、約158センチと いうことですから、現在の女性は、当時の男性よりわずかに3センチちょっと 低いにすぎません。
 あくまで、平均の話なので、個々には差がありますから、平均からプラス マイナス3センチ程度の差であれば、平均身長の選手との差を考えると、 明治37年ころの男性選手たちの中に、現代の女性選手が入って対戦したと しても、それほど違和感のないものと考えます。

 しかしながら、実は平均で語るということはこうした競技においては、あま り意味がありません。なぜなら、個々の選手は個々の身長であり、平均身長 の選手がいたとしても、それはその選手個人のものだからです。結局は選手 個人個人個別に考えるしかないのです。
 ただ、こうして、明治37年の制定時の平均身長と比較して、それほど 低いわけじゃないと語ることは、もし、低いということをハンデだと思い 込んでいる選手であれば、それは違うということを説明する材料になるかも しれません。
 要するに質問されて答える側としては、様々な材料をもって、いろいろな 視点から語るということで、本人に自身を持たせたり、気づきを与えたり、 様々な工夫を促すことにつなげていくということが大切なのだということ です。
 背の高い選手をうらやましく思うこともありますが、背の高い選手は、背が 高いなりに、払いやフォーム、構えの位置に苦労しているようです。(私は どちらかというと、平均より低い部類に入りますので、背の高い選手の苦労 は実体験はしていませんが…)
 実は、通常の札の半分のサイズの札というのも市販されております。この 札を使って、半分の競技線(幅43.5センチ)に配置して、実戦してみれ ば、その苦労の一端がわかるかもしれません。

 話題を変えましょう。
 対1年生(経験者を除く)で、自分のお手つきなどから、状況を不利にして 接戦になったり、リードされたりした経験がそろそろあるのではないでしょうか。  そのときの上級生としてのひとつの打開策を紹介しておきましょう。
 それは、「掛声」です。
 1年生は、まだ、自分が掛声をかけるなどということに慣れてないというか、 通常はできません。おそらく、先輩たちが掛声をかけている様子をみて、慣れて きて、自分でも掛声をかけるタイミングをつかんでくるものだろうと思います。
 実際、2年生の対戦を見ていても、あまり掛声をかけているようには見受けら れません。
 そこで、勝負どころで、掛声を発するのです。1年生は、先輩の気迫に押され ることになるのではないでしょうか。
 そんな掛声について、以下のリンク先にまとめてみました。

掛声考


 いかがでしょうか。
 参考になったでしょうか。
 とにかく2年生の諸君は、まだまだ対1年生戦をしのいでください。先輩に 勝つことの難しさを肌で感じさせてください。
 そうして、後輩は先輩に勝とうとがんばり、先輩は後輩に負けられないとが んばり、切磋琢磨して、先輩も後輩も強くなっていくのです。
 では、また、練習でお目にかかりましょう。
草々

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