続シン・後輩への手紙(VI)

Hitoshi Takano   Dec/2024

昇級



前略 先月の横浜大会D級準優勝、おめでとうございます。
 運命戦を第一試合と準決勝の2回制したことが大きかったですね。特に準決勝は、敵陣を抜いたのは素晴らしい。左利きならではの縦の攻防での攻めは流石です。
 決勝戦は、残念でしたね。3−3から5枚差は、欲がでて「お手つき」したとのことですが、リターンを求めてリスクを取ったという積極的な姿勢を評価することとしておきましょう。

 いよいよ、C級弐段に昇級・昇段です。地方大会でのD級以下の地域限定の制限の壁をこえることができてよかったです。 「かるた展望」に書いた地域制限に関しての意見を、制度ではなく自分実力で越えたことは素晴らしいと思います。
 さて、次はC級を抜けてB級を目指す戦略を考えなければなりませんが、その前に12年間頑張ったD級での道のりを振り返ってみましょう。
 以前の制度ではC級が初段でしたから、KH君はD級からスタートしました。
 大学入学後の先輩たちからの指導を受けて、それなりに攻めかるたの理屈のセオリーを学んで、自分なりにアレンジしつつ頑張ってきましたが、 敵陣を攻められないこととお手つきの多さが壁になり、先行され逃げ切られる展開で伸び悩んでいました。
 相手のお手つきや相手が攻めきれていない時の守りで、終盤に僅差の場合になると左利き特有の相手の右への攻めが決まり、 残り札も一字に決まって来る数が増え、お手つきを回避できる状況になっていて、逆転勝ちをするパターンはありました。
 卒業し、地方に就職し、再度東京に戻ってきたときに、私との練習の中で一緒にKH君の長所・短所を分析し、大胆に戦略を見直しました。
 その見直しの際、「初段取得」というところに到達点というか目的を置くことにしました。 いわゆる「攻めかるた」のセオリーを捨て、「筋が良い」と言われるかるたのスタイルを取らず、慶應かるた会の主流のスタイルからは大きく離れたスタイルにしました。
当時のD級は、今のE級のような感じでしたので、対戦相手も「筋の良い」攻めがるたの人もいれば、自陣は取れるが敵陣は取れない選手もいました。 終盤になると札の移動についていけず、決まり字の把握も甘く、お手つきの叩き合いのような対戦をみることもありました。
 こうした状況をみて、トーナメントの当たり次第で昇段戦で勝てる所まで通用すればいいという考え方に特化した戦略でした。
 特徴的な所は、次のような感じでしたね。
      (1)視覚による暗記の強化による「お手つき」減少をはかる目的で自陣の上段中央に札を置く定位置とする。
      (2)上段中央を含め、守りを強化し、とも札はあえて攻めずに自陣守ることを優先とする。
      (3)札を一枚ずつ離して置き、相手に無意識に札直をイメージさせ、上段中央と共に攻めずらいと思わせる。
      (4)自陣において、とも札は並べずしっかり離して置き、相手の攻めの意識を分散させる。
      (5)とも札をあえて分けることはせず、分かれているとも札をあえて敵陣に送り、お手つきリスクを減少させる。
 こんな感じだと、相手はKH君をド素人と侮るか、自分の会で教わってきたセオリーと違うので面食らって対処方法に悩むかという感じだったと思います。 いずれにしても、相手に正確な情報を与えないかるたスタイルでした。しかも、相手にとっては普段対戦の少ないサウスポーの利もいかせます。
 実際、このスタイルに変えたことがブレイクスルーになったと思います。身につけるまでにはしばらく時間もかかりましたが、初段をとる実績はあげることができました。
 しかしながら、級分けの制度変更で、移行期間にも間に合わず、初段はとれたものの、D級初段の枠組みとなったので、級としてはD級のまま据え置きでした。
 ここで、満足することなくC級弐段への次のステップを考える際に、私が練習でKH君に指摘したことが、 逆転だのみの勝ちパターンでなく「先行逃げ切り」パターンを身につける練習の必要性でした。
 当時、KH君の練習環境では格上の選手の中での練習がほとんどでした。実績の差で、先行逃げ切りの練習はできず、相手のミスに乗じての逆転だのみの練習ですし、 何より負けることが多いので「勝つ」という経験を積むことができません。
 思い切って、勝てる相手、勝てそうな相手がいる練習会にいって、しっかりと勝ち切るという経験を練習で積んでほしいということで、 当時私がお世話になり始めた練習会を紹介しました。
 これが、今回の昇級・昇段につながるブレイクスルーになったと思います。
 この練習会をきっかけに、勝つ経験を積むことができたことと、いろいろな選手との練習という練習相手のバリエーションが増えたことは大きく、 練習相手のみなさんには感謝しかないと思っていることでしょう。
 私が思うに、この練習環境により、初段取得目標のかるたスタイルをいわゆる攻めかるたのセオリーに近いものに変える工夫ができたことが特によかったと思います。 とも札は、陣をわけておいて聞き分けることもできるようになっていますし、攻守のバランスも以前の守り重視から少しずつ変わってきました。
 今回の結果は、KH君の研鑽と努力の賜物だったといえると思います。ここに留まることなくB級昇級への工夫をはじめていきましょう。

 C級からB級への道のりは今まで以上にたいへんになると思いますが、KH君が工夫する際に必要な経験について、ひとことアドバイスしておきましょう。
 それは、せっかく地方大会に参加しやすくなったのですから、様々な地方大会にも足をのばし、各地方の様々なスタイルのかるたに触れることです。
 特にKH君の場合、攻めの強い地方への大会遠征が望まれます。福井遠征などがよいのではないでしょうか。 一度、福井の攻めがるたに攻めまくられて、タバ負けを経験してみてください。タバ負けを前提に話をするのは申し訳ありませんが、 今のKH君のスタイルだと、それなりのC級の福井渚会の選手の攻めがるたと対戦した場合、私自身の対福井渚会選手との対戦経験から、 充分に予測される結果だと思うので、お許しください。もっと攻めを強化しなければならないという気づきにつながるものと思いますので、 きっと自分のかるたを見直す、いい機会になることでしょう。ポイントは、サウスポーの利を相手の右下段への攻めに活かすことの強化です。
 アドバイスは今までどおりできると思いますが、ここからは、より自分自身での工夫が必要な世界にはいってきます。 今まで以上に一生懸命、自分の頭で考えていってください。
 KH君の今後のご活躍をお祈りしています。
草々

追伸 主張の際、いわゆる「もめ」の際、言葉使いや主張のポイントの整理は、今後もますます注意してください。 特に「セイム」の主張は、むずかしいと思います。おそらく完全な同時などということはないと思います。 選手双方が認識できないコンマゼロゼロゼロ…n秒という一定の範囲の中での、幅のある「セイム」なのです。 「幅のあるセイム」というとわかりにくいかもしれませんが、KH君も好きな相撲の「同体」の判断と同じようなものといえばわかりやすいでしょうか。 相撲には、勝負審判がいて「同体」の判断をして、「取り直し」などもありますが、競技かるたには「取り直し」はなく、基本的には審判もなく、双方の話し合いでの結論です。 そのことを理解して、主張すべきは主張し、引くべきは引くという決断を素早くしてください。 だいたいは、攻め込んでいるほうが勢いもあり有利に感じることが多いですが、距離の近い分守り側が札に相手に遅れることなく触れていることもあります。 同じ札の異なる場所を双方が触れている場合も、難しい判断です。人の感覚のあいまいさ、勘違い、思い込みなど多々あります。 お互い「取り」も「主張」も「美しく」ありたいですね。
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