続シン・後輩への手紙(IX)

Hitoshi Takano   Jul/2025

札移動



前略 KH君、先月は複数のA級選手(うち一人は元名人)から札の移動について、いろいろとアドバイスを受けていましたね。
 たしかに、KH君が同じ空間でかるたを取っているとKH君の「札、移動します」その他の札の移動のコールの声を耳にします。
 まあ、私の場合、KH君の札の移動の根拠の結構な部分を知っていますので、それほど不思議に思うことはありませんが、初めての対戦の人には多いと感じることでしょう。

 基本的に、決まり字が変化すると札の順番を入れ替えたり、移動させるというのは、他の選手にも見られることですので、かまわないと思っています。 しかし、すべてがその原則で動かしていると、一字決まりになったのに気づかないと思われて「しめしめ」と相手が感じるケースや、相手に決まり字の変化を教えてしまうというケースも生じることがあるようにも思います。 もちろん、そう思わせておいて「実は、、、」ということもあるかもしれませんが、一定以上の実力があればバレバレであることは間違いないでしょう。
 今回は、大した根拠のない札移動や、札を移動した「利」を活かせないその後の取りなどが、指摘されていたようですね。 きちんと言語化して、相手に聞かれた時に根拠や狙いを説明できるようにしておくことは大切なことです。 もちろん、手の内をあかしてはいけない相手には、相撲の「宇良」関を見習ってはぐらかすのもよいですが、教えてくれる方にはそれは失礼ですからしないとしても、 試合で当たるかもしれない相手には、はっきりと「手の内明かすと次に対策を立てられるから勘弁してほしい」と言うのがよいと思います。
 逆に自分が教えてあげたいと思う相手には、正確な表現で教えてあげるべきでしょう。
 なんにしても先月の経験は、本人としてもいろいろと考えるきっかけになったようで結構なことだと思っています。

 ご存知でしょうけれども、私は自陣の札の移動は「最小限」を心がけています。
 理想は、自陣の札移動を一回もしないで勝利することです。
 札の移動は、相手への送り札、相手から送られた札という札のやりとりの中で、自陣の形を整えていければよいものと思っています。
 私は、とも札の定位置が同じ札、同音の札が同じ場所に固まる場合など、一枚を緊急避難場所の位置に配置して、敵陣を取ったら、 そういう避難させた札から送るのを基本にしていますが、時に定位置のほうの札が避難札を敵陣に送る前に出てしまうケースに「札移動」が生じます。
 緊急避難札を自分の定位置に戻すので、このケースはどうしても割と序盤のうちに起きてしまいます。
 左右の枚数の差を気にして、バランスをとるために左右での札移動をする選手もいますが、私はどちらかというと自分の定位置優先で左右のバランスが崩れてもかまわないタイプです。
 また、中段の札がなくなると上段全体を中段に移動させたり、下段がなくなると中段を下段に、上段を中段に下げるひともいますが、私は段ごとの移動はしません。 「しません」というか「できません」というべきかもしれません。定位置重視の暗記なので、元の段に手が出てしまうからです。
 最終盤に右下段に札がなくったときくらいは、右下段に札を1枚だけ移動させるということはあります。
 かるたを始めた頃は、一字決まりに変化した札を内側に移動させたり、上段・中段から下段に下げたりしていた時期もありましたが、もう数十年前にやめました。
 定位置に置いて、そこで、この札は「一字決まり」という暗記と認識で対応することにしました。 結局、どこに置いても相手も攻めてくるし、取られる時は取られるので、自然に手が反応する定位置がよいと結論づけたからです。
 私も、始めてからある程度の期間は、札を動かしまくっていた時期がありましたが、強い相手には何をどうしても効果がないと悟りました。 むしろ、自然体で定位置主体で戦った方が、自分の技量の向上にもつながるように思えたのです。
 KH君は、試行錯誤の中にいると思いますが、その中で、極力移動を減らすかるたを試してみるのも、いい経験になるように思います。 簡単に実行できるところでは、同じ段の片側の順番の入替は、やめても問題ないように思います。
 移動を減らすかるたを考えることになると、今のKH君の定位置も見直す必要があるかとは思いますが、これからの成長のためにはよい機会かと思います。
 先月のA級の方々からの指摘は、良いタイミングだったように思えてなりません。
 ではまた、進化した(もしくは進化途上の)KH君とお手合わせできることを願っています。
草々


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