シン・後輩への手紙(V)

Hitoshi Takano   Dec/2022

継承



前略 丙君、多忙な部署での勤務お疲れ様です。新型コロナウイルス感染症が第8波といわれているご時勢ですし、健康にはくれぐれもご留意ください。
 さて、丙君あてにこの後輩への手紙シリーズの中で手紙をしたためるのは2018年の12月以来4年ぶりということになります。 その間に、ふたりの対戦は100試合を超えました。いつも練習相手をしてくれていることに感謝を申し上げます。  職場のほうでも、先月、永年勤続表彰式で、勤続20年表彰を受けられておめでとうございます。
 チームメイトとして20年、職員かるた会をともに支えてくれていることにも厚く御礼申し上げます。

 今秋、NHK-BSで、丙君の母校が取り上げられていました。ひとつは、今夏の高校選手権での活躍(準優勝)でしたし、もう一つは、合宿の様子を取材した番組でした。
 残念ながら、丙君は視聴できなかったようですが、かるた会関係者の間では、大変評判のよい番組でした。
 番組を見ていて、以前にもNHK-BSで取り上げられていた時のことも思い出しました。テレビという媒体では、NHKに限らず、丙君の母校は何度も取り上げらえていますね。 そして、他の学校も様々な形で、テレビ番組の中でその活動を紹介されています。
 一人の視聴者としては、楽しく見させていただいていますし、かるた界に身を置く人間としては、放送媒体で競技かるたの世界が取り上げられることは、普及面からも嬉しく思っています。
 以前取り上げられた時のB級のサウスポーの選手のことが印象に残っていて、対戦相手との腕の接触などで傷んだ左腕など、もっと接触の少ないかるたを取れないのかなと感じたものでした。
 今回、高校選手権の番組を見ていて、ふと思ったのは、画面に映る選手たちの「取り」についての、違和感でした。
 「あれっ?!」と思う「払い」というか「取り」が気になったのです。
 この違和感はなんだろう?
 番組を見ながら考えたのですが、どうもその違和感の正体がわかりませんでした。

 そして、あとに放映された合宿のほうの番組をみていて、ふと気づいたのです。
 違和感の正体、それは顧問のT先生の取りの個性というか特徴を受け継いでいるということでした。
 それは、「囲い」です。 決まり字の長い札に対して、決まり字の音まで「ため」てから、直線的に取りにいくというよりも、早く出て「囲う」動作をしたあとで決まり字で動くという取り方です。

 何故、そんなことに気づいたのか。
 それは、T先生が准名人になった話が、当時の写真とともに紹介されたときでした。
 当時、NHK-BSで放送されていた名人戦を私も見ていました。インタビューでM名人への対策として「囲い」について話していたことを思い出したからです。
 「そうだ、T先生はそういう取りをしていた!」
 すべてが腑に落ちました。
 「彼らは、T先生の取りを参考にしていたんだ。」
 全員が全員ではないでしょうが、身近にいる上級者の取りを参考にして、自分にそれがあっていれば、自分の技術として取り入れるということです。

 「技の継承」です。

 そのことがわかったら、以前見た番組のサウスポーの選手の腕の傷みの原因もわかりました。
 我々の会にもサウスポーはいますが、番組に出ていた選手のような極端な腕の接触はありません。せいぜい、大山札の囲い合いの時ぐらいです。 でも、丙君の母校の選手たちは、大山札以外にも「囲い」を多用するのです。当然、右利きの選手と左利きの選手の手(腕)は正面で相対(あいたい)することになります。 先に「囲う」、遅れたらその「囲い」を破る。ターゲットの札に対しての制空権の取り合いです。当然、接触が起きます。
 件の選手のチームメイトは、みなA級で、サウスポーの彼だけがB級で、昇級に向けて一生懸命に練習をしている様子や個人戦の様子も放送で取り上げられていました。 相手に先に囲われたところからの工夫が、彼の左腕をそうさせたのでしょう。レギュラー5人のうち他の4人は右利きですから、5人での対戦で接触が多いのは一人だけですが、 左利きからすると他の4人全員との試合で接触が起きるわけです。そして、練習量も豊富な学校ですから、サウスポーの左腕には相当な負担がかかっていたものと思われます。
 たしか、番組では、桑名大会のB級の試合も取り上げていました。会場の都合で場所を会長宅に移動して行われた決勝で勝ってA級に昇級するところまで放送していたと思います。 努力と苦労は報われたと言えるでしょう。ただ、当時、視聴していた立場では、何故かくも接触の多い取りになったのかが私にはわかりませんでした。 いつごろの放送だったかは覚えていませんが、ひょっとすると十数年を経て、今回の放送を見ることで、当時の謎が解明されたわけです。
 丙君の高校から同期のサウスポーのA君は、最近、我々の練習に来てくれませんが、久しぶりに今回の発見を検証しつつ、対戦してみたいと思っています。 私の推論などをネタに、ぜひ、誘ってみてください。
 では、また、練習場でお会いしましょう。
草々


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