シン・後輩への手紙(IV)
Hitoshi Takano Nov/2022
地力の伸び
前略 宇都宮大会は抽選で外れて出場できなくなってしまい、残念でしたね。D級の繰り上げ順位が132位では、いかんともしがたいですよね。
ここしばらく、練習で明らかな力の伸びを感じているだけに、今度の宇都宮大会に照準を合わせるつもりの練習を積んで、
ベストコンディションで参加するようにもっていきたかったのですが、、、
K.H君自身も、モチベーションが下がってしまったようなことを言ってましたが、抽選は時の運です。
ツキの総量という考え方をすれば、今回使えなかった「ツキ」(運)は、また、別の機会に使うことができると信じましょう。
さて、いろいろな所で書いてもいますし、口頭でも伝えていますが、競技かるたの強くなり方は、右肩あがりのなだらかな曲線ではなく、
階段を上るようにある日・ある時、突然、一つ上の段に上がるような感じで強くなっていくものです。
最近の練習でK.H君を見ていると、私との対戦でも、私以外の対戦でも段をひとつ上がったように見えるのです。
もちろん、練習相手の中には、箸にも棒にも掛からぬような2タバで負かす猛者もいますが、完全封じ込めタイプでなく、
取って取らせての中で少しづつの差の積み上げで最終的に勝利を得ようとするベテラン勢に対しては、時に勝利し、敗戦の枚差も極端に拡がることなく試合を運べています。
何が変ったのでしょうか?
10年前くらい、初級者同士の対戦でも、終盤どちらかが残り5枚になったときに双方の残り札を足して一桁の枚数くらいの状況からだと、
いわゆるサウスポー的な取りで、自陣を守り、敵陣の右サイドを攻めて抜いて勝利をおさめるシーンは見ていました。
ただ、相手が上位者だとこういう終盤にはさせてもらえなかったわけです。
上位者ととると、序盤からの先行逃げ切りをされて、終盤にはいるところでは、大差をつけられてしまっていたからです。
大きな原因は、「お手つき」の多さです。初級者相手だと、お互いに「お手つき」が多く、お手つき数によるビハインドは双方で帳消しになるのですが、
上位者には、「お手つき」の多さは致命傷です。
私が、百十試合を超えるK.H君との対戦で不覚をとった2試合は、いつになく私の「お手つき」が多く、しかも終盤の肝の場面でお手つきをしてしまい、
自陣を守られ、右下段をサウスポー的突きで抜かれたことが敗因でした。
今はその轍を踏まぬように、試合全体の流れを構築することを心がけてできれば10枚前後での勝利を目指しています。
その作戦は成功し、2度目の敗戦以来、深刻な敗戦危機はなく初対戦からの49連勝と並ぶ二度目の49連勝(継続中)を達成しました。(2022年10月末現在)
しかし、ベテラン勢との試合を見たり、私との試合を体感する中で、明らかな力の伸びを感じるのです。
何が変ったのでしょうか?
一つ目のポイントは、「お手つき」の著しい減少です。
たまに爆発することがあるのは、私にもあるので仕方ないことと言わざるをえない部分もありますが、爆発の頻度が減りました。
1〜2回で済むことが多く、ゼロ回ということもあります。以前からは、考えられないことです。
集中力の向上、暗記方法の向上、上段ひっかけのお手つきを減らす取りの技術の向上など、間違いなくこうしたテクニックが向上しました。
これにより、序盤・中盤でのビハインドを無駄に広げることなく最小限に抑えることができるようになりました。
二つ目のポイントは、島根からの帰京後、約5年前に二人で工夫してたどりついた定位置とその定位置にあわせた戦術が、しっくりとK.H君の身体に馴染んで、
その戦術の狙いを実践できるようになったことだと思います。
本人の特性を考えての「上段つかい」「札と札をくっつけない配置」「大山札を端にしない配置」などなどの工夫を自分のものとして使いこなせるようになりました。
定位置に対応した取りの技術の向上といえるでしょう。
そして、三つ目のポイントは、ビハインドをいつかは追いつくぞという思いの強さの向上と、その思いの強さに裏打ちされた「粘り強さ」です。
接戦の最終盤に見ごたえがでてきました。
四つ目は、二つ目のポイントで述べた「取りの技術の向上」とも関連しますが、取りから「力み」が薄れたことです。
払い手や突き手などは、力を入れすぎるとかえって遅くなってしまいます。適度な「ゆるみ」というか、身体の「あそび」があって、
力がスッと抜けた感じのほうがスピードが増します。身体の筋肉をリラックスさせた取りが増えてきました。
これが、サウスポー独特の相手陣の右側の札を相手の右手よりも出札に近くはいる取りに活きてきています。
右利きの選手にとっては、左利きの選手に真っすぐにスッとこられるこの取りは脅威です。
五つ目のポイントは、無駄な「モメ」の減少です。「モメ」は、集中力を削ぎ、暗記の精度を落とします。
相手を納得させる説明力の説得性はもっと磨くべきだとは思いますが、「モメ」の収束のさせ方、引き際、この点は進歩したものと思います。
目先の一枚ではなく、試合の流れの中でのより効果的な三枚を目指すには、この引き際は大事なポイントです。
K.H君、上記の私の分析はいかがでしょうか。
自分なりにも分析して、伸ばすべき長所は伸ばし、修正すべき短所は改善してください。
私との連敗を止めるべく、精進してください。
また、練習場でお会いしましょう。
草々
追伸 港区の伝統文化交流館での現役の練習会に参加した報告をありがとうございました。
練習場は「とてもきれいで新しい古民家」とので、雰囲気はわかりますが若干の矛盾を含む斬新な表現で面白かったです。
さて、イージーミスや肝心な局面でのお手つきで流れをわるくしてしまい、中盤の大事なところで対処できずに相手に離されてしまったということで残念です。
上記で評価した最近の良さが発揮できなかったということですね。
タイトなタイムスケジュールで、おそらく読みのインターバルも短く、婦人室の練習の時とは勝手が違った部分もあるかと思います。
読みと読みのインターバルが短いと暗記や集中もせわしない中で行わないといけません。時間を気にすると集中に支障がでますし、
集中に影響がでるとインターバルの短さのゆえ、送り送られで移動した札のチェックが甘く、元の場所を払ってしまうお手つきをしがちです。
おそらくそういう部分もあったかと思いますが、相手も同じ条件なのですから、
日頃からどんな環境でもベストとは言わないまでもベストに近いパフォーマンスを心がけましょう。
今回いただいた報告でも、自分なりに敗因を分析しているので、解決策も充分認識しているものと思います。今後の練習の課題として、工夫していきましょう。
さて、第一試合は、C級の選手に18枚差の負け、第二試合は、D級の選手に11枚差の負けという結果について考えてみましょう。
第一試合、C級とはいえ4年生で私が先月対戦した印象では、充分B級に昇級できる実力のある選手だと思います。
そういう意味では、悔しいとは思いますが、敗戦自体は客観的かつ冷静に受け止めなければならないでしょう。
問題は、枚数差です。競技かるたの世界では、「1枚差でも25枚差でも負けは負け」という考え方があります。
しかし、今回の敗戦を次につなげるという考え方は大事です。
同じ相手との次の対戦で、前の負けよりも枚差を縮めるよう努力するというのも、次につなげる大事な考え方です。
試合途中で劣勢になって、敗勢濃い中でも、とにかく枚数を減らしていくという努力は大事です。
いわゆる「粘り」ですね。そうして粘っていく中に、逆転の糸口が見つかることもあります。
第二試合はD級の選手ですから、同じ級です。試金石としての対戦です。
一般的に現役学生の方が豊富な練習量と年齢的な若さ(=肉体的若さ)ということで、
卒業して何年も立つベテラン選手である我々(私の場合はベテランというよりロートルかな?)よりもアドバンテッジを持っていることは間違いないでしょう。
まあ、ベテラン選手のアドバンテッジは「経験」ということになるのでしょうが、アドバンテッジの比較で練習量と若さに軍配があがりそうです。
中盤連取され、そこを追撃しようとしてお手つきして、流れが相手にいってしまったということのようですが、
それでも11枚差という枚差をもう少し、いや、もっと減らせなかったのかと考えてみてください。
あっさりタバ負けしてくれたという印象を持つ相手と、粘られて終盤連取され追い上げられてやっと振り切ることができたという印象を持つ相手と、
次に対戦するとき、勝者の側はどう思うでしょうか?
前者の場合は、今度も楽勝と油断してくれるのでしょうか?
油断はせずに、前回と同様に取ればいいんだと気持ちで臨んできそうな気がします。
後者の場合は、終盤に粘られない展開にしてはいけないと考えるのではないでしょうか?
そういう思いは、前回の勝者の側に序盤からのプレッシャーを与えることになります。
次の試合で、先行逃げ切りを目指したはずなのに、うまくいかないぞと思わせたら、心理的には成功です。
粘ったことで、次につなげることのできる一例です。
勝つにこしたことはないのですが、負けるにしても次への勝利につなげるという考え方をしてください。
参考までに、今年の10月末現在の私の負け試合の平均は8.2枚(対A級は9.3枚)、勝ち試合の平均は9.9枚(対A級は4.9枚)です。
負けるにしても、最低で一桁枚差、できれば5枚差以内をひとつの目安にしてはいかがでしょうか?
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