LETTER02

後輩への手紙(II)

Hitoshi Takano June/1999

“乙”くんへの手紙(II)

前略 夏合宿の案内をわざわざ郵送してくれてありがとう。せっかくですが、行けそうにないので残念です。合宿係ということで、いろいろと大変でしょうが、あまり気をつかいすぎて、自分の練習にはならなかったなどということのないように、なんのための合宿なのかということをきちんと認識しながら、役目を全うしてください。

さて、この前の練習で君がはなしていたことについて、多少コメントしたいと思います。

「某大学のある2年生から『乙くんのかるたは、何をどう取ろうという組み立てもなく、狙っている札だけはやくて初心者みたい。』なんていわれちゃいましたよ。ハハハッ…。」

これは、前回の手紙に私が書いたことに通じるかもしれません。
私は、前回次の点を指摘したと思います。

☆総じて中途半端の感を否めない。攻めようとして いるのか、守ろうとしているのか、どの札を取ろうとしているのか、ポリシーが 見えない。
☆集中力が持続しない。

しかし、この前、練習に行った時、君のかるたを見て、あきらかな変化を感じました。この変化とは「進歩」です。

まず、束負けが減りました。大差のつきそうな負け試合でも、せめて一桁の枚差にしようと努力している様子が見られます。これはいわゆる「粘り」ですが、何よりも目標を設定することで前に切れがちだと指摘した「集中力」の訓練に役立っています。今でも、お手つきが出てしまいますが、以前よりはるかに減りましたし、特に敵陣に送った札の自陣に置いてあった場所を払う等のいわゆるつまらないお手つきの減少には「努力」と「進歩」のあとを感じます。

つぎに、狙っている札というか好きな札を敵陣に攻めて取るということがキチンとできている点もよいと思います。これは、攻めるための基礎能力が身についているということの証明です。敵陣の札の大部分が好きな札と仮定すれば、君は立派な「攻めカルタ」と言われてもよいくらいです。

前に見えないと言っていた、乙くんのポリシーも、今ではわかります。攻める札というか特にはやい札は、好きな札という乙くんの価値判断がベースになっていて、それに忠実に意思決定している。その札が敵陣にあれば、その札については攻めカルタになっているし、その札が自陣にあればその札に関しては守りカルタになっているということです。そして、前半、相手に差をつけられ始めるまでは、わかれの札は形だけかもしれませんが、攻める素振りはみえます。そして、差がつき始めると敵陣にある好きな札を除いて守りに移行します。それが、初心者のようだと言われたら、それはそれで良いではないですか。気にすることはありません。聞き流していればよいのです。

誰でも最初は初心者です。そして、その初心者の時のその人の嗜好というか傾向というのが、その人ののちのカルタの傾向を形成していくのです。最初から、守りが好きなまま、「好きこそものの上手なり」で、守りがはやくなり、守りを重視する組み立てになる人もいれば、最初は、守りが好きであったけれども、その守りを攻めて取られるうちに、攻めを重視する組み立てに変わっていく人もいます。結果は、守りカルタと攻めカルタとわかれていますが、この人たちのカルタを形成したのは、双方に初心者の時に守りが好きだったという事実です。これは、最初から攻めが好きな人にも同様のことが言えます。結局は、その自分の好きなスタイルを競技生活の中で、自分自身がどのように認識し、どのように意思決定していったかの問題なのです。

あれだけ、敵陣の札をはやく取れるようになった乙くんに、敵陣を取る基礎的能力をみにつけさせるために「敵陣を攻めろ」ということを私は言えません。その敵陣を攻める能力と自陣を守る能力を、どう自分で判断し、競技の中で活かしていくかを決めるのは、乙くん自身の問題です。自分の選んだ道を突き進んでください。

そして、最後に一つ申し添えます。好きな札は自陣にあっても、敵陣にあってもはやいというのは、別に悪いことではありません。攻めカルタとか守りカルタとか、相手が勝手に判断する中で、こうした相手の判断の意表を突く札が何枚かあるということは、相手の計算を崩す上での有効な手段です。それが、初心者のようだと言われたら、それはそれでいいじゃないですか。そういう点でいえば、好きな札を敵陣に狙い、自陣に守る私など、かるたを始めて21年たっても未だに初心者です。

でも、こうした好きな札を取ることができた単純な喜びが、今でも競技を続けさせている原動力のひとつにもなっているのです。

これから、乙くんのかるたが、どう変わっていくのか楽しみにしています。
では、また、練習でお手合わせ願います。 草々

追伸 週に8試合くらいづつ練習しているということですね。羨ましい限りです。続けていってください。きっと、ある日突然強くなっている自分に気づくことでしょう。ただし、試合の日に疲れがピークになることがないようにだけは気をつけてください。


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