"競技かるた"に関する私的「かるた」論

番外編

一人練習論

〜目的は明確に〜

Hitoshi Takano DEC/2019

0.発端
 本稿を書くきっかけは,私を師匠と呼ぶ後輩からの次のツイートであった。

 「一人取りってどうやって練習するものなのでしょうか? 後輩に勧められたので。」

 本件,まずは,「一人取り」の定義から始めないといけない案件である。

1.「一人取り」とは?
 本稿のタイトルは「一人練習論」である。
 「一人取り」と「一人練習」は異なるものなのだろうか?
 取りあえず,ここの定義から始めないといけないだろう。
 同義のケースもあることは承知で,あえて定義づけを行う。

(1)「一人取り」
 私は,狭義に定義する。
 生の読みでも,音声データの読みでもよいが,対技者がいない状況で,読みを伴って競技かるたのルールに準じて行う練習。
 生の読みの場合は,読み手がいるので決して一人の練習ではないが,「一人取り」とする。 したがって,練習場の人数が奇数で,「ありあけ」などの音声データによる読み上げで普通に練習している脇で,一人で札を並べて練習している場合も「一人取り」と定義する。

(2)「一人練習」
 私は,広義に定義する。
 上記で定義した「一人取り」を含め,一人で行う読みを伴わない「払い練習」やいわゆる「札流し」などの基礎的なトレーニングをも含めた練習。 ただし,原則として「札」を使用することを前提としているので、ランニングや筋トレなどのフィジカルトレーニングを一人で行っても,これは「一人練習」とは定義しない。 (いわゆる「シャドーかるた」・「シャドー払い手」と呼ばれる一人での練習は、札を置かずとも「一人練習」の範疇にいれる。)

2.「一人取り」のパターン
= A =  100枚読み
 読みは通常通り100枚(99枚)読むことを前提とした練習。
(1)正統派練習
 自陣25枚・敵陣25枚を配置し,暗記時間を15分設け,競技かるたのルールで行う。自分のお手つきは相手から1枚札を持ってくる。 あたりまえだが,相手はお手つきしないので,これは想定しない。札の送り,送られは,自身の取りの具合を自己判断して自分でやりとりする。 敵陣への攻めを中心に練習したければ,取りは基本的に自分に有利に判定し,自陣の守りを中心に練習したければ,取りを自分に不利に判定する。
 参考までに練習相手がなく一人練習をするしかないインドの選手の練習風景を紹介したページにリンクをはる。

     (その1)→ CLICK !
     (その2)→ CLICK !

【練習の狙いと特徴】
 対戦相手がいないとか,長きにわたって対人対戦形式の練習ができないという場合,一試合を普通に取る形式を身に着けたいとか, 一試合を普通に取る感触を思い出したいという目的に有効。普通の対戦に近いということが特徴。

(2)札増量形練習
 自陣や敵陣の数を26枚以上に設定する。自陣35枚・敵陣35枚のように同じように増量してもいいし,練習の狙いによって, 自陣35枚・敵陣25枚にしてみてもよいし,自陣25枚・敵陣40枚でもよい。もっとも極端なケースは,競技線をはみ出してしまうが, カラ札無しで,自陣・敵陣ともに50枚並べるというパターンがある。こういう極端なケースの場合,適切な枚数に減るまで,札の移動はしないほうがよい。
【練習の狙いと特徴】
 できるだけ札を取る感触,札へ感じる感覚を確認したいという目的に有効。枚数の調整により,敵陣への攻めの強化を図るか,自陣の守りを鍛えるか, 目的別にすることが可能。特徴としては,カラ札の確率が低くなるという点があげられる。別の言い方をすれば,札の出が良いという点が特徴。 枚数の増量が多ければ多いほど違和感を感じることになる。

(3)初形枚数傾斜配分型練習
 (1)と(2)の中間型。初形配置の枚数は50枚とするが,自陣・敵陣の初形を25枚ずつにせず,敵陣30枚・自陣20枚とか,敵陣20枚・自陣30枚とか, 目的に応じて彼我の配置枚数を変える。
【練習の狙いと特徴】
 (2)よりも実戦に近い形で,枚数の調整により,敵陣への攻めの強化を図るか,自陣の守りを鍛えるか,目的別にすることが可能。 カラ札の確率が実戦と同じなので違和感が少ない。

= B =  枚数限定読み
 「枚数限定読み」と書いているが,枚数というよりは使用する札を限定した練習である。理屈から言えば, 100枚未満1枚以上の設定が可能だが,使用する札を限定して50枚以下から10枚以上くらいで設定するのがよいだろう。
 一人取りでも,読手がいてくれれば,様々な設定が可能だが,私の推奨は,読みのアプリをダウンロードすれば,一人でも練習可能な「決まり字五色」である。
 「決まり字五色」は大石天狗堂の商品であるが,この分類に沿って,自分で通常の公定札を分けて,アプリの読みで練習すればよい。
 「五色」の色分けについては,以前紹介したので,そちらを参照されたい。 → CLICK !
 練習のサンプル動画への入り口を紹介しておく。 → CLICK !
 この「枚数限定読み」についても,上記の(1)(2)(3)の練習バリエーションがある。(1)は,読みに使用する枚数の半数をカラ札にすると読み替えていただければよいだろう。
 「決まり字五色」の場合,一色につき20枚なので,手軽に練習できるし,一音目の音を選べるので,音別に自分の課題の対策練習ができる。
 読みのアプリの存在と,音別の20首分けといい,一人練習向けの素材である。

3.「一人取り」練習のメリット
 最大のメリットは,「対技者がいない」ということである。
 相手の取りや手や体の動きに影響を受けることがなく,常に自分の「感じ」で札に感じ,相手に影響を受けずに自分の払いのスピード,自分の払いのコースで手を出すことができる。
 自分自身の本来的取りを確認する意味では,非常に有効である。払ったあとの札の飛び方を確認するだけで,自分の手の出し方やコースが検証できる。
 相手がいないので,気兼ねすることなく新しい技や工夫,自身の課題への対策などを試すことができる。
 「相対感」ではなく「絶対感」の感覚の確認ができることも大事だと思う。 「相手より早く札を取る」のではなく「早く札を取るための絶対的スピード」を感覚的に意識できるのは大きなメリットである。

4.「一人取り」練習のデメリット
 最大のデメリットは,実はメリットと一緒で「対技者がいない」ということである。
 競技かるたは,相手があっての競技であり,その相手にもみな特徴があり,そういうところを見極めながら,作戦を立て,相対的に早く札を取るなどして,相対的に早く自陣の札をなくすわけである。
 これを考えると,一人取り練習では相対的にという概念を実感しつつの練習はできないのである。
 具体的に事例をあげれば,「囲い手破り」の練習はできない。 また,友札が左右に分かれている場合,相手の動きをみて逆から行こうというような判断の練習もできない。
 こうした「相対感」の欠如ということが,デメリットなのである。

5.練習の目的を明確に!
 上記のメリットとデメリットを充分理解し,メリットを生かすような形で自分の練習の目的を明確にして「一人取り」練習を行わないと,せっかくの練習時間がもったいない。
 自分のニーズに合わせて練習目的を策定し,2のA・Bの(1)〜(3)のどのパターンが良いのかを見極めて練習を考えてほしい。
 インドの選手は,対戦相手がいないから“2A(1)”パターンの練習を繰り返す。いづれ日本に行って対人の取りをするために。 しかし,彼の「一人取り」練習には限界がある。それはデメリットで示した相対感の欠如なのである。 もし,頼める友人がいて協力してくれるのであれば,練習の時に前に座ってもらい,手を出すタイミングを教えて,一音目でとにかく手を出してもらえというアドバイスをした。 それだけで,今までの自分の取りができなくなるから,それを体験してみるべきだと伝えた。
 YouTubeなどで試合の動画などを見ていて感じるところがあるとは思うが,こればかりは体験が大事である。 来日して初めての対人対戦の際に面食らわないようにしっかりと伝えているつもりである。

 H君は,かのインドの選手とは違い,いつでも対人練習ができるという恵まれた環境にある。後輩に勧められた「一人取り」をするのであれば,しっかりと目的を定めて練習してほしい。
 私からの余計なアドバイスであるが,H君が「一人取り」練習をするのであれば,まずは2A(1)をやってみるとよいと思う。 初めての人には,オーソドックスなスタイルをお勧めする。
 ポイントは,払ったあとの札の散り具合を確認し,自分の手がどういうコースで出札に向かっているかを確認することが一つ。 相手の影響を受けずにどの程度お手つきをするかを確認することが,もう一つ。聞き違いなのか,暗記のミスなのか,しっかりとその原因を意識してほしい。 まずは,札の送りは無しで練習して,札の異動による暗記ミスがでないようにして練習すればよいと思う。
 もし,インドの選手のように「一人取り」練習を撮影できるのであれば,撮影して振り返りをするのがよいだろう。
 自分のテーマが見えてきたら,それに応じてバリエーションスタイルに変えていけばよい。

 以上,「一人取り」について考察してみた。
 最後に「一人取り」をするのであれば,目的を明確にして,それにあったスタイルで練習をするべきであるということでまとめとさせていただく。

Auther

高野 仁


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