TOPIC   "番外編"

"Breakthrough"考(3)  -勝てる相手との練習-

Hitoshi Takano   Mar/2015

テーマ:勝つことに慣れる

 今回の対象は、どちらかというと初心者から競技かるたを始めて、大会に出始めたけれども、なかなか勝てないとか昇級戦で勝てないとかという感じの選手である。もちろん、上の級にあがって壁にぶつかっている選手にも有効な部分はあるかもしれないが、B級やA級にあがった選手の壁は異なるものと思っているので、C級くらいまでの効果と考えていただければ幸いである。しかし、藁にもすがりたい思いの人であれば、B級・A級の選手にも何かのきっかけになるかもしれない。

 テーマにしるしたことが全てである。
 「勝つことに慣れる」。
 何を当たり前のことをと思われるかもしれない。勝つことに慣れるというのは、勝っているからであって、勝つということは強いからで、強ければ勝つから、大会でも勝てるから、こんな当たり前のことがなんで「Breakthrough」になるんだ?と考えられるのが筋だろう。

 しかし、違うのである。弱くて勝てない選手に、意図的に勝つことに慣れてもらうのである。

 だいたい、初心者で入門すると、周りは強い選手ばかりである。勝てなくてあたりまえである。学校の部活動やサークルだと、一緒に始めた同期の初心者仲間がいるから、そういう同期の初心者との切磋琢磨、競争関係というのがあり、その中では勝てるかもしれない。
 しかし、同期の中でもすぐ強くなる人、はやく結果をだす人がいる。しかし、そういう人がいる反面、なんとなく、おいてけぼりにされる選手がいる。こうしたおいてけぼり選手は、練習にいってもなかなか勝つことができずにいるのである。
 勝てない選手というのは、勝とうと思って試合に向かっても、負けてしまう。言葉は悪いが、負けることに慣れてしまってしまっているのである。これは、本人が意識するしないにかかわらず、身体が負けることに馴染んでしまっているのである。
 これを打ち破る"Breakthrough"は何かというと勝つことなのである。勝てば、負けることへの慣れが薄れていく。まして、大会で昇級する為には連勝が不可欠である。連勝にも慣れておかなければならない。
 「何を言っているんだ!その勝つことができないから、悩んでいるんじゃないか。」
 こういうご批判はもっともである。
 だからこそ、「意図的に」というのが必要なのである。

「勝ちが見込める自分より弱い選手と練習せよ!」

 これが、"Breakthrough"につながる策である。勝ちを見込めると思われてしまう相手の方には申し訳ないが、これは順繰りに繰り返されることと思ってもらうしかない。(参考:続・後輩への手紙IX

 一般的には、自分の実力を伸ばすためには、自分よりやや強い選手との練習がよいと言われる。ふだんは、これでいいと思うが、この大会で頑張りたい、勝ちたい、上にあがりたいと思うターゲットの大会があるのであれば、その大会にあわせて、練習予定を組んで、大会の前には、しばらくの間勝てる相手と練習し、勝つことに慣れておくことが必要だ。
 自分は勝てるんだ、自分は連勝できるんだと自分の心と身体に刻み込ませておくのだ。これが、"Breakthrough"につながるのである。

 闘犬の世界では、「かませ犬」というのがいる。これから強くしたい闘犬に自信をつけさせるため、もしくは「自分は強いんだ」と錯覚させるため(これが自信につながるわけだが)、その闘犬より確実に弱い闘犬を稽古相手にあてがうのである。この弱いと思われている犬を「かませ犬」と言うのである。
 以前は、プロレス界で、「俺はFのかませ犬じゃない!」と吠えて、メインイベンターへの階段を昇っていったCというレスラーがいたことを聞いたことがあるかもしれない。
 「かませ犬」というのは、大変失礼な言い方ではあるが、初心者・初級者のうちは、誰かの「かませ犬」役をやることは、仕方のないことかもしれない。いずれは、その時の試合を自分の経験として、学んで強くなっていくことのステップでもあるからだ。そして、「かませ犬」役だった選手も、いずれは「かませ犬」役の選手に勝利を積んで強くなっていくと思えば、結局は自分の益にもどってくる練習なのである。

 しかし、本当に強くなる選手、すぐに強くなる選手は、その強さのゆえに「かませ犬」体験などしないと思う。じゃあ、「かませ犬」経験をした選手は強くなれないのかというと、それは違う。上記のプロレスの事例が示すとおり、それをきっかけに強くなることはおおいに可能なのである。

 ただ、悲しいことに、実際の闘犬の「かませ犬」には、引退した老犬が利用されることがあるということだ。年齢を重ねてきた自分を思うと、対戦結果は様々な事を物語りはするが、心の中には「俺は若手のかませ犬じゃない!」という思いがふつふつとわいてくるのである。
 まあ、これは、"Breakthrough"とは、直接関係のある話ではなかった。

 「勝つことはえらいことだ」といった棋士がいる。「勝つこととは自分を磨く最大の手段だ」と語った教育者がいる。「白星は最大の良薬だ」というスポーツがある。
 「勝つことに慣れることは大事なことだ。」
 そのためには、時には勝てる相手との練習を組むことも必要である。そして、その相手に対しての敬意は決して忘れてはならないのである。

"Breakthrough"考の”INDEX”

次のTopicへ        前のTopicへ

ピックへ
トピック-“番外編”-へ
ページターミナルへ
慶應かるた会のトップページへ
HITOSHI TAKANOのTOP PAGEへ

Mail宛先