続シン・後輩への手紙(III)

Hitoshi Takano   May/2024

否定と肯定



前略 利き手の手首の捻挫は、災難でしたね。せっかくかるたの調子が上向いてきた時に、ドクターストップは残念です。「好事魔多し」とは、よく言ったものです。
 そんな中でも、読み手として練習に参加したり、合宿の雑用係をやったりと、練習会に貢献しているようで何よりです。こうした貢献が、いずれ役立つことになると思います。 復帰後の活躍が目に浮かびます。
 かるたを取りたいのに、練習できずにいる期間は、実戦とは別にいろいろと競技かるたについて考えを深める期間にもなります。
 いままで、取っていて、練習していて、「何故なんだろう?」と思うことについて、思索してみてください。
 そこで、一点、考えてみてほしいことがあります。
 今回の合宿にも小学生がたくさん参加していましたが、何故、小学生に怖がられてしまうのか。 特にH君と同じサウスポーの小学生との対戦では、相手に試合後にへこまれてしまうのかということです。
 火曜日にお世話になることの多いかるた会では、同様にサウスポーのAさんは、その小学生サウスポーに試合後にへこまれてしまっています。 ところが、Mさんはサウスポーの小学生に対しても、そうでない小学生に対してもそうではありません。 私の場合は、A級5段の肩書に小学生がビビることはあっても、試合後にへこまれることは今のところありません。 小学生にとっては、みんな「おじさん」世代なわけですが(私の場合は下手すると「おじいさん」世代?)、 何故このサウスポーのH君・Aさん(以下、左組)と右利きのMさんと私(以下、右組)と差がでるのでしょうか?
 右利き・左利きの問題だけではないとは思いますが、少し考えてみたいと思います。お付き合いください。

 以前、私は、バランス論というのを書きました。振り返りの意味で、リンクをクリックして読んでみてください。
 ここでは、相手を「封じる」かるた、自分を「活かす」かるたというような表現をしましたが、 「封じる」かるたを「否定型」、活かすかるたを「肯定型」と便宜的に区分しましょう。
 まずは、対小学生に対しての一般論でいえば、右組の二人はは「肯定型」で、相手の言い分も聞き、自分の言い分も聞いてもらうタイプです。 特に、Mさんは自分でも「地蔵になる」と自嘲するように、試合の途中で固まってしまい、相手のペースで取られる時間帯があります。
 かくいう私も、学生時代は「達磨」と言われ、手も足もでない状態になることがありました。当然、そういう状態の時は、相手にいいように取られるのです。
 地蔵であったり、達磨であったりする間は、自分を活かしていないので、その間は自己肯定型にはなっていませんが、相手を活かしているので、対技者肯定型になっています。
 そして、地蔵だったり達磨であったりする以外では、それなりに自分を活かす場面もあるので、自己肯定型の時間帯もあるわけです。
 小学生でも、自分の得意札ならば敵陣でも取ることができるし、自陣の守りで札を減らすことができている感覚があります。
 対戦相手の小学生たちは、「封じ」られているイメージよりも、自分の良さが活かされている感じをもつことができるのです。
 次に、左組を一般論で語れば、経験の浅い小学生たちはサウスポーとの対戦に慣れずに、違和感をもったまま、自分の良さを活かせないまま、 良さを不完全燃焼で「封じ」られてしまっているようなのです。
 左組は、右組の肯定型に対しての対技者否定型です。しかも、自分を活かすことはできているので、自己は肯定型であるのです。
 先に紹介したバランス論では、もっとも理想とするパターンになっています。 このパターンに経験の浅い小学生がはまり込んだら、右組の両者肯定型と比較して、受けるショックは大きいものと思われます。 いくら、主張は優しく言っても、感想戦での振り返りで相手の良いところを褒めたとしても、試合そのものから受ける印象を覆すものではありません。
 たとえていえば、右組は相手の技を受けて自分の技も相手に受けてもらう攻防をともなうプロレス型、左組は双方が相手の技を封じて戦う総合格闘技型なのです。 総合格闘技型のほうが、実力の差が明確に出て一方的になってしまうことはおわかりいただけるかと思います。負ける方に見せ場が生じないのです。
 このことをふまえ、当該、サウスポー小学生の個別ケースで考えてみましょう。
 同じかるた会の小学生の中でも、地力は頭一つ抜きんでています。他のサウスポーの小学生に対しては、左組の立場でのかるたが取れます。 すなわち、自己肯定型で対技者否定型のかるたです。
 ところが、左組おじさん達と取ると、対(自分より強い)サウスポー対策もわからないまま、相手のペースの中で試合がすすみ、 結果、枚差の多寡に関わらず自己否定感が残る展開になってしまうのです。  それが、試合後にへこむ原因となっているのではないでしょうか。
 特にAさんは、左利きでも敵陣右よりも敵陣左への攻めを得意としています。 フォアの払いは迫力もあります。それが、H君よりもAさんのほうが相手をへこませてしまう回数が多い理由かと思います。
 それが、試合後にへこむ原因となっているのではないでしょうか。
 一方、右組おじさん達はどうでしょうか。
 地蔵や達磨にならないまでも、オーソドックスな左利き定位置の相手に対して、相手の守りの強いところを無理に攻めるのは避けて、 相対的にはやく札を減らす戦略で、敵陣の隙をつき、遅い札を拾うという地道なかるたで戦っています。
 左利きの速い左下段を無理に攻めに行くと、敵陣の右に出遅れてしまうことや、自陣への攻撃の隙をつくってしまうことを経験則で理解しているからです。
 したがって、相手に自己否定感は強く残ることはありません。自分の個性を活かす場面が多々あるからです。 試合に負けたとしても、自己肯定感が残っているのです。それで、試合後に左組とちがって右組相手にはへこむことがないのです。
 成長と共に、いずれは、感情のコントロールもできるようになるでしょうし、サウスポーとしての対左対策を自分なりに身につけることになるでしょうが、 現状では、まだまだなので、上記の分析を理解して、練習や指導に活かしてもらえればよいと思います。
 では、左手首の捻挫をはやくなおしてください。私も、ドクターストップの原因となった傷の回復につとめます。
 また、お互いが元気な状態で、練習場でお会いしましょう。
草々


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