続シン・後輩への手紙(IV)
Hitoshi Takano Jul/2024
省エネ
前略 今年度にはいって、私の方は手術によるドクターストップが二度に渡り、ご心配をかけております。
練習もそのことでお相手をできず、心苦しく思っています。申し訳ありません。
先月の杉並大会のD級は、初戦でH君が苦手と感じている響きのはやいJKに3枚差の負けだったのですね。
終盤のせり合い、9−9、6−6、4−4から力尽きて3枚差ということですが、よく頑張ったと思います。
もう苦手と感じるのはやめましょう。今回の対戦で、苦手は克服されたんです。
今回の大会出場の大きな成果です。きっと次につながります。
おそらく、今後の課題は、大会で1回戦、2回戦と勝ち上がっていったあとの昇級戦での息切れをどう克服するかということになるのではないでしょうか?
さて、私の方は、その週の木曜から二泊三日の入院となり、金曜日に背中の再手術を受けました。
これで、背中に関しては、今後の憂いが払しょくされたものと思っています。
とはいえ、3〜4週間の競技かるたのドクターストップを再び受けなければならないことは、かなり気落ちしております。
読手などで、皆さんの練習をサポートさせていただくことで、回復後への気持ちを整えていこうと思います。
私は以前から自身のかるたスタイルについて、「省エネ」ということを考えて実践も心がけていましたが、
今回、2度のドクターストップとそこからの回復過程において、気持ちを整えることの一環として、ますます、
この「省エネ」というスタイルを考えるようになりました。
切開し縫合した傷の回復のために身体的負担をかけないというのが一つのテーマとなったからです。
身体的負担への対応の「省エネ」というわけですが、「省エネ」には精神的負担への省エネという面もあります。
精神的というよりもむしろ脳への負担軽減といったほうが適切かもしれません。
それぞれについて、説明しましょう。
まずは、身体的省エネです。
若い人は、それなりに体力もありますが、年齢を重ねれば重ねるほど続けて何試合も取れば、取れば取るほど疲労の蓄積により、パフォーマンスは落ちてきます。
したがって、疲労を減らすために、身体の動きは効率的に最小限にすることを考えます。無駄な動きをしないということです。
何が無駄かというのは、実は深すぎる議論なのですが、深い部分は置いておいて、わかりやすく簡素化してお話します。
暗記時間残り2分前の素振りは、最小限にします。私の場合、基本的に相手陣左下段に2回、右下段に1回です。これも全力ではありません。
距離を測って、構える際の自分の膝の位置を確認しているだけです。畳を叩くようなこともしません。
一方、H君は、畳を叩くことが目的のごとく素振りをすることがあります。距離を測り、構えの確認をするだけなら、不要な動きをしています。
特に敵陣の左右下段を試合の中で抜くときの手の動きは、素振りの時の畳を叩くような素振りと全く手の動き、手の使い方と異なります。
実戦で使わない手の動きを素振りでするのはナンセンスです。素振りを変える、素振りを減らすだけで「省エネ」になります。
塵も積もれば山となるではありませんが、素振りのエネルギーも積もれば、昇級戦の際の疲労につながることもありえます。
少し、考えて工夫をしてみてください。
試合中のインターバルの素振りも、最小限にしましょう。しなくても、おそらく何も問題ありません。
これも「省エネ」につながります。
試合中、読まれた札の初音がない場合に、手を出したり、払いの動きをするようなこともやめましょう。
相手のお手つきを誘うとかいう意図があれば否定はしません。
しかし、あきらかに「ない」場合でも、パフォーマンス的に払いの動きをするケースを見かけることがありますが、「省エネ」的には不要です。
友札を攻めて、あきらかに自陣を抜かれてしまったということが認識できれば、もう戻りの動きはしません。
相手の払い残しが見えれば、もちろん戻りの動きはしますが、そうでなければ、身体の動きは一歩通行のままが「省エネ」につながります。
一音目で手を出すかるたのスタイルの人は、なかなか「省エネ」とは言い難いですが、
私のように「響き」が遅く、決まりが聞こえてしまってから出札に直に向かうスタイルは、意図せず「省エネ」になります。
お題目のように「省エネ」と言っていますが、1試合の中で勝敗の肝となる場面では「省エネ」などとは言っていられません。
必要なところで使うエネルギーを使うための「省エネ」です。肝の場面では、蓄積したエネルギーを使います。
そして、試合の流れでは、「先行逃げ切り」こそが「省エネ」の流れだと思います。
先行されて「追い上げ」て、終盤の接戦のねじり合いを制するような流れは「省エネ」の逆を行くスタイルとなってしまいます。
次に、精神的省エネです。先ほどもいいましたが「脳への負担軽減」の意味合いです。
「お手つき」をしないということは、「精神的省エネ」と言ってよいでしょう。
「お手つき」は、精神的なダメージを少なからず与えます。
そして、勝利への道のりが遠くなる、取らなければならない札が増えるという意味で身体的な省エネにも反します。
暗記はきっちりとするべきもので「省エネ」には馴染まないものかもしれませんが、「効率化」をはかることができれば「省エネ」につながると思います。
「初音がない札を覚えない」というようなことが考えられます。
3枚札以下などにはよくあるケースです。
たとえば、「い」の札が3枚とも場にないとか「ゆ」の札が2枚とも場にないという場合、最初の暗記で認識したら、「ない」ということだけ認識して、
それ以上の暗記にからませないという意味合いです。
札分けが行われ、裏札が使用されていたら、前の札の暗記があるので、暗記は相当「省エネ」できます。
裏札ということに気づかないで、一から50枚覚えるのと裏札と認識して場の50枚を覚えるのとでは、使用するエネルギーが違います。
そして、自陣は極力「定位置」重視が「省エネ」につながります。自陣の札の移動は、必要最小限にしましょう。
自陣の札の移動も、結構、暗記のエネルギーを使用するからです。
H君は、札の出によって、自陣の中で札を移動するスタイルにしてしまったので、この負担が「脳の疲労」として、昇級戦までに蓄積されてしまいそうな気がしています。
どこかの段階で、見直すことも必要かと思います。
私も以前は、一字に決まった札を下段に移動するというようなことをしていた時期がありますが、わりとはやくやめました。
人それぞれでしょうが、私は元の定位置のほうに感じてしまうようだったので、
一字に決まって移動したという暗記の労力と元の定位置で一字に決まったという暗記の労力を天秤にかけて、後者を選択しました。
私の省エネの理想は、「先行逃げ切り」、「お手つきしない」、「自陣の札の移動をしない」で10枚差くらいで勝つことです。
ただ、それは、10枚差以上で勝てるくらいの実力差がないと実現しないことで、現在の私の力ではなかなかに無理な話になっています。
H君の次の課題の、大会で連勝して昇級戦で勝つための体力を残すための一つの方法としての「省エネ論」を紹介しました。
もちろん、「省エネ」などでなく、身体的な持続力のための体力づくり、何試合取っても対応可能な精神的なタフさの強化と脳トレという王道を目指すのであれば、
それはそれでよいと思いますし、オーソドックスな考え方だと思います。
しかし、アラサーのH君には、正統派の対応をする環境がないと言わざるをえません。ですから、「省エネ」という選択肢も考慮にいれてほしいと思っています。
練習はドクターストップでも、練習場ではお会いできるので、質問があれば、遠慮なくおたずねください。
また、お互いが元気な状態で、対戦できるのを楽しみにしています。
草々
次の手紙へ
前の手紙へ
手紙シリーズのINDEXへ
☆ トピックへ
★ 私的かるた論へ
☆ 慶應かるた会のトップページへ
★ HITOSHI TAKANOのTOP PAGEへ