インドへの手紙(IV)
Hitoshi Takano Aug/2015
異文化交流の難しさ
前 略 S君、最近はメールのレスポンスが遅くなりましたね。わざわざ、レスポンスの間が空くことがあっても、必ず返事するからと知らせてくれてありがとう。私のほうも状況は一緒です。
さて、大石天狗堂の標準取札の反りについて、質問したら、動画サイトで見て気付いていたというのは素晴らしいことです。洞察力というか観察眼というか、脱帽です。Silky touch と評価してくれたいるようで、日本の職人さんの技術を理解してくれているのも嬉しいかぎりです。また、大切にしてくれているようでありがたいのですが、使うために送っているので、消耗品としてちゃんと練習に使ってください。二組送ったのですから、一人練習にしか使わないのであれば、一組は保管用でもいいですから、一組はしっかり使い込んでください。使い込んだほうが、日本の職人技の素晴らしさを実感できるのではないかと思います。
私が競技している動画を見て、「畳の上じゃないようだけれども何の上でプレイしているのか」という質問には正直驚きました。と、ともに、これが異文化間交流なのだとも実感しました。日本人には当たり前のことで、競技かるたを知っている外国人も知っているだろうと頭から思い込んでいることが、決してそうではないということに改めて気付いた次第です。
柔道場の柔道畳ということで、説明してわかってくれたようで、ホッとしました。しかし、畳の材料をきかれたのにも、正直驚きました。取り札を作った勢いで、畳も自分で作ろうと考えているようで、「畳は何でできているんだ?草と竹なら入手できる。」と書いてきたのは、まさにそのつもりがあるからでしょうね。検疫で引っ掛かりそうですし、天然素材の畳は、はたして海外に送れるのでしょうか?
まあ、柔道用の畳表風のマットが海外でも扱われているのは、新鮮な情報でした。はでな色が気になりますが、さすが"Ju-do"、国際化の大先輩というように感じました。
私の解説にも、鋭い突込みを入れてくれてありがとうございます。「藤原定家がいなければ、源氏物語を我々は現代読むことができなかった。」という説明には、彼が書き写して保管したことを書いたのですが、ピンと来なかったようですね。「定家は美しい詩を集めた。でも、源氏物語は紫式部が書いたのだろう。なぜ、源氏物語に藤原定家なんだ。」という質問も、解説の難しさを私に理解させてくれる質問の一つとなりました。
紫式部から、約200年の後世に、散逸しかけていた源氏物語を書き写して54帖全部集めて、保管してのちのちまで伝えてくれた彼の業績を説明したことで、わかってくれましたよね。
それにしても、かるたの要諦は10か条で「条(じょう)」ですし、畳の数え方も「畳(じょう)」ですし、源氏物語の各巻の数え方も「帖(じょう)」ですが、英語で書くと皆「jo」です。日本語の単位には、やたら「jo」が多いと思われているかもしれません。
日本は梅雨で、私は雨が嫌いだと、ほぼ、時候の挨拶的なノリでメールしたときのS君の反応は秀逸でした。
「もし、雨がなかったら、かるたの一字決まりの"むらさめの"の札はなかったんですよ!」
本当にすばらしい。歌の意味をわかって、競技かるたに向かい合っているというS君の姿勢に、ただ、ただ、感動しました。
名人戦の動画もよく見ているのですね。ここ2年の挑戦者である須藤恭平選手、春野健太郎選手の名前をあげて、「ちはやふる」の綿谷新の祖父の台詞をベースに「名人の前のプレッシャー」についての質問もなかなか手ごわい質問でした。
初めての挑戦(東西決戦が名人戦になった時はのぞく)で、挑戦者が名人に勝った事例が二例しかないことをふまえ、「着物着用」「TV放映の環境」「観衆注視」「当日の参拝などのセレモニー」などの慣れの要素は理解してもらえたでしょうか。
さらに、防衛戦の名人はコンディション調整を1回すればいいだけなのに対して、挑戦者は約3ヶ月で「予選」「東西決戦」「名人戦」と3回コンディション調整をしなければならないという点にも差がでるという点もわかってもらえたでしょうか。
他にもいろいろな要素があるかもしれませんが、数字はディフェンディングチャンピョンたる名人にアドバンテッジがあることを物語っていると思います。(参照:数字が語ること)
名人戦の時のセレモニーについて教えてほしいとのリクエストもあったけど、なんで知りたいのかを私としては知りたいところです。「参拝」に興味をもったのでしょうか?
ぜひ、日本に来て、近江神宮の名人戦を見て、自分自身で分析してみてもらいたいと思います。
では、また。
草 々
追伸 「ちはやふる」が実写映画化されることになりました。来春公開です。インドでもDVDとかで入手できるといいですね。
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