インドへの手紙(X)

Hitoshi Takano   Apr/2016

Should I start playing karuta by left hand ?



前 略 S君、今月いただいたメールのタイトルが"Should I start playing karuta by left hand ?"でしたので、 私はこのタイトルを見た瞬間、非常に唐突感を覚えました。
 まさに、"Why ?"と言う疑問詞が頭をよぎりました。
 「怪我でもしたのだろうか?」と心配をしつつ、メールを開くと、、、!
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I have seen a little bit of the tournament of the French girl, I have seen that she lost against a left handed player. Her karuta team was shown at the beginning of the video, I have seen that there was no left handed player. What I mean to say is that the girl never faced a left handed player.
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 この前紹介したテレビ番組のビデオを見たのですね。このことで、S君の観察眼と推察力の鋭さはよくわかりました。 ですが、「何故、左の練習をはじめるべきか?」という問いに結びつくのでしょうか?
 私が類推する理由は、だいたい次のようなものになります。

 (1) 右利きとした練習していない人は、左利きの取りに慣れていない。だから、左で取ったほうが有利だ。だから、自分も左利きに転向したい。
 (2) 左利き対策として、左利きがどのようなかるたを取るのか知らなければならない。それには自分が左で取ってみれば、左の長所と短所を知ることができる。それを左対策に活かしたい。
 (3) 左利きへの対応は、こちらも左で対抗するのが一番よい。右利きには右で取るとして、対左戦用に左の取りをマスターしたい。
 (4) 右で怪我をしたときのために、あらかじめ左の練習をしておきたい。

 まあ、今回のメールの趣旨からすると(4)の理由はないでしょうね。
 ところでS君は、前に、左利きに対して考え方をメールしたのを覚えていますか?。(→参照
 ここで、非常に近視眼的というか短絡的な発想の(1)は却下してほしいですね。左利きの選手といえども、A級選手もいれば、D級選手もいるのです。左利きだから強いのではなく、A級選手はその級なりの強さを保持していて、D級の選手は、その級なりの強さであるということなのです。 そして、(2)は私がすでに説明しているので、あえて自分で試してみなくてもよいように思います。しかし、どうしても自分自身の経験が必要なのだというのであれば、とめはしませんが、回り道になる可能性は高いです。そのことのコストパフォーマンスを考えて判断してください。S君には、一直線に強くなってほしいと思います。それは、異国の地で練習相手もいない環境にいるからこそ、ひとつの経験が重く、そして時間が大切ということでもあります。
 (2)については、"Please try to share your experience against a left handed player."というリクエストからもうかがい知れます。
 さて、最後は(3)についてです。S君からこのメールが来たのが3月23日の夜でした。まさに、そのとき、私はかるた会の会合で、この話題に接していたのです。 家に帰って、S君のメールを読んだとき、その偶然性に驚きました。この会合には、S君のあこがれる種村永世名人が来ていて、ちょうどS君の話題もしていました。

 種村名人は、正木永世名人から、「対左には左に取るに限る」という話を聞いたことがあるそうです。 そして、種村名人自身も左利き相手に左で取ったことがあり、その説を体験的に確信したそうです。 「左利きの人は、右利き相手にも左利き相手にも左で取る。しかし、こっちは対左利き専用に左を使う。それは対左専用の左のほうが有利になる。」 と語っていました。
 とは言うものの、実際に試合で、これを行うのはやめたそうです。その理由は「右で取るときには、様々な技術が駆使できるのだが、 左だとそうした技を駆使できない。どうしても、本来の左利きでないので、取りが粗くなってしまう。」ということでした。 当時、我々の仲間には、本来の運動機能(そして日常生活)は右利きだけれども、かるただけ「左」を使うという選手がいました。 そして、その選手のかるたは、敵陣にしても自陣にしても、右側の取り(敵陣左の上中下段と自陣右サイド上中下段の自分の身体の右側のこと)が「粗い」のです。 左側はそこそこ器用に取るのですが、右側はそうではありませんでした。右利きの選手の左手取りの限界を感じる点でもありました。これ以後、 怪我で右を使わず左一本で取っている選手にも出会いましたが、同様な感じであったことを覚えています。(もともと左利きで、左右両方同じように使えるという選手もいました。 この選手の場合は、異なりました。最初は左で取り始め、A級にあがってから右に転向しました。この選手の場合は、左の取りも右の取りも、一般的な選手の取りとは異なる。 個性溢れるプレイスタイルでした。)
 種村理論によると「感じの良さ」で取る選手であれば、対左相手のときだけ左で取るという選択をした場合、メリットがあるように話していました。もし、S君が(3)の理由で考えていたのだとすれば、二人の永世名人と同じ発想をしたことになります。対人練習の経験をもたずにこの発想にたどりついたならば、たいしたものだと思います。

 私も、左で取った経験がありますが、身体の使い方が異なり、腰を痛めてしまいました。また。鏡対称の配置は、まったく札に感じませんでした。 右の時の定位置に手が出てしまうのです。

 結論として、S君に言いたいのは、こうしたことをふまえれば、いつも「ひとり練習」で実際に対人の試合をしたことのないS君には、左で取る練習は当面必要ないということです。 まずは、自分の右手の取りのスキルを磨いてください。そして、右手での実戦でいろいろ感じたことを工夫してください。もしも、S君が左の練習をしなければならなくなるときがあるとすれば、 それは、不幸にもS君が右手を怪我してしまったときです。
 右手での対人対戦経験がないのに、左も練習を始めると、どっちつかずになってしまいます。まずは、S君の本来の運動能力である右をマスターするのが適切な練習方針だと考えます。 それでも、どうしても左手で取る練習をしたいということであれば、A級に昇格したあとであれば、私はかまわないと思います。A級にあがるまでは、右手の取りをスピード面や技術面等において 極めていってください。

 では、また。
草 々

追伸 この前、"Please can you explain stories and meanings of karuta poems one by one ? Or else you can tell any other source to find it out."というリクエストをもらいましたので、 さすがに、私の知っている話を英語で解説する力は私にはないので、以下のURLを紹介しました。

== In English ==
http://www.sacred-texts.com/shi/hvj/
https://en.wikisource.org/wiki/Hyakunin_Issh%C5%AB
https://librivox.org/one-hundred-verses-from-old-japan-by-teika-porter/

== Japanese and English written together ==
http://petals-and-moon.blogspot.jp/

 これは、役にたったでしょうか?
 できればS君が、日本語を勉強すれば、関連の本や私の日本語サイトが読めるようになり、知識・情報を得る手段が格段に広がるのですが、、、
 ぜひ、日本語の勉強をご検討ください。


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