シン・後輩への手紙(VII)
Hitoshi Takano Feb/2023
参考資料2
前略 1月の新春大会D級のKH君の結果は、twitterで読ませてもらいました。
敗戦は残念でしたが、あと1枚で一桁差だったんですね。
勝つのが一番ですが、やはり、負け方というものもありますので、少し意識してください。
負けは負けで、1枚差でも25枚差負けでも一緒だという人もいますが、一桁差負けと二桁差負けはやはり違うと思います。
1枚でも枚差を縮めようと試合の中で努力することが、逆転につながることもあれば、次の大会での試合につながることもあります。
昨年1年間の練習をとおして、KH君の地力は確かに伸びました。
以前から、かるたの実力は、階段を上るように一段、一段上がるものだと話していることは覚えていると思います。
一段あがって、停滞して、そしてまた一段あがって、、、。これの繰り返しです。
練習で、私とよい勝負をし、練習にきているベテラン勢にも勝てるようになってきました。
でも、現役学生との練習や試合では、いい結果を出せていません。
また、婦人室でやっている練習会でも、それなりの年齢でスピード感が学生時代よりも残念ながら落ちてきてしまったベテランとはこなれた試合になってきているものの、
学生時代の名残を残した感じの早い相手や払いのスピード感のある相手との対戦では結果が出ていません。
地力が上がってきているのに、何故でしょうか。
地力の階段を一段あがったのですが、もう一段あがるところまで達していないからなのですが、
次のステップにいくには、意識的なブレイクスルーが必要です。
現在のKH君の札の送りと、自陣の札の置き方を見直さなければ、次のステップに行くのは難しいと思います。
もし、いまのスタイルのままで次のステップにいくためには、感じを早くすることと払いのスピードを早くすることが必須です。
聞き分け力が少しアップしたとの自己評価ではありますが、
現在の練習量(練習環境)と年齢的なことを考えると、「感じ」や「聞き分け力」(2音目以降の「感じ」)は、若干早くできるかもしれませんが、
KH君の練習相手のベテラン勢のように加齢によりジリジリと衰えていくことは避けられません。
そうするとできることは何でしょうか?
戦略と戦術の工夫、そしてそれを実現するための技術の向上です。
戦略においては、複雑化戦略、戦術においては攻めかるた、技術においては暗記の正確さと集中力の向上、札直の精度と札際の早さといったところになります。
戦術と技術の内容は、字面をみればわかると思いますので、ここでは主に戦略としての「複雑化」戦略を説明します。
現在のKH君の送りは、音的にみた「単独札」を送ることと、別れている友札をくっつけていく送りが主流かと思います。
自陣の友札は2枚並べていることが多く、なかなか分けようとはしません。
それは、送りによって分けるということだけでなく、自陣の中でも並べて置いておくことが多いということです。
なかには、二ヶ所にわけて自陣で「渡り手」を試みることもありますが、それは、相手にリードされたときの苦肉の策のようにも感じます。
要は、自分が「お手つき」をするリスクの回避の思いが強いということです。
早く取ろうという積極的な理由というよりは、むしろ、自分がお手つきしないためという消極的な理由なのです。
お手つきしないように友札を自陣に残しておくとか、別れている友札を相手に送ってくっつけてしまうというのは、いわゆる「単純化」で「複雑化」とは逆の傾向です。
相手よりも「感じ」が早い。払いのスピードが絶対的に速い。(「早い」は相対的な「はやさ」、「速い」は絶対的な「はやさ」を表します。)
そうであれば、「単純化」は適切な戦略のひとつであると評価することも可能ですが、相手よりは「感じ」が遅い。
払いのスピードにも絶対の自信はなく、どうやら相手のほうが早いという場合、「単純化」は相手を有利にする戦略となります。
いままで、大会で負けた時の相手のことをもう一度思い出してみましょう。
だいたい自分よりも10歳以上は若くて、自分よりも「感じ」が早く、「払い」が速い相手ではなかったでしょうか?
こういう相手には「単純化」戦略よりも、「複雑化」戦略です。
友札が敵陣と自陣に別れているときは、自分でも「お手つき」が怖く、「お手つき」のリスクを考えると速く取りにいくことを躊躇しましたよね?
これは、相手も同じです。このリスクを自分も負うかわりに、相手にも負わせるのです。
そうすると、相手の「感じ」の早さも、払いのスピードの速さも、別れていないときよりも落ちることになるのです。
「感じ」と払いのスピードの差が縮まれば、自分にとっての不利な要素を減らして戦えることになるとは思いませんか?
ただし、自分が「お手つき」しては元も子もありません。
暗記と集中力、聞き分けの力を鍛えなければなりません。
友札を自陣・敵陣とわけたときに有効なのが、「攻めかるた」です。
ぜひ、友札をわけて、敵陣を攻める送りを心掛けてください。
そして、相手が友札をこちらの陣にくっつけてきた場合ですが、相手の「感じ」や「払いのスピード」を判断して、自分よりも早ければ、自陣内で
並べて置く「単純化」ではなく、二ヶ所に分けて置く「複雑化」を推奨します。
相手に一箇所を攻めればいいと思わせるよりも、二ヶ所を覚えさせて二つの連続動作をイメージしなければならないと思わせて、相手の負担を増すことができます。
当然、自分にもその負担はかかりますが、「感じ」の遅さと「払い」のスピード不足を補うためのコストと考えれば、コストパフォーマンスとしては充分だと思います。
もうひとつのメリットは、1枚は定位置に置き、もう1枚は自分で決めた臨時避難場所に置くことで、敵陣に友札の片方を送った時にわかりやすくすることです。
2枚並べて置いていた片方を送ると送ったのについ自陣を払ってしまうお手つきをしがちです。
しかし、定位置でない臨時避難場所の札を相手に送ったときは、その意識を敵陣に向けなおすことが容易です。
上級者には臨時避難場所の札を定位置に戻して、定位置にあった札を敵陣に送る人もいますが、KH君がこれをすると自分がお手つきをするリスクがあがります。
私がKH君に推奨する友札の臨時避難場所は、左側が定位置の札に対しては「右上段外側」、右側が定位置の札に対しては「左上段外側」です。
KH君の場合、臨時避難場所に上段中央を使うのはやめたほうがよいと思います。
上段中央は、そこが定位置の札のための置き場所としておいたほうが、友札を分けて送った時にミスをしにくくなると思うからです。
私のアドバイスの主旨を理解していただけたでしょうか?
ぜひ、練習で試してみて、自分の戦略・戦術・技術として磨いていってください。
これが身に着けば、次のステップにあがれると思います。
ちなみに、先月から、私のWEBSITEの「新TOPIC」のコーナーに、「不定期連載小説」と称して、定位置などの札の配置に関する小説を掲載し始めました。
KH君にとって、何かの参考になるかと思いますので、ぜひお読みいただきたいと思っています。→ クリック!
さて、話題は変わりますが、競技かるたに関しての「参考資料」を少しご紹介したいと思います。
婦人室の練習用の札には、販売時に札と同梱されている競技かるたの解説の紙がそのままになっているので、
この間の練習で取り外してクリアファイルに別途保管したことを覚えていることと思います。
その表紙にあたる部分がこちらになります。→ クリック!
これは、ms-wordで貼り付けてあり、パスワードがかかっています。パスワードは、KH君のファーストネームをローマ字にしたものです。(以下、共通)
そして、札の配列について記載されている部分がこちらになります。→ クリック!
これは、現在のバージョンのものになります。
そして、次に示すものが以前のバージョンになります。→ クリック!
どうでしょうか?
違いに気づきましたか?
旧バージョンには、配置の事例が記載されているのです。私が学生のころ、友人が関西の大会の当時の新人が出る級に出場した時に、
複数の選手が、同音が固まっている同じような配置を定位置として取っていたので、
割と自由で多様性に富んだ関東の大学かるた会の定位置との違いに驚いたという話を聞いたことがあります。
そのころ、関東では、精文館が製造・販売していた札が公認札として使用されていたので、関西で公認札として使われていた大石天狗堂の札には馴染みがなく、
当然、その札に同梱されている解説書についても知らなかったことにもよる話であります。
(のちに大石天狗堂の札を入手したことで、解説書に記載されていた配置だったことが判明しました。)
精文館はいまでは競技用の札の製造・販売をやめてしまっているので、公認札は大石天狗堂のもののみになってしまいました。
それゆえに、関東と関西の札の違いとか、こうした同梱の解説書の話は、ピンと来ない人も多いかもしれませんが、
東西の差異がいろいろなところに残っていた時代の話です。
何かの参考になれば、幸いです。
一人練習のときに、相手陣を並べるのに、「あきわはかなしこよひもやみち…」
(秋は、はかなし。今宵も、闇路。…)と覚えやすいのでこの配置をやってみるのも一興かと思います。
では、また、三田婦人室の練習会でお会いしましょう。
草々
追伸 東会のエントリーは抽選落ちでしたね。残念ですが、大会エントリーは続けてくださいね。
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