TOPIC   "番外編"

競技時の装い

〜ベストパフォーマンスのために〜

Hitoshi Takano MAY/2016

 「競技かるた」をとる時の着衣については、過去に"Tシャツ"と "ジャージ"について書いた。多くの選手がこのスタイルで競技をしているのは、 この世界にいる人々の共通認識であろう。

 一方、この世界にいない人々は、どう思っているであろうか?
 最近では、漫画・アニメ・映画となっている「ちはやふる」(末次由紀原作)のおかげで、Tシャツ・ジャージスタイルありのイメージも もたれているが、映画のポスターをはじめ、人目を引くところでは和装が使われている。
 以前は、競技かるたをやっているというと「和服で取るんですよね?」とよく聞かれたものだが、このイメージは根強い。メディアに出る 時に和服であることが多いせいもあるだろう。
 和装を義務付けている大会もあるし、名人戦・クイーン戦は和装である。こうしたこともあり、やはり、世の中的には「かるた」=「和装」なのだ。

 さて、はたして、和装は選手のベストパフォーマンスを引き出せるのであろうか?
 名人戦・クイーン戦などでの出場選手の工夫をみてほしい。
 たすきがけは昨今よくみる光景であるし、袴の下に短く切ったジャージをはいた選手もいた。襟のところの襦袢の襟のあわせを工夫したケースも あれば、長襦袢を脱ぎなさいというアドバイスで勝利したという遠藤名人の逸話もある。種村名人には、試合で袴が破損し、修繕のための休憩時間の 延長を求めたが聞き入れられずに予備の袴を着用したという話もある。
 こうした様子を見聞きしていると、どうやら和装はベストパフォーマンスを引き出す装いとはいえないようだ。(もちろん、和装で競技をしたときの 自分自身の実感でもあるのだが。)

 対戦相手も同じ和装だから条件は一緒だといえるかもしれないが、競技者としてはベストパフォーマンスを発揮できる装いで競技をしたいのではないだろうか。
 一般のファンや海外からの目に対しては、和装は日本の伝統文化をアピールするための大きなツールであるだろう。 しかし、競技としてのパフォーマンスの追及をした場合、はたして和装がベストといえるだろうか?
 もちろん、和装は身が引き締まるという声もあるだろう。和装で取り慣れない選手が悪いという声もあるだろう。
 「参加者全員が和装で、日本の伝統競技として素晴らしい」という大会主催者の声もある。こうした声を否定はしないが、いろいろな可能性は考えてみるべきだろう。

 和装が、競技参加へのハードルを上げてはいないか?
 和装が、選手の競技環境へ悪影響を与えてはいないか?
 和装が、観戦者のみたい部分を見るのを妨げてはいないか?

 将棋の竜王戦で、初代竜王となった島朗九段(現在の段位)は、第一期竜王戦では、和装ではなくアルマーニのスーツで対局した。将棋と競技かるたでは 異なりはするが、いろいろな可能性があってもよいのではないだろうか。

 そう考えると、和装をドレスコードとした大会があるのならば、Tシャツ・ジャージをドレスコードとした大会があってもいいのではないだろうか?

 和装という伝統文化と競技の融合とは対極にある「スポーツ色」を全面におしたてた競技としてのスポーツ的パフォーマンス重視の最高峰を決める大会を ぜひ見てみたいものだ。この大会には、やはり季節として夏が似合うように思う。

 柔道の世界でも、道着の色の問題が取り上げられたことがあった。試合での白い道着に対しての青い道着の着用は、グローバル化の象徴ともいえよう。 日本は導入に反対していたようだが、見慣れてしまった今では観戦者は自然に受け入れているように思う。

 和服を着ることもパフォーマンスといえば、パフォーマンスである。日本の伝統文化というPRには最高のパフォーマンスであるといえよう。外国人には和服へのあこがれもあるかもしれない。普及のためのツボを押えた装いだろう。しかし、競技としてのスポーツ的要素のベストパフォーマンスとしては、いかがであろうか。スポーツ的要素を明確に見せるのための装いとしては、「Tシャツ・ジャージ」スタイルはわかりやすいのではないだろうか。こうしたスポーツ要素を強調して、プレイで魅せるためには、、「Tシャツ・ジャージ」スタイルの大会はわかりやすいものとして、より受け入れやすいものとして感じてくれるのではないだろうか。和服という装いに魅力を感じるのではなくプレイのスポーツ的要素である、スピード感・躍動感・超絶技巧などがはっきりわかる装いに魅力を感じる海外の選手も多くいるではないだろうか?

 本稿を「競技かるた」のグローバル化を考える上でのひとつの案として読んでいただければ幸いである。

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