また・後輩への手紙(IX)

Hitoshi Takano   Oct/2016

団体戦の壁



前 略 9月には前期試験も終了し、10月の声を聞く旅行週間ですね。学年ごとの旅行を10月という季節を感じながら楽しんで来てください。

 さて、湘南藤沢中等部・高等部の皆さんは、職域ではブロック優勝を争えるチームになりましたし、高校選手権の神奈川県予選でも、近江神宮への切符を 手にすることも夢ではない存在感になりました。
 とはいうものの、近江神宮への切符を手に入れたことはありませんし、今夏の職域学生大会のD級でもブロック決勝で1勝4敗と C級への昇級の目はつぶれてしまいました。我々教職員チームが2回戦に勝ち進んでいたら対戦できたのですが、我々が1回戦で負けてしまい、慶應同士のドリームマッチは 実現しませんでした。もし、我々と対戦していたら、ひょっとして何かが変わっていたかもしれませんが、勝負の結果に「IF」は ご法度です。?

 2年ほど前にも「近江神宮への道はるかなり!」と団体戦について書いていますので、そちらも 参照しながら、今回の手紙も読んでいただければと思います。

 まずは、決勝戦での敗因を分析することです。これが次年度に生きてきます。中学・高校は特にメンバーの入れ替わりが大きいので、チームとしての意識を高めるために、前のチームから次のチームへの記憶と意思の伝承の点からも、大切なことなのです。 しかし、「団体戦の夏」に書きましたが、敗因を個人の特定の敗戦のせいにしてはいけません。チーム全体でのそれまでの取り組みや、試合の時のチームとしての行動や意識について、客観的に判断し分析することが大事です。
 この分析にあたり、「まず、決勝戦での敗因を分析…」と書きましたが、その前にするべきことがあります。それは、決勝まで進出できたことの分析です。決勝に進出できないチームはたくさんあります。また、自分たちのチームも過去においては決勝進出など望むべくもない時代があったのです。自分たちのチームの何がよかったから決勝まで進出できたのでしょうか。本当の「まず」は、さきほど書いた敗因の分析ではなく、それまでの勝因の分析です。これは、個人の勝ちを原因としてもかまいませんが、それだけに終わらずチームとして何がよかったかをチーム作りに遡って考えてみましょう。これをせずに、いきなり敗因となると、やはり気分の落ち込みがストレートになってしまいます。よかった点はよかった点として次のチームに引き継ぐべき事柄なのです。

 さて、上記につらつらと書きましたが、みなさんが、自分たちの頭で考え、それを次年度に生かして対策を工夫することこそが、一番みなさんのチームの血肉になることです。そう考えると、私がこの手紙にあれこれ書くのは本当はよくないのかもしれません。しかし、あえて私の意見を書くことにします。それは、結構みなさんのチームの根深い体質になってしまっているおそれがあるからです。

 2年ほど前に書いた手紙でも書きましたが、全体で3勝の構造がまだまだできあがっていないように思うのです。現在では大学3年生・2年生になったコーチをしてくれている先輩たちがSFC中高で取っていたころからの課題です。そのころも、あと一歩で近江神宮切符が手に入るポジションにあり、職域学生大会でD級を抜け出せる可能性のあるチームでありました。
 そうでありながら、その最後のハードルを越えられないのが、5人全員でチームとしての3勝をあげるという点でした。
 チームの上位者2名、すなわち主将と副将への勝利の比重が大きすぎるのです。
 この2人で2勝をあげる。そして、残りの3人で1勝をあげる。それでチームが勝ち点をあげるという構図が強いのです。 これでは、2本柱の1本が苦戦していたり敗勢濃厚になってしまうと、チームの士気は著しく下がり、3勝目があがらないのです。
 主将や副将がこけても、チーム5人で3勝という戦い方をしなければ、そういう思考でがんばれるチームにならなければ、 結果は今までとかわらないのではないでしょうか。
 今すぐに5人の選手の粒を上位で揃えろといっても難しいとは思いますが、来年度の団体戦までには時間があるのですから、 この点を考えてチーム作りをすべきでしょう。
 まず、第一歩は、主将から三将までの3本柱で2勝、残り2人で1勝という構造に変えることです。そして次のステップは 主将から三将の3本で1勝しかできなくても、チームとしては3勝できるという構造にもっていくことです。
 この構造改革を成し遂げるには、個々のレベルアップは、もちろん大事なことです。それはそれで各個人の課題として、次年度 までに、級をひとつあげるなり、段位をあげるという目標を設定しましょう。A級の選手は勝利や入賞をどれだけ重ねられるかを 課題にしてもよいでしょう。とにかく、個人の課題設定と実践をやってみようということです。

 このような個別の実力アップがなされ、チーム構造が、主将・副将依存からの脱却可能になるとどういう効果が現れるでしょうか。

 大きな効果は、主将・副将への「勝たなければならない」というプレッシャーの減少です。過去を振り返ると、このプレッシャーが いい意味での緊張感を生むのではなく、負の緊張感を与えてしまっていたように思えるのです。自分が負けても、他の4人で3勝をあげてくれる という信頼感があれば、自分より強い相手にのびのびと取ることができて、よいパフォーマンスと結果を招き入れることができる かもしれません。しかし、私がなんとしてでも勝たないとという強い意識は、手をちぢこませ、お手つきを誘発してしまうことが あるのです。
 チームの2本柱を「絶対勝ってくれなければ困る」という勝利への呪縛から解放してあげましょう。

 この流れで、もうひとつお話ししておきたいのは、主将が掛け声をかけるという役割意識の問題です。掛け声リーダーは チームで役割分担を考えればいいので、何も主将だから自分がやらなければならないなどというものではありません。
 対戦相手や試合展開を見て、掛け声をかけることが勝利へのマイナス要素になるのであれば、掛け声リーダーは、余裕の あるメンバーがすればいいのです。主将が相手に集中することを必要とすることのほうが多いようにも思います。 臨機応変な対応を望みます。
 そして、何よりも掛け声のかけ方や頻度について、本当に必要かどうか見直すことも課題ではないでしょうか。私は、今の 団体戦の掛け声のかけ方は過剰だと思っています。必要最低限を見直してみるのもよいかと思います。
 我々教職員チームは、今回、あえて「掛け声なし」で望みました。目の前の試合に集中するためです。それでも、団体戦として のチームの一体感には十分でした。それぞれが、自分の役割を果たす。この精神でした。しかしながら、いかんせん、5人団体を 4人でこなすというハンデは大きく2試合とも2勝3敗でした。負けたものの2試合とも相手の主将を不戦勝としたことで、相手チームの 掛け声リーダーを不在にしたのは、こちらの「掛け声なし」作戦にはプラスになったものと思います。

 いろいろと書きましたが、私の提示した課題を自分たちなりに考えてみてください。
 それでは、また、練習場でお会いしましょう。
草 々


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