まだまだ・後輩への手紙(IX)
Hitoshi Takano May/2021
-はじめの一歩-
前 略 2021年度新入会のみなさん、入会おめでとうございます。入学式から1か月が立ちましたが、大学生活はいかがでしょうか?
コロナ禍という例年とは違う状況での大学の授業、そしてサークル活動ということで、しかも三度目の緊急事態宣言も出ている中、いろいろ不便や不自由もあることと思いますが、今後のご活躍をお祈りしています。
さて、みなさんの中には、大学に入ってから初めて「競技かるた」に触れるという方も多いかと思います。
中には、競技経験者の方もいらっしゃると思いますが、今回は大学から始める方に対して、少しコメントを差し上げたいと思います。
競技経験者の方は、今まで受けてきた指導をしっかり確認し、発展させていってください。
大学で初めて「競技かるた」を始められた方は、入学から1か月がたちました。
この競技で、世間的にはハードルが高いと言われている、百人一首の札を百枚暗記するというところはクリアしているものと思います。
歌を全部覚えるにこしたことはありませんが、下の句が書かれた取札を見て、その決まり字がすべて浮かぶようになれば、歌をすべて思い出せなくても競技には差し支えありません。
これが、一番の「はじめの一歩」かもしれません。
ただ、競技のいろいろな側面からも「はじめの一歩」を考えてみましょう。
TVやYoutube動画などで、競技の様子をみると、おそらく「払い」の動作の素早さに目をみはることでしょう。
この「払い」の技術を身体に染み込ませるのも「はじめの一歩」です。
よい「払い」のためには、よい「構え」とよい「動き」、あわせて「フォーム」と言えばよいでしょうか、これが大事です。
敵陣が左右三段ずつ、自陣が左右三段ずつ、計左右で六段あるので、12の段について、どこも払えるようなフォームを作りましょう。
先輩にフォームをみてもらい、だいたい固まったら、素振りなどで「払い」を身体に覚えこませるのです。
この「払い」をしっかりと支えるために「体幹」を鍛えることが大事です。
「競技かるた」において、身体的なトレーニングをするのであれば、「体幹トレーニング」が「はじめの一歩」です。
そして、競技かるたは、トーナメント戦も多く、一日に何試合もとるので、スタミナを必要とします。
スタミナを維持するための基礎的なトレーニングも大事です。これは人それぞれですが、ランニングやジョギングなどをする人もいます。
数試合続けると、下半身に疲労がでます。いわゆる足腰の強化につながるトレーニングがよいと思います。
「払い」に使う動作には、関節や筋肉を柔らかく稼働させることが必要です。ストレッチなどもお勧めのトレーニングとなります。
ここまではよろしいでしょうか。札を覚え、払いのための基本を学び、次には、いわゆる戦略・戦術に関わる「はじめの一歩」になります。
わかりやすいところでは「定位置づくり」が「はじめの一歩」でしょう。自陣の札の並べ方の原則を決めるのです。
一般的に言われる基本は、「自分に取りやすく相手にとりにくい配置」です。
これは、「攻めかるた」・「守りかるた」というポリシーとも関わってきます。
往々にして、「自分にも相手にも取りやすい配置」だったり「自分にも相手にも取りにくい配置」になったりします。
要は「取りやすさ」・「取りにくさ」と「自分」・「相手」のバランスです。
定位置は、自分自身が競技の経験を積んでいけば、徐々に変わっていくものです。
そして変えていっていいものですから、「とりあえず」くらいのつもりで、先輩のアドバイスを聞きながら「定位置」を決めていってください。
「攻めかるた」・「守りかるた」といったポリシーも、最初は先輩から教わるのですから、その思想とリンクしている定位置も先輩の教えを基礎に組み立てていけばよいと思います。
大学かるた界での、基本の教えは「攻めかるた」です。みなさんもこの思想を学ぶことから始まると思います。
端的に言えば、相手陣を攻めることの優位性は、攻めて敵陣の札を取れば、自陣から札を相手に送れるという「利」があるからです。
自陣の札を守って取れば、敵陣をとった時と同じように自陣から一枚札を減らすことはできますが、敵陣に札を送ることはできません。
子供の頃遊んだ「50音」のかるた(いわゆる「犬棒かるた」)は、札をたくさん取った人が勝ちというルールで遊んだと思いますが、
「競技かるた」は自陣の札を早くなくした人が勝ちというゲームです。
前者が「足し算」のゲームだとしたら、後者は「引き算」のゲームです。
このあたりの感覚を、先輩から学び、先輩の伝える「攻めかるた」をやってみてください。
だいたい、以上のようなところが「はじめの一歩」です。
「はじめの一歩」は基礎の基礎です。これを自分なりに鍛えていって、自分自身の「競技かるた」の判断基準である「ものさし」を持ってください。
その「ものさし」で、競技をはかって、応用にはいってください。
いきなり、自分独自の考え方でスタートすると、それは遠回りになってしまいます。
先輩の言うことは聞かずに、一から自分で考えるということも、試行錯誤することになり時間はかかってしまいますが、悪いことではありません。
しかし、大学時代という限られた時間の中で上達しようとすれば、時間がもったいないと思います。
囲碁や将棋に定石・定跡という先人の知恵があります。競技かるたで先輩に学ぶということはそれと一緒です。
先人の知恵は、有効に使わせてもらいましょう。そして、その知恵や知識を、自分の経験の中に落とし込んでください。
「腑に落ちる」という言葉がありますが、この経験をしないといろいろな先輩の教えは自分のものにならないのです。
「守破離」という言葉がありますが、まずは基礎をきっちり学び、基本を忠実に守り、それが身につき、一定のラインを超えたならば、「破」「離」に進んでください。
コロナ禍が収束したら、みなさんと一度お手合わせしたいと願っています。
草 々
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